第30話 籠絡
シオンが同居人になってから二週間が過ぎた。
ルーザとシオンは、楓のキッチンカーによる弁当販売を手伝っている。二人が接客を担当してくれるおかげで楓は、弁当以外にお惣菜の販売も始められるようになった。
以外にもシオンは料理が出来るらしいが、調理の手伝いはしていない。こっちの世界の食材に慣れていないため、現在、夕食時に一品か二品作って貰いながら特訓中だ。
近々、アイスの販売も始める予定だ。その中の一種類は、俺が考案した”バニラチョコチップナッツ”になる予定だ。ちなみに楓が考案したのは、”ハニープリン”味と”炭酸イチゴバニラ”味の二種類だ。どっちも美味しかったな。
昨日から学校が夏の長期休みに突入した俺、マリア、祭りは、短期のアルバイトをする事にした。
マリアと祭りがするバイトは、商店街で飲み物を自販機よりも安い値段で売るだけなので、とても簡単なものだ。
俺はと言うと、正規のアルバイトではないバイトをする事になってしまった。
「先輩、頼んだ背景の写しって終わってます!?」
「もう全部終わってる。ペン入れが終わったのは、消しゴムがけしておいたぞ。べた塗りはまだ乾いてないから気をつけろよ」
「・・・先輩、漫画描くの初めてなんですよね?ハイスペック過ぎません?」
”並列思考”と”真理眼”のおかげで、要領を掴めたからこそなんだが、説明するわけにもいかないしな。
今俺は、美鈴ちゃんの仕事の手伝いをしている。昨日突然、「先輩助けて!」と言うものだから、何事かと思ったよ。
美鈴ちゃんは、月刊の雑誌に連載を持っているらしく、締め切りがピンチらしい。なのに・・・
「なんで美鈴ちゃんは、漫画を描かずに小説を書いているのかな?」
「こっちもピンチなんですよ!最後の見直しをしたら、大幅に書き直さなきゃいけなくなったんですよ!」
こいつ、小説も執筆しているらしい。既に十巻を越える大作が存在する。・・・BL物の。
・・・高校一年生がBL物の執筆作品を発表してもいいものなのか?十八禁どころか十五禁ですらないらしいが。
美鈴ちゃんの意外な一面を知ってしまったよ。
ちなみに、日給で一万五千円くれるらしい。
「まさか今日中に終わらせられるなんて思いませんでしたよ。本当にありがとうございます。先輩への給金、倍にしても良いかもしれませんね!」
「いや、アシスタント雇えよ。何で俺と美鈴ちゃんの二人だけなんだよ」
俺が住んでいるマンションの三階が、美鈴ちゃんの家であり、仕事場になっていた。しかも一人暮らし。
「今までは問題なくやれたんですよ。今月は少し調子に乗って、スケジュールをキツくし過ぎただけです!それに、これからは先輩に手伝って貰えば良いだけですからね!問題ありませんよ」
「・・・学校とバイトがある日は無理だからな」
色々忙しいので、当てにされても困る。
毎日の食事の用意にキッチンカーで販売する物の準備。そこに学校やバイト、シャスティングの戦術研究が入ると、マリア達とゆっくり過ごす時間は僅かになってしまう。
この長期休みを、お金を稼ぐことと思い出作りに利用しようと思っているから、今日のように朝から晩まで拘束される日があっても構わないが、学校が始まった後は困る。
「先輩が手伝ってくれれば仮病で休む必要が無くなると思ったのに」
「学校を優先しろよ!休みすぎて留年とかするなよ!」
「じゃあ、一週間のうち一日だけ朝から晩までここで働きません。日給四万円で良いので」
「一ヶ月で十六万以上、いや、四日で十六万は破格だな」
楓達は、月に数百万円稼ぐが。学校と両立出来ると考えればこれ以上無いくらいの好条件か。
バイトをする場合、学校に届け出を出さないといけないが、美鈴ちゃんのバイトは、届け出を出すわけにはいかないし、本屋のバイトは学校から紹介されたものだから、辞めたら学校に連絡が行くかもしれない。そうなれば、生活費を稼ぐためにバイトしている俺は、色々詮索されかねない。
下手をすれば、同棲がバレてしまう!
よって、俺は本屋のバイトを辞める訳にはいかない。
「では、交渉成立で良いですね!」
「分かったよ。臨時で手伝う時も同じ値段でな」
「優しいのか鬼畜なのか分からない要望ですね。さすが先輩」
「じゃあ、今日の給料四万円を渡してくれ」
「さり気なく報酬を上乗せしている!?」
海外への移住計画にいくら必要になるか分からないからな。
☆
本当に四万円渡してきたのには驚いた。
今日一日、漫画のアシスタントとご飯三食の用意、ついでにトイレや浴室の掃除をしただけで四万円か。ぼろ儲けだな。拘束時間は十一時間だけど。
去り際に、「先輩、可愛い後輩と一日二人きりでどうでした?」とか言われたときはドキリとしたな。・・・こっちが考えないようにしているっていうのに。ったく!本当に可愛い後輩だよ。
今は部屋に俺一人。
皆は風呂から上がった後、明後日のコスプレイベントに向けて、衣装のチェックをしている。
ルーザがそのイベントに参加したがったため、皆でコスプレして参加することになったのだ。
「やっぱり、もう少しスキルが欲しいな」
楓のご先祖様が持っていた二つのスキルクリスタル。
⚫風魔法:風の魔法を操れる
⚫共感:同じスキルを持つ者が多ければ多いほど身体能力が強化される
どちらも前回のシャスティングでは役に立たなかった。
”魔法”を使用するために必要な”魔力操作”は祭りしか持っていないし、”共感”のスキルは複数なければ意味が無い。
ただ、前回のシャスティングで手に入ったスキルは役に立ちそうだ。
⚫転換:武具のスキルを自身に使用できる
⚫魔力操作:魔力を操れるようになる
⚫土魔法:土の魔法を操れる
⚫命の火:六割以上のダメージを受けると、全ての能力が1,3倍になる
⚫自爆:自爆する
そして、俺がランクアップしたことで手に入れたスキルと武器。
⚫進化:駒を進化させる
〔レーヴァテイン〕 レジェンドウェポン
スキル⚫不壊 ⚫煉獄 ⚫熱耐性 ⚫火炎操作
⚫不壊:レジェンドウェポンの証。破壊不可能になる
⚫煉獄:浄化の炎を放つ
⚫熱耐性:火や熱によるダメージを受けない
⚫火炎操作:炎を操る
どのスキルを誰に使うか、候補は大体絞っているが、次のシャスティングのルールを把握してからにした方が良いだろう。
何か見落としている活用法がないか、何度も繰り返し、頭の中でシミュレートする。
「変容液を使えば、駒が新たなスキルを覚える事もあるんだよな?」
使うなら、あまり活用出来ていない駒にするべきだよな。
まだシオンの駒を受け取ってないしな。
悩むな~~。
ふと、蘇ったのはマテリアの言葉。
「異世界か・・・」
シオンの言葉を信じるなら、シャスティングで命のやりとりをするのが当たり前の世界だ。そんなところに、マリア達を連れていくって言うのか?
「バカらしい」
結局、その日は何も答えを出せずに眠る事になった。
☆
コスプレイベントの会場には、予想以上に人が多かった。
到着して早々だが、もう帰りたい。ルーザは外見上の問題で外出を控えているため、たまの我が儘には応えてやりたいので耐えるつもりだが。・・・男の甲斐性を見せねば!
「おい、あいつらスゲー可愛いぞ!」
男の声がしたと思ったら、周りの人達が一斉にこちらを向く。
「ヤベーよ、滅茶苦茶可愛い!」
「あれ、”破滅のエゼルフィア”の神竜姉妹だ!」
コスプレの作品が、確かそんな名前だったような・・・。
ほとんどの人がコスプレしているのに、俺達・・・というかマリア達が注目を集めているのは、やっぱり見た目のレベルが違うからだろうか。
シオンは自分の髪と同じ色のウィッグを付け、ゆったりとしたドレスを着ている。普段のボーイッシュさは消え、清純さが前面に出ている。
楓は、上がメタルグレーで袴が黒の巫女服を着ている。大和撫子な楓が着ているからか、不思議な神秘的な空気を纏っている。
祭りは、ブラウンの鎧の下に白いチャイナ服のような物を着ている。祭りだけが太股を大々的に露出しているため、一人だけ恥ずかしそうだ。
ルーザが着ているのは木の根や葉っぱを模したドレスだ。茶髪のカツラをかぶって、キャラに近付けている。その姿は、妖精の女王のようだ。
マリアは太陽の乙女だ。オレンジ色のドレスは、マリアに活発さと暖かさを思わせる印象を与えている。腰にはおもちゃの剣を吊しているからか、どこか凛々しさすら感じる。
ちなみに俺は、神竜姉妹の父親であり主人公のエゼルのコスプレをしている。
このイベントでは撮影が禁止されているから来るのを許可したが・・・撮られないよな?周りの熱気が怖い・・・。
・・・あれ、美鈴ちゃんか?
周りの人達とは、どこか違う空気感を纏っている一団の中に彼女は居た。露出の多い悪魔のようなコスプレをしている。
一瞬目が合うが、美鈴ちゃんの近くに居た男が話し掛けると、一団はバラバラに行動し始める。
また、目が合った。・・・誘っているのか?
「固金さん!私達二手に分かれますけど、固金さんはどうしますか?」
「・・・俺は一人で行動するよ。十二時にここで合流しよう」
マリアに返事をすると、急いで美鈴ちゃんを追いかけた。
何でこんなに・・・嫌な予感がするんだ!
☆
美鈴ちゃんを追いかけて辿り着いたのは、関係者以外立ち入り禁止の区域。
灯りが付いていない通路には、遠くの光源から発する光が僅かに届くだけ。そこで、彼女は俺を待っていた。
「先輩がこういう場所に興味を持っているとは思いませんでしたよ」
いつもの笑顔に影が差して見える。
「はあー、いなければ良かったのに」
「・・・どういう意味だ」
嫌な予感が膨らんでいく。
「・・・先輩、私達の仲間になりませんか?」
「・・・・・なんの仲間だよ」
「この会場で、騒ぎを起こす仲間にですよ。でないと私は・・・先輩を守れない」
「どんな騒ぎを起こすつもりだ」
どこかで、悪ふざけであって欲しいと願いながら、彼女の言葉を待つ。
「私達、超能力集団の存在を世界に知らしめるんです。もうすぐ会場内で生放送が始まります。そこで私達”エスパーズ”の力を見せつけるんですよ。同時に会場に居る人達には人質になって貰います」
超能力?そんなものが本当に・・・あれ?心当たりがあるぞ。おかしいな。
「先輩ならなんとか、絶対記憶の持ち主とか、他人の特技をコピー出来るとでも言えば誤魔化せるはずです!だから、ね、仲間になりましょう。じゃないとあいつらが・・・」
そう言って手を握って来る美鈴の目に嘘はなかった。この子は、本気で俺を心配している。
”真理眼”を手に入れてから嘘を見抜くのは当たり前になっている。
ルーザが本当は、コスプレをして思い出を作るためではなく、最新のエロ同人誌を求めてこの会場に来たのは分かっているんだ。
「美鈴、馬鹿なことは辞めよう。今ならまだ・・・」
「もう無理なんです!私じゃ、あの人達を止められないんです!」
「俺が力を貸す。だから・・・」
「先輩に何が出来るって言うんですか!・・・どうせ!どうせ信じてないんでしょう。先輩だってどうせ!私の力を見れば逃げ出すに決まっているんだ!!」
超能力と称している力が俺の予想通りのものなら、大変マズい事態になると重く受け止めて居るんですけどね!こっちは。
どちらにせよ、美鈴の仲間になろうとなるまいと、警察沙汰になるほどの騒ぎが起きれば、俺にとってはアウトだ。
後で警察が身元調査なんてしてみろ!すぐに複数の女の子と同棲しているのがバレるじゃねえか!俺達未成年だから十中八九保護者と連絡を取るだろうし!ルーザとシオンに至っては不法入国を疑われるわ!・・・不法入国だけど!異世界からだけどな!
事件が起きる前に事態を収集するには、内部情報を知っている美鈴の協力が必要だ。なんとか協力を取り付けないと。
「もう離してよ!先輩なんて大嫌い!!先輩なんて!先輩なんて!」
ダメだ、錯乱して話せる状態じゃない!時間が無いのに、どうすれば。
・・・・・閃いた。閃いてしまった。悪魔のような考えが。
美鈴の好意には気付いていた。俺だって、美鈴に女を感じた事は何度もあった。でも、その度に否定してきたのに、その思いを利用することになるなんて。
美鈴が暴れて、お互いに転んでしまう。結果、俺が美鈴に覆い被さる形になる。
「せ、せ、先輩?」
頬を赤らめて動きを止めた美鈴の目を見つめる。
「美鈴、俺のことが好きか?」
目をそらさずに尋ねる。
「こ、こんな時に何を!」
「俺とお前の仲間、美鈴はどっちを取る」
「ど、どっちって、そんなの・・・・・」
俺はこの場で、美鈴を籠絡する!そうすれば全て解決だ。
「仲間に義理立てするか、俺の女になるか選べと言っている」
「先輩には、彼女が居るんじゃ?」
「俺に彼女は五人いる。ちなみに、全員と同棲している。」
「・・・嘘、あの真面目な先輩が、そんなことするはず無いじゃないですか」
「嘘じゃないさ」
訳が分からないという顔をする美鈴の股に、左の膝を押し当てる。
「先輩・・・い、いい加減に・・・しないと・・・こんな・・」
「なんだ、言ってみろ」
「・・・私は!そんな安い女じゃない!誰があんたみたいなヤリチン野郎の女になんてなるもんか!」
・・・・・・俺、まだ童貞なんだけど。
「・・・好き・・だったのに、彼女が出来たってだけなら、まだ・・・好きで居られたのに!」
美鈴の瞳が濡れ、涙が溢れ、頬を流れていく。
最低な事を考えた男に、相応しい末路だ。可愛がっていた後輩に、一生消えない痛みを与えたのだから。
俺は、愛川美鈴の恋心を踏みにじったんだ。
俺に残った選択肢は、マリア達と合流して会場を脱出することだけ。
きっと、どこかで自惚れていたんだ。美鈴なら、俺とマリア達の関係を受け入れてくれるんじゃないかと。
もし、美鈴が俺を選んでくれたのなら、最後まで責任を取るつもりだった。
この後輩となら、良い人生を歩めるのではないかと本気で思えたんだ。
だから・・・。
「ごめん、美鈴。・・・・・・さようなら」
美鈴の上からどいて立ち上がろうとする。すると、首に手が回され、腰を両足で押さえられる。
「あの・・・美鈴さん?」
「イヤだ~~~~~~!せんばいど、べづべづのじんぜぇいぼばゆむなんでがんがえられないよ~~~!」
泣きじゃくる美鈴が腕に力を込め、俺の頭を自身の豊満な胸に押し込む。
露出の多い悪魔コスプレなため、直に胸の柔らかさと体温が顔面に伝わる。
数秒が経ち、胸の圧迫から解放される。
・・・マリア達で耐性が出来てなかったら、大変なことになるところだった。
「せんばい、ヒクッ・・この・・ヒクッ・・まま・・・・・・しよう・・・」
・・・耐性なんて最初から無かったらしい。
美鈴の唇を貪り、彼女の右太股に手を這わせ、左胸を揉む。
彼女の柔らかさと、先程よりも上昇した体温が心地良い。
こんなことしてる場合じゃないのに、歯止めが利かない!
「固金さん?」
聞こえてきた声に心臓が鷲掴みにされ、火照った体が急速に冷めていく。
顔を上げると、マリア達五人と見慣れた巨大な門が見えた。
「ここ・・・どこ?」
真下から美鈴の声が聞こえる。
俺と美鈴が夢中でキスをしている間に、二人とも異界に引き込まれていたらしい。
「な、なんてふしだらな!」
聞き慣れない女性の声が、異界に響いた。




