堤氏復帰 第二話
さて静けさを取り戻した円明寺(=油川明行寺)。奥瀬善九郎は己がいつも使っている専用の和室にてくつろいでいる。寺の中には庭があり、そこは建物で囲まれるように存在する。池は雪に閉ざされ、横にある松の木は藁で覆われて円錐の如くである。
火鉢に体をあて濃い目の茶こそ飲めど、やはり寒い。棒で炭をつつき空気の通りをよくし、またあるときは目をつむり無を楽しむ。
……奥瀬は外ヶ浜代官という役目から外され落ち込むかと思いきや、逆に肩の荷が下りたようで清々している。……ではあるが、実際に裏で指揮するのは己に変わりない。ただし今は一介の油川城主でしかない。さまざまな混乱を乗り越えて油川を守ってきたし、これからもそうであるのは変わりなく。表の役割も信頼ある人物に任せることができた。一月十一日の騒動を意図的に起こし、事がおさまるときの絵図も予定通り。あとはこれを既成事実化するだけ……。
そんなことを考えていると、縁側より妹の妙誓尼がやってきた。庭に向けて開け放たれた襖より顔を出す。そして呆れたように言うのだ。
「はあ……兄上は温まりたいのか寒いままでいたいのかわかりませぬの。」
火鉢で温まりつつも、外気が容赦なくはいてくる状態。庭こそ見て楽しめるだろうが、今は冬である。粗雑な麻の着物を何枚も重ね着しているようであるが……ただし値のはる装束を着けぬところは兄上らしい。奥瀬は妹に言う。
「妙、せっかく楽しんでいるのだ。つべこべ言うな。」
“妙”とは妙誓の昔の名前。出家前は奥瀬妙と言った。妙誓はわざわざ言い返さず兄の横に座り、一緒に火鉢で温まりだす。そこへ遅れてやってくるはずの者が一人。これは妙誓も知っている人物……それも死んだはずの。




