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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第二章 滝本重行、外ヶ浜より追放される 天正七年(1579)正月
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町衆の勝利 第四話

 奥瀬善九郎(おくせぜんくろう)、妹の暴言を聞きはなはだ怒り狂う。いままで己が続けてきた苦労を一切ないことにさせられた。どうにかして滝本を抑えようと説得したり、町衆を鎮めようとなだめてみたり。その努力をまさかの妹が無駄にした。扇動した。それでも奥瀬は……なんとか高まる鼓動を抑え、頭にくることやまやまだが……口の片方がいびつに曲がりつつも……教え(さと)すように妹へ話し出す。




「お前な……何のために(えん)(めい)寺に入れたと思っている。菩堤(ぼだい)のある(じょう)(まん)寺ならばなんとか抑えがきくから良いが、だからこそ円明寺にいれたのだぞ。それをだな……自ら盛り上げてどうする。」



 (みょう)(せい)尼は反発した。


「かといって町衆の感じているところはまことです。無理やり押さえつけて何が変わるというのですか。」




 (よど)みなく(こた)える(さま)に奥瀬は我慢ならぬ。啖呵(たんか)がうまく、歯切れがよい。この力で人々は魅了される。それは兄であるので重々承知している。しかしながら……己の意に反するところになれば、これほど気に障るものはない。殴りかかりたい。そこにある火鉢の棒で殴ってやろうか。沸点は暴発する寸前まで上がっていく……隣で静かに座す小野善右衛門(おのぜんえもん)も恐れおののき、少しだけ後ろに下がった。


 しかし妹は……妙誓は、引き下がらぬ。堂々と兄に対峙したまま。






   …………………………








 ……すると、何か(はじ)ける音がした。奥瀬の中で何かが変わった。怒りがこらえきれなくなったわけではない。……それは、まさかの手段である。



 奥瀬は急に静かになり、怒りの表情はなくなった。その代わりに……すべてを悟ったような目つきに変わる。何か憑物(つきもの)がおちたような、不思議な感じ。そして妹にこう言ったのだ。




「もっと()き付けろ。」


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