第33話 竜の力と二人の魔法
サーシャは、自身の駒を引き連れて全速力で中立地帯へと向かう。
一方でエメラルドは、他の駒に自身を囲ませながら早足で中立地帯へと移動していた。
優れた力を持つ竜の駒、まずは乱戦に持ち込んで、能力を確認しますか。
「メダルを使用!ワープ!」
ラテルを相手陣地に送り込む。出現位置はエメラルドの頭上。
ラテルに持たせた武器、チョーパーというL字の剣で斬りかかるが、トライヘッドドラゴンの首の一つに受け止められてしまう。
『さすが、思い切りが良い。だけど、愚策だと思うね!』
人型の体の首と肩から三つの竜の首を生やした融合駒、トライヘッドドラゴン。三つ首の顎が代わる代わるラテルを襲う。
間一髪で躱しながら、ラテルをフロストドレイクの方へ移動させる。
現在ラテルは、エメラルドを中心にした竜駒の囲いの中にいる。危険な場所ではあるが、だからこそ、ドラゴンブレスを初めとした”火炎”や”放電”スキルによる危険な攻撃を封じることが出来る。
フロストドレイクに近付いたためか、トライヘッドドラゴンの追撃が止み、フロストドレイクがラテルを狙って動き出す。
ラテルに”氷結”が襲い掛かるが、前回のシャスティングで”突風”を躱したのと同じ要領で対処し、フロストドレイクにチョーパーで斬りつける。
トライヘッドドラゴンには傷を付けられなかったが、フロストドレイクには通じた。だが、あまり深くは切れていない。
竜駒の皮膚は硬いと聞いてはいたが、ここまで硬いとは。しかも、融合駒の硬さは変質駒であるフロストドレイクを上回っているようだ。
次々と他の竜駒に斬りかかるが、成果は出ない。多少の傷では”再生”のスキルで回復されてしまう。
『トワ!”咆哮”!』
トライヘッドドラゴンの口から獣の咆哮が響き渡る。
『これで!』
”咆哮”で動きが止まったように見えたであろうラテルが、近付いて来たフロストドレイクの左目を抉り取る。
『グウ!何故動ける!』
「そいつには”獰猛”のスキルがある!」
”獰猛”は、攻撃能力が増すのと、怯まなくなるという効果がある。
”咆哮”のスキルの動きを止める力は、怯ませると同義だったらしい。
まあ、竜の駒の力は大体分かってきたかな。
『メダルを使用!ヘビープラス』
ラテルの体が重くなる。
動きが鈍ったところに、サンダードレイクの顎が迫り、ラテルが捕まってしまう。
『このままドラゴンブレスで吹き飛ばしてあげるよ!』
「せっかくだが遠慮する。”自爆”!」
ラテルごとサンダードレイクの頭が吹き飛ぶ。
前回手に入れた”自爆”をラテルに付与しておいたのだ。
『メダルを使用!リバース!』
消えかけていたサンダードレイクが消滅しない程度に修復され、さらに”再生”スキルで傷が治っていく。だが、それ以上に駒の頭を吹き飛ばしたにもかかわらず、カードを発動したエメラルドに驚く。
『痛いなー、サーシャだったら気絶して負けていた所だよ』
痛みを感じていないわけじゃなさそうだ。
気絶しなかったのは何かしらのスキルか?
エメラルドは中立地帯に到達。サーシャはとっくにシオンの陣地に乗り込んでいる。
『バリケード発動!』
溜まったゲージを使い”バリケード”のカードをシオンの陣地で発動する。
⚫⚫⚫
サーシャという女は厄介だ。人駒として、あれ程優秀な人間はそうは居ないだろう。
これまでのシャスティングでも先陣を切って戦い、エメラルドに勝利をもたらしてきた。
プレシャス駒でありながら前線に出てくるのはどうかと思うが。
試合が始まってすぐに、楓さんが中立地帯と自分陣地の境に撒き菱を仕掛けてくれたが、どうなるか。
サーシャが撒き菱の前で立ち止まる。
「このような小細工、ドラゴンブレス!」
サーシャが構えた斧の先から、竜の駒と共にドラゴンブレスを放出する。結果、全ての撒き菱が消滅した。
「貴方の亀の駒、姿が変わっているが、”自爆”持ちなのだろう」
「さあ?変質駒になった事で、スキルが消えちゃったかもね」
試合が始まる前に、マスターに頼んで変容液を亀の駒デスに使用した。
ちなみに、駒が変質したことで、スキルが消えることは珍しくは無い。
せっかく向こうが警戒してくれてるんだ、デスを前に出そうか。
「行け、エカテリーナ!」
これまでのシャスティングで、サーシャが”猛毒”を多用しているのは知っているからね、マスターから借りた孔雀の駒、ルンバをデスの横に並べる。
敵の駒は、真っ直ぐ私のデスに向かう。防御力が高いデスを、毒で時間を掛けて消滅させる気なのだろう。そんなことは許さないけどね!
「どういうつもりだ!」
僕がルンバをデスの前に出した意図が分からないらしい。孔雀の駒は、最初から”毒耐性”を持っていることを知らないんだね。
ルンバの首元に噛みつかれる。同時に手に持っていた手投げようの斧を、一本、デスに向かって回転するように投げてくるが、デスに持たせたメイルブレイカーで弾く。
エカテリーナと呼ばれた蛇がルンバから離れ、デスに向かおうとするが、楓さんが動いていたので放っておくことにしよう。
「忍術!風魔手裏剣!」
楓さんの新スキル”忍術”によって生み出された巨大手裏剣が蛇を両断した!
「ぐうう!」
マスターが楓さんに魔法スキルを覚えさせようとして、”魔力操作”のスキルクリスタルを与えたら偶然生まれたスキル。一応魔法スキルに分類されるらしいけど。
さすがはマスターの女だね。僕も負けてられない!
「バリケード発動!」
僕の陣地に壁が築かれる。これは、マスターからの合図!
「時間崩壊!」
「そういうことですか!身体強化!」
さすがサーシャ、こっちの意図に気付いて使えなくなる前にゲージを消費してきたか。しかも、”身体強化”は永続的な効果だからね、抜け目がないよ。使った対象が彼女自身なのは脳筋感が有るけどね。
「メダルを使用!時間崩壊!」
二人とも”エフェクトブレイク”で邪魔して来ないか。メダルを消費してでも防ごうとすると思ったんだけどね。
「相変わらず大胆な戦術ですね!私、実はシオン様の事、尊敬していたのですよ。幾つか戦術を参考にさせて頂いた事もあります」
「それは光栄だね。竜人族は他種族を見下すと聞いていたのだけど」
「私は産まれたときからマテリア様の庇護下にいましたからね。実際、他の竜人がどうなのかは知りません」
「マテリア様の庇護下に他神国である竜人が居るのは不思議だったけど、君も訳ありなんだね」
「そろそろ続きを始めましょうか、シオン様。私は負けませんよ!」
「僕も、愛しのマスターとマスターの大切な人達のために、最強と言われた竜人族に全力で挑む!」
なんらかの制約なのか、サーシャ達は黄色のカードを使っていないから、竜人との本気のシャスティングとは言えないけどね。
「そろそろあの鳥は消滅するのでは?」
ああ、やっぱり気付いて無いんだね。なんだか、あの子が可愛く見えてきたよ。
デスを前進させながら、ルンバを毒持ちのトカゲに突撃させる。
「まさか、”毒耐性”!」
ようやく気付いたんだね、でも遅いよ。
ルンバが噛みつかれながらも、トカゲの駒を押さえ込む。厄介な毒持ちを確実に片付けないといけないからね!
「”竜技”、ドラゴンブレス!」
ただでさえサーシャの方が駒が少ないのに、自分の駒ごとルンバを破壊した!
「動きが遅いと良い的ですね」
竜の駒から発射されたドラゴンブレスがデスに直撃する。
ああ、ダメだよ!こんなに痛め付けられたら。マスターとのシャスティング以来、本当に・・・痛みが快感に変わるようになっちゃったんだから!
「良いよサーシャ!でもね!マスターはもっとえげつないんだよ!この程度じゃ全然足りないよ!」
「・・・これがシオン様?嘘でしょ!」
次々と駒が破壊されていく時の快感の波!ザンコーのお腹に深々と刺され、喉を切り裂かれた時なんて、気持ち良すぎて失神しそうになったんだから!
切っ掛けは母の虐待のせいだったけど。”痛覚耐性”が抑えた分、痛みを快感に感じやすくなったのかもしれないけど。マスターが僕を目覚めさせちゃったんだよ!!
今までなら仮面で隠せていたけど、今凄い顔してるんだろうな~僕♡
「何あの顔、キモい!!」
「もっと気持ちよくさせてよサーシャ!」
デスに”吸引”を発動させ、竜の駒を引き寄せる。融合駒の方は力が強くて引き寄せられないか。
「痛みを痛みとも思わない変態が、こんなにも厄介だなんて!」
サーシャめ、僕は言葉責めに関しては素人なのに!
「さあ、一発スゴいのいくよ!自爆!」
デスを犠牲に竜駒の破壊に成功。
それにしても、やっぱり自爆は良いな~~~♡お腹の奥からズドンと全身を外に向かって突き抜けていく感覚が堪らないよ♡
「この変態め、よくも!」
「全身をバラバラにするような痛みに耐えたんだね。偉いよサーシャ」
サーシャが纏う雰囲気が変わる。
これは、戦士の殺気だ。皇女の護衛騎士が放っていた、洗練された殺気によく似ている。
「ハハハ、良いよ。このシャスティングが終わったら、君はマスターのものになるのだからね。そうでないと相応しくないよ!」
「負けない。私は、誰にも負けない!!!」
竜駒に翼が生えたような融合駒が、ザンコーに向かって回転しながら墜ちてくる。
「我が敵を討ち滅ぼせ!メテオストライク!!」
一撃で、防御に優れたザンコーを跡形もなく破壊された。頭も・・吹っ飛ん・・だ・・・から・・・い・・し・・き・・が・・・・・・・・。
⚫⚫⚫
「シオン!シオン!起きろ!起きなさいよシオン!」
マズい、完全に気を失っている!
「グウ!あっ!あ・・・どうだ変態!私の怒り、思い知ったか!」
とんでもない威力だったけど、サーシャって奴も無事じゃない。かなり辛そうだ。
「祭りちゃん。ここは私が時間を稼ぐから、祭りちゃんは自分の身を守って」
「わ、私も一緒に戦えばなんとかなるかも・・・」
「ダメよ!貴方がやられたら、シオンのワルツも消えてしまう。何より、固金くんが一人で二人を相手にしないといけなくなる」
楓さん、いくら何でも、一人でサーシャと融合駒を止めるなんて無理だよ。
「前回は、祭りちゃんに守って貰ったからね、今回は私が守るよ!みんなで一緒に、異世界で結婚するために!」
そうだ、最終的に勝ちさえすれば、何も失わずに済む!たとえ、目の前で楓さんが破壊されたとしても・・・・・固金は、私が壊されたとき、どんな気持ちだったのかな。その後の試合の様子を私は知らない。とんでもない事が起きたらしいけど。
・・・固金、今度こそ、役に立って見せるから!
「エア!プレシャスを狙え!」
「させない!へ!」
私を狙えと言ったはずなのに、楓さんに飛竜が襲いかかり、踏み潰してしまった!
「駒は、言葉で操っている訳じゃない」
サーシャの鋭い声が響く。
駒は命令ではなく、あくまで思考で動かすから、言葉は関係ない。楓さんのスキを狙うためのブラフだったんだ!
「正々堂々と闘うイメージがあったけど、絡めても使うんだね、あんた」
「シャスティングは一芸を競うゲームじゃありませんからね、あらゆる経験が勝率を上げてくれ!・・・なぜ?」
さっき踏み潰されたはずの楓さんが、サーシャを取り囲んでいる。
「分身の術!どれが本物か分かるかしら!」
楓さんが不適な笑みを浮かべ、サーシャに四方から襲いかかる。
「下手な嘘を!全て実体でしょうが!」
そうなの!!
斧の横薙ぎで、全ての楓さんが真っ二つになり消える。
「匂いと気配でバレバレですよ」
野性的だな、あの人。
「忍術!風魔手裏剣・乱舞!」
蛇を両断した巨大手裏剣四枚が、回転しながらサーシャに襲いかかる。
「エア!」
サーシャの叫びに応じるように、飛竜の駒が盾となり、巨大手裏剣全てを防いでしまう。
「なんて硬さなの。生半可な攻撃じゃ突破出来ない!」
「エア!メテオストライク!!」
飛竜が再び空に舞い、弾丸のごとく私に向かって墜ちてくる。
「忍術!鳴神!!」
楓さんの手から、稲光が生まれたと思ったら、飛竜が私の前に力無く落ちた。
「ハア、ハア、ハア、かなり、キツいかも・・・」
楓さんはかなり消耗している。動けるのは私だけ。なら!
左肩が吹き飛んだ飛竜の頭にフレイルを叩き込む。
ガアン!
フレイルが弾かれた!それに、この金属音。よく見ると、頭の一部が金属に代わっている!
普通の武器じゃ、ろくに傷付けられない!楓さんのような魔法じゃないと!
「叩き潰せ!エア!」
今度こそ・・・今度こそ、役に立って見せるって決めたんだ!
頭に、何かの情報が流れ込んでくる。頭から全身へ、染み渡っていく感覚。
欲しかったのは、圧倒的な攻撃力!
「爆裂魔法!ベクトルバースト!!」
右手の平から、指向性を持った爆発が飛竜を吹き飛ばす。
凄い威力!だけど、体から一気に力が抜けていく。
「があああああ!・・・・・あの女まで、なんて強力な魔法を!」
飛竜の駒が消滅したことで、痛みから解放されたみたいね。
「さっきの凄かったね、祭りちゃん」
「楓さん、もう動けるんですか?」
さっきまで辛そうだった楓さんが、私の隣に立つ。
「魔力を使いすぎたみたいだけど、”霊脈”の効果なのかな?大分回復したわ」
「二人で強力な魔法を連発すれば勝てそうですね」
私の魔法に対して、金属化が間に合ってなかった。不意を突けたからこそ破壊できた。
それでも、楓さんと私の魔法があれば竜駒を真っ正面から破壊できる!
「メダルを使用、ピースリバース!」
エメラルドの声が聞こえたと思ったら、飛竜が復活した!
「感謝します。か・・・エメラルド様」
駒を復活させる緑のカードを使ったんだ!
「忍術!鳴神!!」
「ベクトルバースト!!」
「メダルを使用!マジックキャンセラー!」
サーシャが発動したのは、確か駒一体に魔法が効かなくなるカード。
私と楓さんの攻撃は、何事も無かったかのように効いていなかった。
「温存せず、もっと早く使うべきだった。今度こそ仕留める!」
マズい!魔法以外であの駒に通じる手札が無い!
「メダルを使用!進化だ!ワルツ!」
先程まで突っ立っているだけだったワルツの姿が変わっていく。
「ごめん!祭り、楓さん。ここは僕がなんとかするから、二人はサーシャを・・・」
「メダルを使用、マジックキャンセラー!」
サーシャ自身にカード効果が付与される。
「二人はマリア達に合流した方が良さそうだね・・・ワルツ!」
ワルツが巻き起こした風に、サーシャと飛竜が押さえ付けられる。
「さあ!行って!」
「行こう!祭りちゃん!」
どちらにも魔法が効かなくなった以上、私達は足手まといか。
「シオン!いい、無理するんじゃないわよ!」
「それは出来ない相談だよ。・・・彼女は強いからね」
「あなた方は、本当にしつこい!」
サーシャが吠える。
「君には言われたくないけどね!」
背中越しに二人の激突を感じながら、バトルフィールドを駆ける。




