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第8話 デート

 シャスティングの翌日。

 あの後、バイトを優先した為に、マリアとろくに話しをすることが出来なかった。

 本当はもっと一緒に居たかったが、生活費が掛かっているため疎かにするわけにはいかない。


固金(こがね)、あんた大丈夫?」


 登校した後、いつの間にか眠っていたらしい。

 話し掛けてきたのは、黒髪黒目のポニーテール美少女だった。

 小学校からの幼馴染みと言うか腐れ縁の”火野祭り(ひのまつり)


 高校入学と同時に、地元を離れて独り暮らしを始めたのだが、何故か同じ高校に祭りが居て、しかも同じクラス。

 しまいにはバイト先も同じで、住んでいる場所もすぐ近くだった。(同じ型の隣のアパート)


 偶然てあるんだなー。

 こいつがストーカーなわけないしな。


 ちなみに、俺の初恋の相手だ。

 本人には絶対言わないが。


「ちょっと時差ボケが」

「時差ボケ?」

「ああ、いや、すまん寝ぼけてるみたいだ」


 昨日は、異界に三~四時間居た。

 戻ってきたとき時間が経過していなかったため、体感時間が長くなっている。

 精神の消耗もあって、バイト中は眠気と戦っていた。

 五時半から八時までのバイトが、実質九時半から十二時までになったようなものだ。


 本当に疲れた。


「固金さん。おはようございます」


 天使の声が聞こえた。

 じゃなくて、最愛の彼女の美声が・・・・本当に寝惚けてるな俺。


「おはよう。マリア」


 ただの挨拶に幸せを感じる。


「今呼び捨てにした?あの固金が?」


 祭りが何か言っているが、頭がポワンとして考えるのが面倒くさい。


「・・固金さん。明日、私とデートしませんか!」


 一気に目が覚めた。


「マリア様にとうとう男が!キャーー」

「マジかよ。嘘だろー!」

「私達の女神が・・・」


 嫌でも周りの声が聞こえてくる。

 やっぱり、マリアは好かれてるな。


 あまり目立ちたくないのだが、変な虫が近付かないように、ここは一つ見せつけておくか。


「僕達は付き合っているのだから、デートくらい構わないよ」


 クラスのみんなに聞こえるように宣言した。


「・・・・・・う・・そ・・・・でしょ・・・・」


 祭りは、茫然自失となっていた。

 もしかして、レズなのか?




 俺は、授業が始まる頃になって、今更恥ずかしくなり悶絶していた。

 クラスの人達も勉強どころではなさそうだった。

 特に、マリアが。


「デート♡デート♡デートー♡」


 授業中何度も歌い、何度も先生に怒られていた。(女教師に)

 流石天然。


              ☆


 次の日は祝日。

 朝から学校の校門前で待ち合わせした。


 ・・・・デートプラン・・全く考えてなかった。

 以前何かで、デート中に喫茶店などで休憩をとると、女性は、良い思い出として記憶し易いと聞いた気がする。

 取り敢えず喫茶店に行くことは確定だな。


「お待たせしました」


 待ち合わせ場所に現れたマリアは、とても綺麗だった。

 肩のあたりがフワリとなった純白の上着に、紺色のロングスカート。

 両耳に金のイヤリング、胸元には、()()銀のネックレスが付けられていた。

 見惚れていた所に、急に冷や水を浴びせられた気分だった。


「・・それって」


 彼女の胸元を凝視しながら、問わずにはいられなかった。


「固金さんのエッチ♡」


 違う!確かに素敵だと思ったけど。


「冗談ですよ。これ気に入ったので付けて来たんですけど・・・・嫌でしたか・・」


 マリアが付けていたのは、触れた者を異界に連れ去る呪いのネックレス。


「いや、よく似合ってるよ」


 嘘ではなく、本心からの言葉を贈った。

 そうだ、もう終わったんだ。

 

 まだシャスティングを行う者が居たとしても、二度とマリアを孤独にしなければ良いだけ。

 マリアが居る限り、俺が孤独になることもない。


 何も心配する必要なんて無いんだ。

 それよりもデートだ。


「マリアは、どこか行きたい場所はあるか」

「ハイ!私、固金さんの家に行きたいです!」


 いきなりのお家デートだと!!


「えっと、それでいいの?」

「是非、お願いします!!」


 満面の笑みに押し切られて、俺は彼女を自宅へと案内した。


           ☆


 俺が住んでいるのは、1LDKのアパートだ。

 俺の部屋には何も無い。

 生活に必要な家電や布団位しかない。


「ここが、固金さんの住んでいる場所」


 マリアは、暫く無言で部屋の中を見回していた。


「あの、お母様は?」

「母さんは、病院で入院している」

「ご病気ですか?」


 将来を彼女と過ごすなら、伝えて置くべきか。


「昔、父さんがプレーヤーとして負けた話はしたよね」

「ハイ・・・」

「・・・負けたら死ぬだけじゃないんだ。誰も父さんの事を覚えていなくて」


 それが、十年以上も復讐を忘れられなかった理由だ。

 父さんを死なせた罪への罰だと思った。


「父さんと母さんは、純愛婚だった。けど、父さんの記憶が亡くなった事で、母さんにとって俺は、父さんとの子供ではなく、いつの間にか妊娠した子供になってしまったんだ」


 突然、母さんは俺を恐れるようになって・・・


「父さんが消えた日に、母さんは精神を病んで、それからずっと入院生活だ。その後、母方の祖父母に育てられたけど、義務として仕方なくって感じだったな」


 昔は、二人とも優しかった。

 父さんが消えた後は、どこの馬の骨とも分からないクズ男に非道な真似で孕まされて出来た孫という認識だったのだろう。

 それでも、理不尽な真似はされなかった。

 二人の優しさを知っていたからこそ、以前よりも冷たいと気付けただけだ。

 本当に、人間が出来た祖父母だった。


 家族の誰も悪くない。

 悪いとすれば、それは俺自身だ。

 勝手に愛されていないと思い込んでいた、身勝手な俺。


「家族に申し訳なくて、高校入学をきっかけに一人暮らしを始めたんだ」


 俺が出て行くと分かったときの二人の顔は、今でも忘れられない。


「特待生として学費は免除されているけど、家賃は出してもらっている。生活費は、自分で稼がないといけないから本屋でバイトしているんだ」


 学生を優遇してくれる仕事場なので、とても有難い。


「そう・・なんですか・・・・・・お金に困っているんですか?」

「えっ、ああ・・・うん」


 まさか、貢ぐとか言い出さないよな。




「じゃあ、私と一緒に暮らしませんか?」




「・・・・いや、それはさすがにマズイ」


 何を言っているんだ、この子は。

 予想の斜め上をいったよ。


「ここを引き払えば、家賃がそのまま手に入るじゃないですか」

「そうなったら祖父母に、もう家賃は払わなくていいと報告するよ」

「むう~、私一人暮らしだから部屋は余っているのに。固金さんは真面目ですね」


 こいつ、二人きりで同棲するつもりだったのか!

 願ったり叶ったりだが、学校にバレたら間違いなく退学だ。

 高校くらい卒業して置かないと後々困る。

 マリアを養っていけなくなるかもしれない。

 金銭面で苦労させたくないんだ。


「そろそろ他の所へ行こう」


 これ以上ここに居たら、今度は何を言い出すか分からない。


 部屋を去る間際、チラリとテーブルの上を見る。

 そこには、ハンティングギアが置いてある。

 ネックレス同様、アレもこちら側に残った。


 心がズシリと重くなる。


 シャスティングは、もう終わったんだ。

 この二日間、そう何度も自分に言い聞かせていた。


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