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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第三章 安東愛季、津軽征討を決断する 天正七年(1579)雪解
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堤氏復帰 第二話

 さて静けさを取り戻した(えん)明寺(めいじ)(=油川明行寺)。奥瀬善九郎(おくせぜんくろう)は己がいつも使っている専用の和室にてくつろいでいる。寺の中には庭があり、そこは建物で囲まれるように存在する。池は雪に閉ざされ、横にある松の木は藁で覆われて円錐(えんすい)の如くである。


 火鉢に体をあて濃い目の茶こそ飲めど、やはり寒い。棒で炭をつつき空気の通りをよくし、またあるときは目をつむり無を楽しむ。  




……奥瀬は外ヶ浜代官という役目から外され落ち込むかと思いきや、逆に肩の荷が下りたようで清々している。……ではあるが、実際に裏で指揮するのは己に変わりない。ただし今は一介の油川(あぶらかわ)城主でしかない。さまざまな混乱を乗り越えて油川を守ってきたし、これからもそうであるのは変わりなく。表の役割も信頼ある人物に任せることができた。一月十一日の騒動を意図的に起こし、事がおさまるときの絵図も予定通り。あとはこれを既成事実化するだけ……。



 そんなことを考えていると、縁側より妹の(みょう)(せい)尼がやってきた。庭に向けて開け放たれた(ふすま)より顔を出す。そして(あき)れたように言うのだ。


「はあ……兄上は温まりたいのか寒いままでいたいのかわかりませぬの。」



 火鉢で温まりつつも、外気が容赦なくはいてくる状態。庭こそ見て楽しめるだろうが、今は冬である。粗雑な麻の着物を何枚も重ね着しているようであるが……ただし値のはる装束を着けぬところは兄上らしい。奥瀬は妹に言う。


(たえ)、せっかく楽しんでいるのだ。つべこべ言うな。」



 “妙”とは妙誓の昔の名前。出家前は奥瀬(おくせ)(たえ)と言った。妙誓はわざわざ言い返さず兄の横に座り、一緒に火鉢で温まりだす。そこへ遅れてやってくるはずの者が一人。これは妙誓も知っている人物……それも死んだはずの。


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