次の標的 第四話
雪の中、滝本の配下が一軒一軒訪ねるたびに噂が立つ。
“彼らは何用で家々を訪ね歩いているのか”
“なんでも、住居録でも作るらしいぞ”
“なぜ?これまでなくても、やってこれたではないか”
“なんでも……どれだけの人数を兵として出すことができるか調べたいらしい”
油川の町衆、冬といえども行きかう人は絶えず、各々の商店へ物を買いに行くのはもちろん、噂を広めるのも得意である。家屋敷にフミグツ(雪用の靴)を脱いで上がれば、火鉢のそばで耳よりの話を語り合うのだ。
“話に聞けば、滝本とかいうやつは浪岡衆を虐め切ったらしいぞ。何人かは船で遠くへ逃げたらしい”
“それはまことか、私が聞いたところでは逃げる途中で殺されたと聞いたが。
本当の話に尾びれが付き、うその話も真実のように語られる。そしてしまいには滝本が大悪人のように語られ始めたのだ。
ならばと町衆、滝本は我らに危害を及ぼそうとしているのかと思い、名のある大商人である小野善右衛門へ願い出て、滝本へ訊ねてみてほしいと頼んだ。善右衛門は快く承諾し、滝本のいる熊野宮へ茶器一式を持って参上する。それはとても寒い日の昼間の事、“これから良しなに”ということで善右衛門は滝本に首を垂れる。すると滝本はこう問うた。
「うむ、せっかくなので武具の購入をお主よりしたい。弓や槍、鉄砲をいくらで売れるか。」
善右衛門は商売用の笑顔のまま値について答える。
「はい。弓や槍はさほど変わらぬ値段でしょうが、鉄砲に関しては十石から。弾薬などは仕入れの量によりまする。」
滝本はそう聞いた途端、険しい顔をしだした。
「……これはお前らを儲けさせるために聞いているのではない。油川を守るためでもあるのだぞ、鉄砲であれば五石で卸せ。弾薬とて調練で大いに使うことになるのだ。」




