第34話 進化フローズヴィニトル
結果的に言えば、ラテルの自爆は無駄に終わったように見えるだろう。俺にとっては、それによって得た情報の方が有用だ。メダルを二枚消費させたしな。
エメラルドには、気絶させるという戦術は取れない。なんのスキルか分からないが、気絶を防ぐスキルを持っているのは間違いない。
現在、シオンによる”時間崩壊”二枚を使用した事で、メダル消費以外でのカード使用が出来ない状況だ。
”バリケード”を発動後、俺はエメラルドとサーシャを合流させないよう、中立地帯に駒を進める。
『行け、トワ』
三体のドレイクに身を守らせ、融合駒であるトワ一体を突っ込ませるか。その方が操作に集中出来るもんな。
「ホロケウ!」
”霊樹の木刀”を持たせていないため、今のホロケウは姿を消せない。だが、”隠密”のスキルによって気配を消すことが出来る。
ホロケウがドレイクの囲いを抜け、エメラルドに直接攻撃する。だが、ホロケウの村正による上段斬りは、エメラルドの盾によって受け止められてしまう。
『怖いな~。あんなに近付いていたなんて。それにしても、なんでワザワザ名前を呼んだんだい?』
あっという間にドレイク達に両腕と左足を食い千切られてしまう。
「つうーーー!ドーディ!」
『サクリファイスパワーの布石かな?インヴィジブルを使わなかったって事は、本気じゃ無かったんだろ』
俺がワザワザ負傷させてまでホロケウを退場させたのに、バレバレとは。さすがに多用しすぎたか。実際に使ったのは一度だけだが、使おうとした素振りは、他にもあったからな。
「まあ、違うけどな!メダルを使用!サクリファイスロスト!」
青のカード”サクリファイスロスト”は、発動条件は”サクリファイスパワー”と同じだが、効果はこのゲームが終わるまで、プレーヤー以外の指定したスキル一つを使用禁止にするというものだ。
「俺が指定するのは、”再生”だ!」
『く!知っていたのか・・・』
竜の駒の厄介な所は、全ての竜駒に”再生”のスキルが備わっていることだ。生半可な攻撃では再生されてしまう。だが、俺の”サクリファイスロスト”によって、フィールド上で”再生”スキルは効果を発揮しなくなる。つまり、全ての竜駒から、スキル一つを消してしまったということだ。
サーシャが使う融合駒が、見た目は竜だが、竜駒じゃ無いのには驚いたが。
『二人の奴隷から情報を引き出したか。いや、率先して話したのかな?』
「駒の操作が疎かになっているぞ!」
ガロンの甲大剣が、トライヘッドドラゴンを切り刻んでいく。だが、さすがに融合駒は硬く、傷を付けるので精一杯か。
『やはり、強い!だが、これは躱せるかな?ドラゴンブレス!!』
トワの三つ首から、同時にドラゴンブレスが放たれる。
逃げ道を塞ぐようにして、三つの光がガロンがいる中央へ収束していく。
「があああああ!」
”頑強”のスキルが無ければやられていた。だけど、おかげで狙っていたスキルが発動する。
ガロンの体を真紅の気が覆う。
『まさか、”命の火”ですか』
「ああ、だけど、驚くのはこれからだ!メダルを使用!進化だガロン!」
ガロンの姿が変わっていく。見た目だけではなく、スキルも変化していく。
陸〔ガロン〕 進化駒・通常
スキル⚫頑強 ⚫進化 ⚫命の火
”進化”のスキルを得たことで、通常駒とは違う表示になったが、”進化”すると更に変化する。
陸〔ガロン〕進化駒フローズヴィニトル
スキル⚫悪辣 ⚫瘴気 ⚫退化 ⚫完全耐性 ⚫転換
姿は黒く染まり、紅の瞳、体からは常にスキルによる瘴気が発せられている。
武器はガロンの時の甲大剣と片刃の短剣に加え、ランクが上がった時に手に入れたレジェンドウェポン、黒い柄に炎の刃のレーヴァテインを装備している。
『進化したことで傷は消えたのに、”命の火”の効果が消えない!』
”命の火”は、駒が六割以上傷付くと能力を1,3倍にするという効果がある。
駒は進化する事で傷が癒えるため、進化後に効果が引き継がれると考える者はいなかったようだ。
俺だって、思いついたは良いが、半信半疑の賭けに出てようやく確証を得られたんだ。シャスティングで勝ち抜くためには、そんな賭けに出る余裕なんて普通無いよな。
もし進化後に効果が消えていたら、”命の火”のスキルをろくに生かせなくなる。進化駒なら、”命の火”が発動するほど傷付く前に、サッサと進化させた方がよほど戦力になるからな。
俺のメダルは残り二枚、向こうは三枚残している。
駒も、向こうは全て健在。圧倒的に不利な状況だ。
『圧倒的に優位なはずなのに、なぜこんなにも!』
「ガロン!」
レーヴァテインのスキル”煉獄”によって生み出した炎を、”火炎操作”で操り火の波とする。
「プロミネンス」
俺もサーシャのように必殺技に名前を付けることにした。
俺とエメラルドの試合の横で、ワイバーンの融合駒が下方へ突撃するのが見えた。技名もバッチリ聞こえていた。回転しながら激突する瞬間、ワイバーンが”鋼鉄化”するのも見えていた。
自分への負担を考えない危険な技だ
”鋼鉄化”を発動することで、硬さと重さによる威力の底上げ、更に回転を加える事で凶悪な破壊力を生み出しているが、その分、反動によるダメージもシャレにならないレベルのはずだ。
ガロンが放った炎の波は、トライヘッドドラゴンに纏わり付き、覆い尽くす。
『ウアアアアア!・・・メダルを!・・・使用!平和な拘束!』
効果の対象はガロン。またガロンが動けなくされたか。
ガロンとのリンクが切れたため、炎も消えてしまう。
『今の・・・うちに・・・』
命が懸かっているからか、凄まじい執念を感じる。全身が溶けた融合駒から、それ相応の痛みを感じているはずなのに。
『トワ!ドラゴンブレス!!』
俺の陣地まで進入してきたトワが、マリア達に向かってドラゴンブレスを放とうとする。
「今だ!撃て!」
「ドラゴンブレス!!」
トワから放たれたドラゴンブレスは一つだけ。真ん中の首以外、溶けて使い物にならないようだ。
おかげでルーザが放ったドラゴンブレスで相殺出来た。
『・・・なぜ、エルフがドラゴンブレスを・・・』
竜の駒にしか使えないはずのスキルだもんな。ヤタがトワに攻撃を仕掛けているのに、反撃してこない。余程驚いたようだ。
シオンとルーザから二人のこれまでのシャスティングについて聞いていたため、サーシャもドラゴンブレスを使えるのは知っていた。試合前に見たスキルの中から当たりを付けて、”模倣”のスキルで”竜技”のスキルをコピーさせた。
ルーザの姿が揺れ、美鈴が姿を現す。炎のような黄金の狐耳と九本の尻尾を生やし、花魁のような着物を身に纏う眼鏡美人が。
これまでのシャスティングで、ルーザが弓以外に取り柄が無いのはバレているであろうと考え、完全に能力が知られていない美鈴によるビギナーズラックを狙った。
”幻影”のスキルによってルーザだと思い込んでいただろうから、ずっと弓矢を警戒していたことだろう。
『・・・狐につままれたというわけね。そうでないと任せられない!』
こちらが仕掛けた罠に気付いたようだが、何故か嬉しそうだ。
ガロンを無視してドレイク達と共に俺の陣地に進入してくる。
その時、大きな音と共にワイバーンの駒が破壊される。
『メダルを使用!スキルコピー!対象は”並列思考”!』
「させるか!メダルをし・・・・・・」
声が出ない!”エフェクトブレイク”でカードの発動を妨害するつもりだったのに!
『私のスキルで声を出せなくしました。ほんの僅かな時間だけですが。メダルを使用!ピースリバース!』
破壊されたワイバーンの駒が復活する。
「・・・あ、あ、ようやく喋れるな。・・・口調が変わったな。そっちの方が似合っていると思うぞ」
『あらお上手。でも、そんなセリフばかり言っていると、彼女達に刺されるかもよ』
時間稼ぎのつもりで言ったのに、女性の声で返されるとは。
「女だったのか?」
「フフフ、どうかしらね。貴方を揺さぶるための演技かも」
確かに、急にやりづらくなった。
『では、”並列思考”を得た私の闘いぶりを存分に見せてあげる』
自分の守りにトワを付け、三体のドレイクをガロンに向ける。
俺はヤタをマリア達の傍に戻して、ガロンの操作に集中する。
三体のドレイクが、一斉にドラゴンブレスを放つ。ガロンに直撃する直前に、”平和な拘束”の効果が切れるのを見越した戦術だ!
「ドーディ!メダルを使用!サクリファイスパワー!」
”サクリファイスパワー”の使用条件を満たすためにヤタを退場させ、能力二倍の恩恵を受ける。
『青のカードで出来る最良の判断ですね。その後の対応も見事』
ガロンの損傷は軽微。直撃する前に”プロミネンス”による防御行動を取った結果だ。
”ワープ”が使えれば、もう少し有利に進められたんだが。
『でも、あちらの守りは薄くなりましたね!』
トワがマリア達に向かって、よろめきながらも突っ込んでいく。
「美鈴!ドラゴンブレスを!」
「ちょっと待って下さいね、すぐ終わりますから」
美鈴は手の平の上に魔力を集中させて、拳銃を作り出す。 ”創造魔法”で作り出せる唯一の銃。手の平に収まるほど小さい、一発しか撃てない小型の拳銃だ。
あれじゃあ、融合駒の硬い皮膚を貫けない。いったい何をするつもりなんだ!
「・・・ドラゴンブレス」
美鈴の銃から、先程より細いドラゴンブレスが放たれ、トワに直撃。直径五センチほどの穴を開通させた。
「名付けて”ドラゴンブリッツ”ってのはどうですかね。シューティングゲームは得意なので、いけるかなと思ったんですよ」
「いや・・・今のは何だ?」
「銃で狙いを付ければ、威力を上げられる気がしたんですよ。蛇口を狭めると水が勢いよく出るみたいな?」
さすが、”土魔法”を”創造魔法”なんてものに昇華させた女。とんでもないジョーカーに変貌しやがった。
『グフッ!・・・まだだ!』
トワが撃たれた辺りを押さえているエメラルド。
再びトワが前進を開始する。
「美鈴ちゃん、来ますよ!」
「任せて下さい、マリア先輩!もう、要領は掴みました」
美鈴が、新たな銃を創造する。
出来上がったのは、玩具にしか見えない小さな赤い銃だった。
「・・・ドラゴンショット」
狙いを付けて放たれたドラゴンブレスは、一つの玉となってトワの体の中心にめり込み、破裂した。
「あああああああああああああ!!」
内側から外に、幾つも銃弾が飛び出しているようだ。・・・あれは痛そうだ。
美鈴の攻撃によって、トワは完全に消滅した。
『恐ろしい子だ。・・・これ程の人材が集まっているなんて』
ガロンとドレイク達の戦闘は継続されている。
ガロンの”瘴気”によって、攻防が行われるほどドレイク達が傷付いていく。
『”瘴気”を生かすための、”再生”封じでしたか』
「”再生”があると、ダメージを蓄積出来ないからな」
『異界人でありながら、これ程緻密なシャスティングを実行するとは、貴方は末恐ろしい』
互いに”並列思考”を持っているため、会話をしながらも駒の操作に集中出来ている。
青いドレイク、フロストが”凍結”を発動すれば、黄色のドレイク、ナターシャが”放電”を使用してくる。赤いドレイク、フレアが”火炎”を使用してこないのは、ガロンが持つレーヴァテインに”熱耐性”に”火炎操作”があると分かっているからだろう。
レーヴァテインの”不壊”の効果は、”転換”のスキルでも駒には反映されないからな。逆に、効果が反映された敵を相手にするのは嫌だけど。
シオンの陣地から逃げてきた祭りと楓は、背後を警戒しながら、ガロンとドレイク達の闘いを見ている。丁度、俺の陣地への入り口を塞いでしまっているからな。
シオンの方は、サーシャとワイバーンをワルツ一体で必死に抑えている。
エメラルドが”並列思考”を得た後、シオンもエメラルドから”並列思考”をコピーしていた。まだ、暫くは保つはずだ。
意識をガロン一体に極限まで集約する。そうしなければ、ガロンでワルツを破壊したときのような操作は出来ない。
あの時の感覚、それは・・・・・・世界を壊す感覚。
『何!?』
フロストの懐に飛び込み、逆手に持った短剣を鎖骨辺りに差し込み、手首を捻りながら、喉を上方へと切り裂く。
『くhfっdっふjgfd』
エメラルドには”痛覚耐性”とは別の、痛みに耐えるスキルがあるな。出なければ、痛みで動きが鈍らないのはおかしい。
ナターシャの雷撃をわざと受けながら、懐に飛び込みレーヴァテインを一閃。
ナターシャが消える。
『・・・・・・先程までとは、別人ではないですか』
さっきまでは、駒の性能差を数で埋められていたからな。
フレアの顎と爪を甲大剣で弾くと同時に、傷を刻んでいく。
レーヴァテインが効かないフレアに対しては、それ以外の武器で対応するしかない。
重心移動を見極めて体制を崩した瞬間、甲大剣で首をぶった切ってやった。
虫の息だったフロストにもトドメを刺す。
『大した人だ』
「サーシャのように抵抗しないのか?」
『あの子と違って、私には直接闘う力は無いから』
「・・・そうか」
エメラルドの現し身にレーヴァテインを振り下ろし、消滅させた。
後は、サーシャだけだ。
「よくも・・・よくも母様を!!」
サーシャの声がフィールドに響き渡った。




