第7話 帰還
シャスティングは終わった。
この忌々しいゲームから、とうとう解放されるんだ。
ずっと、このゲームに勝つ事だけを考えていた。
明日からは、別の生き方が始まる。
どうすれば良いのか、全く分からないが。
「終わったんですね。固金さん」
「ああ、終わった。勝てたのはマリアのおかげだ」
「私は、打ち合わせ通りに動いただけですよ」
打ち合わせというのは、ワープによるマリアの奇襲だ。
”ワープ”は、自分の駒一体をプレシャス専用陣地以外で、自分陣地から相手陣地へ、もしくは、相手陣地から自分陣地へ移動させる効果だ。
使用条件に当てはまるのがマリアしか居なかったが、最初からプレシャス駒を攻撃に用いることで、相手の意お表を突くことが目的だった。
いくつか用意していた切り札の一つ。
極力使わないつもりだったが。
待機室で、彼女に剣術の心得が有ると聞いたので、一応戦術に組み込んだというだけのものだった。
本当に、パートナーが彼女で良かった。
でなければ、負けていたのは俺だったかもしれない。
気付けば、見つめ合っていた。
鼓動が速くなる。
頬に熱を感じる。
俺は、誰かを好きになる感覚を知っているつもりでいた、だけなのかもしれない。
初恋は、小学生の時だったが、あの頃より、ずっと温かいものを感じる。
「固金さん♡」
マリアの声音が変わる。
さっきよりも、心臓が速くなる。
『嫌だーーーーー!!!』
ついさっきまで殺し合っていたのに、すっかり存在をわすれてしまっていた。
笑った顔の面に、灰色のピエロの格好をした男が、ゲームフィールドへ降りる。
同時に、先程まで奴がいた方の門が開く。
巨大な門の中から、巨大な骸骨が現れる。
骸骨の右手には、ナイフが握られている。
ナイフと言っても、上半身だけで四メートルある骸骨が持っているからナイフと捉えているだけだ。
実際には、ナイフの形をした巨大な湾刀だ。
『・・・・た、助けて。何でもするから。アンタの奴隷になっても良いから!だから助け・・・・・・で・・・』
何故か俺に懇願してきた。
途中で骸骨がグレーの背中にナイフを突き刺し、さっさと門の内側へと連れ去ってしまう。
「あれが・・・」
「ああ、父さんの時と一緒だ」
十年以上前、俺がネックレスを拾って、父さんがプレーヤーに選ばれ、そして負けた。
実力差があり過ぎて、一方的に、必要以上に俺や駒をいたぶって、グレーは笑いながら勝利した。
父さんの最後の言葉は、今でも良く覚えている。
「気にするな。父さんはお前を、恨んだりしないから」
あの頃は、自分は愛されてないと思い込んでいた。
父さんの最後が、俺の誤解を解いてくれた。
自分は、愛されていたのだと信じる事が出来た。
「俺は父さんみたいに、誰かを愛せているのかな」
自信は無い。
それでも彼女を、マリアを大切にして生きたいと思う。
再び見つめ合う俺達。
自然と顔が近づいていく。
その時、視界が白く染まった。
☆
目が色を認識出来るようになると、自分が学校の裏庭に居る事に気づいた。
確か向こうに行く前は、既に帰路についていたはず。
五時半からバイトだったので、急いでいたはず。
裏庭にある時計を見る。
「向こうに行ったときと同じ時間か」
前回は戻ってきた後、茫然自失としていたからな。
「固金さーーん!」
「うわっ!」
マリアが急に抱き付いてきた為に、二人で転んでしまう。
転ぶとき、胸元に何か柔らかい物が当たった気がする。
十センチ程離れた位置に、お互い横向きに倒れていた。
無言のまま、三度見つめ合う。
マリアが愛しい。
心の中で自然と紡いでいた言葉。
だから、マリアの次の言葉に驚く。
「・・・固金さん。私と、付き合ってください」
「・・良いよ」
気負いなどなく、自然体で返事をしていた。
有るべき場所に治まった。
そんな気がして仕方がない。
この日、俺に彼女が出来た。
その後、俺はバイトに遅刻しそうになった。
まだまだ続く予定です。