次の標的 第二話
さて外ヶ浜からほどんとの浪岡衆がいなくなったので、滝本重行の調練すべき人がいなくなった。仮に横内城をせしめているといえど、私兵というべき存在はごくわずか。そこで外ヶ浜を統括する役目である奥瀬善九郎へと申し出た。
火鉢の光る一室、油川城内の茶室にて。滝本は奥瀬がくつろいでいるところへ突然に押しかけた。立ったまま一方的に話し出す。
「ひとまず、油川に侍る兵らの調練を始めたい。合わせて町衆にも参加を呼び掛ける。」
滝本は真剣な顔でこのように訴えてきた。座る奥瀬はというと、当然ながら拒否したい。だがこちらに負い目がある。立場は己の方が上なのだが、滝本の言うとおりにしていればおそらく浪岡御所は陥落しなかっただろう事実がある。だが……兵らは良いとして、町衆を……奴らは一筋縄ではいかんぞ……いや兵らとてあのように厳しくやられれば、同じ油川に住む者らなのだから大きくつくぞ。
奥瀬はこのように裏で思いつつも面には出さず、滝本に対しこういった。
「滝本殿……いまや雪が舞い始めた。この油川も次第に積もってきておる。そんな中やるというのはな……。」
滝本は奥瀬をにらみ、さげすむ。こいつはまたはぐらかそうとしている。浪岡衆を外ヶ浜から引きはがすように仕組んだのもお前だし、加えて戦を嫌う軟弱者。お前は本当に武士か、南部家臣か。何を言おうと、また勝手にやらせてもらうぞ……。
そんなことを考えているだろう滝本を見あげ、奥瀬はやるせなさと少しだけの憐みを覚えた。
お前……触れてはいけないところに手を突っ込もうとしているぞ。私とて手を焼いているというに……お前なんぞ何ができようか。心が通い合っていた大光寺の民、従順で逆らうことの苦手な浪岡の民とは違うのだ。油川の民というのは……口をとことん出すし、それに寝技も知っている。一筋縄ではいかんぞ。
滝本は奥瀬が何を考えているかは知らぬ。待ち受ける運命もさらに知れぬ。




