堤氏復帰 第一話
奥瀬氏の事に関しては菩提のある浄満寺に残っているかと思いきや、津軽為信が油川を制圧した後に潰されたのでほぼ残っていない。なので前章で書いた油川での騒動が本当の事かはわからない。一方で滝本重行の痕跡は外ヶ浜地域にしっかりと残されている。何よりも最期を迎えるのは表題にある六羽川での合戦ではない。……ということは一度外ヶ浜から追い出されたものの、不本意なことで再び舞い戻る。それは油川の町衆にとっても嫌な事。……この話は最終章に譲る。
天正七年、旧暦一月十一日に起きた騒動。奥瀬善九郎は外ヶ浜を統括する代官であるので、事の次第を主君である南部信直へと伝えた。文章には滝本の罪状が数多く書かれ、意図的に嘘も散りばめられた。田名部(むつ市)へと船で逃れた滝本であったが、そのようなことが起きていようとは思いもよらず。結果として新たに土地があてがわれることはない。これまで保っていた力は、なんとも薄っぺらなものだった。剥がされてしまうと、何も残らない。
津軽為信を倒すという目的で、様々な者らを糾合し運命に抗ってきた。しかし……すべてに見放された。南部家にさえも。だが……滝本という男は、まだ諦めなかった。とても寒い北の土地ではあるが、ここで人生を終えるという選択肢もあったろうに。すべての揉め事から解放され気は晴れやかに、山に登ればきつい硫黄の匂いで全てを忘れることもできるだろう。
だが、滝本は諦めない。宿敵津軽為信を討ちはたすのが己の役目。これを果たすべく行動しなければならぬ。そこで……滝本はある決断を下す。
”出奔”
南部家より抜け出し、新天地に可能性を見出す。
同じくして滝本が外ヶ浜より追い出されたことによって、もう一つの事態が動き始めた。油川で起きた騒動により、奥瀬自身も責を負うこととなった。これは彼の想定していたところである。




