第4話 ゲーム開始
俺とマリアは、ゲームフィールドへと戻って来た。
『では、駒のセッティングをお願い致します』
グレーの声が聞こえただけで憎悪が燃え上がる。
「それじゃあ、行ってきます」
「ああ、気をつけて」
マリアの声が聞こえると、一瞬で鎮火した。
結構単純だよな、俺も。
長方形のバトルフィールドは、プレーヤーのスタンバイ位置から見ると穴状になっている。
長方形の横がそれぞれのプレーヤーの位置で、七点五メートル、縦が十五メートルだ。
フィールドの内、手前の半分の面積が自身の陣地となり、その中に自由に駒を配置出来る。
相手陣地に、自身の駒は配置出来ない。
勝敗を決するプレシャスの駒は、専用の陣地があり、プレーヤーの目の前に最初から設定されていた。
プレシャスの陣地は、一平方メートルだ。
「スタンバイ」
マリアがキーワードを発し、陣地へと転送される。
俺の位置からは見えないが、マリアの格好は、学校の制服からシャスティング用の衣装へと換わっている。
あらかじめ待機室でマリアが選んだ物だ。
青を基調にした、騎士を想わせる長袖ミニスカート。
その上に、銀色の鎧を身につけている。
鎧と言っても、実際に金属で覆われているのは首から股間にかけてで、肩は露出している。
後は、軽量の手甲と甲脚と長剣を一振り身に付けているだけだ。
全身鎧の甲冑タイプもあったのだが、単純にマリアが重みで動けなくなるのと、「可愛くないから嫌です」と言われたので不採用となった。
出来ればスカートは、もう少し長くしてほしかった。
ちなみに、動くときに髪が邪魔になるので、マリアはポニーテールにしている。
『セッティング』
グレーが先に駒をセッティングした。
基本的には、後でセッティングした方が有利だ。
相手の駒の位置と種類によって、効果的な位置に変更する事が出来るからだ。
グレーが先にセッティングしたのは、油断やミスではなく、ルール上のハンデだ。
俺は、今日初めてシャスティングをプレーヤーとして行う。
それに対して、グレーは複数の試合経験を仄めかしていた。
初心者と経験者の試合なのだから少し位のハンデがあるのは当然だ。
グレーの駒は、全て空の駒だった。
しかも、赤色で統一されている。
乱戦になったとき、区別しやすくする為だろう。
あの時と同じか。
おかげで勝率が上がった。
「セッティング」
ハンティングギアを起動させ、駒を配置する。
当初の配置のままセッティングする。
狼の駒ガロンを前に、斜め後ろに鷲の駒ファル、後方マリアの近くに鯨の駒ボエルを配置する。
ガロンとファルが攻めで、ボエルが守りだ。
本来、駒に名前を付ける必要は無い。
ハンティングギアにもそのような機能はない。
わざわざ名前を付けたのには、もちろん意味がある。
駒一体一体のイメージを、少しでも明確に認識する為だ。
シャスティングに置いて、最も重要な要素と言っても良い。
何故なら、駒を動かすのに必要なのがイメージだからだ。
駒の動きを正確にイメージしなければ、まともに動かす事が出来ない。
シャスティングは駒を操作して、相手のプレシャスを先に破壊した方が勝者となる。
プレシャスの駒になっているマリアが、即死レベルのダメージを受けても死にはしない。
それ相応の痛みはあるが、ゲームが終われば何事も無かったように元に戻る。
経験者としてそれは知っている。
マリアを傷つけさせる気など毛頭ないが。
向こうは槍状の陣形。
駒の武器は騎槍タイプで統一。
三体で、確実に一体ずつ潰す作戦か。
『フフフフフ・・・失礼。あなたが選んだ駒を見て、つい笑ってしまいました』
こいつは、あの時と同じ事を言う気か。
進歩が無いな。
『駒は、タイプを統一するのが基本なのですよ。初心者であるあなたには理解出来ないかもしれませんがね』
走力に優れた駒と、翼を持った駒に、人魚のように足が尾びれになった駒。
それぞれ、駒の動かし方が全然違う。
操作のしやすさで言うなら、奴の言い分の方が正しい。
初心者である俺なら尚更だ。
だが、戦術が広がるというメリットもある。
さっきの言葉は、こちらを揺さぶる為の、奴の常套手段だ。
不安や疑惑を煽り、駒を動かすイメージを阻害する。
ゲームが始まった後も、隙を見てネチネチと言ってくる気だろうな。
『カード展開』
「カード展開」
半透明の四角い光が、目の前に二十枚浮かぶ。
向こうから俺が選んだカードの効果は分からない。
ただし、カードの色は分かる。
奴のカードは赤。
向こうも俺が青を選んだ事に気付いているだろう。
赤のカードは、攻撃に特化した物が多い。
緑のカードは、相手の駒に作用する物と、回復効果が多い。
青のカードは、トリッキーな効果が多く、使い所が難しい。
カードには使用条件があり、三十秒ごとに一枚使用出来る。
六十秒経ってから二枚同時に使用する方法もある。
ただし、ゲーム開始から何秒経ったかは体内時計で判断するしかない。
時計は持ち込んでいるが、ゲームが始まれば視線を外して確認している余裕などない。
『スタンバイ』
奴も、プレシャスの駒を配置した。
長槍を持ったグレーと同じ姿の駒を。
『「ディード」』
駒に五感をリンクさせるキーワード。
これで、全ての準備が整った。
フィールド中心の上空に黒い炎が現れる。
揺らめく炎は時折、髑髏のようにも見える。
あれが落ちたときが、試合開始の合図。
炎は徐々に速度を増し、地面にぶつかり、弾けて消えた。
ドオンという音と共に、グレーの駒が動き出す。
シャスティングが始まった。