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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第一章 北畠残党、秋田へ向かう 天正六年(1578)晩秋
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限界 第四話

 結局、逃げるのは二十人ほど。後は最初から残ると決めていた者がいれば、逃げると決めていたものの怖気づく臆病者もいた。口だけ威勢よく、いざとなれば立ち上がらぬ。……しかれども、それも立派な選択の一つ。互いに罵ることはなく、恨むのは己らの運命のみである。


 ……心が激しく動き、鳴り止まぬ。後ろに追手はいないか前に待ち伏せていまいか、耳をすませ目を見開く。どうも敵方はいないようであるが、鳥のささいな動きもまるで人がこちらに向けて弦を弾いているかのように思えてくる。






 暗闇の中、何事もなく舟四艘は川を下りゆく。ふと気付けば周りに生える葦の向こう、人為的に盛られた台地が見えた。周りはぬかるんでいる湿原のようだが、そこだけは唯一踏み固められているようだ。その場所は……旧津軽郡代、亡き石川高信公登場以前の拠点だ。反乱軍は津村氏を攻撃し、見事陥落させた。南部という大勢力に対し恐れることなく戦った。対して我らは……遠くへ逃げる。




 いつしか前方にかすかであるが光が見えた。(しじみ)(かい)村という寂れた漁村であるが、大船を留めておくのは油川より優れているらしく、経験豊かな者ほど特に、大きな船をこちらの湊に寄せておく。……すでに御所号の北畠顕氏は油川より陸路で先に乗りこんでおり、同じく目立った妨害を受けなかったらしい。




 船上の行燈(あんどん)が浪岡衆を出迎える。このまま出航すればもう外ヶ浜に用はない。早く出せよ出せよと船頭に催促する。“あいわかった”と声をうならすと、船は帆を広げ海風を万遍なく受ける。波に任せてしまうと油川へ行ってしまうので……蜆貝村より直接北へ。次第に西向きに偏っていくが、十分に油川より遠い。さらに遠くなる。このまま三厩(みんまや)まで進みゆけと誰もが願った。……こうして無事に外ヶ浜より去ることができたのである。


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