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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第二章 滝本重行、外ヶ浜より追放される 天正七年(1579)正月
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町衆の勝利 第三話




「ただし、皆々の言うこと。もっともなことである。」



 尼の(みょう)(せい)はこのように発言した。誰もが意図するところを知れぬ。寺に(つど)う町衆、仲間うちの僧侶ともに。



「滝本の行いは油川(あぶらかわ)のためにならぬ。各々の生業(なりわい)があるというに、いずれそれを無視して調練とやらに駆り出されるだろう。滝本は武の力にて平和をもたらすと(のたま)うが、その彼こそが油川の平和を脅かしている。」




 ……町衆は、これは言い得て妙だと喝采を送った。“そうだそうだ”と口々に言い合い、妙誓に賛同の意を示した。そのうねりは他の寄り合いにまで伝わり、“あの妙誓尼がこのように言った。これはもう滝本を追い出すための名目を得たも同じ” ということで町衆の間でとある動きをもたらした。正月早々であるが、武具を揃えるために町衆らは弓槍鉄砲を揃えようと商家を訪ねた。商家側も気持ちは同じなので、格安で売ってしまう。中には半値以下で渡してしまう者もおり、油川は不穏な空気に包まれる。




 ……当然この事態は油川城主の奥瀬善九郎(おくせぜんくろう)にも上げられ、これに至った経緯も併せて伝えられた。すると扇動したのはまさかの己の妹だという事実。これにはさすがの奥瀬も激怒した。“いつも平和(へいわ)()に事を収めようと努力しているのに、それをお前はぶち壊してしまった。今日だって小野善右衛門(おのぜんえもん)と城内で話し合っていた時に……今すぐに呼び出せ”


 

 善右衛門も困惑を隠せない。しかしあの尼ならばやりかねないと納得してしまうところもある。“(あま)小僧(こぞう)”とは言い得て妙だと、つくづく思う。


 さて無理やり妙誓は油川城に連れ出されたが、謝る気は一切ない。それどころか兄である奥瀬に対して罵りまくる。




 “なぜ兄上は滝本にそこまで卑屈(ひくつ)なのですか。どこまで兄上は馬鹿なのですか”


 円明寺えんめいじ妙誓みょうせい

正しくは明行寺みょうこうじ妙誓みょうせいとも。実在の人物である。

個人的には”北の井伊直虎、尼小僧”と宣伝したい気持ち。


油川が津軽為信の領土となってから寺は無理やり弘前へ移されることになった。

他の僧侶らがだまって弘前へ移る中、彼女だけが建物のなくなった寺の跡地で簡素な庵を設けて抵抗した。そして雨風入るその庵で死に果てたのである。その信念は現在の明誓寺みょうせいじへと受け継がれる。


なお商人の小野おの善右衛門ぜんえもんも実在の人物なので、尼小僧と小野政次の関係のように思えたりもする。大変感慨深い。

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