第28話 真理眼
シアンの残りの駒は、プレシャスであるシアンの現し身、ブラウンカラーの穿山甲の駒、ダークグリーンの亀の駒。
カードを使えない状況でどう切り抜ける。
『やれ、ザンコー!』
鋭く、硬い鱗に覆われた穿山甲の駒が、身体を丸め、回転しながら突撃してくる。狙いは、動けない楓か!
ウッシーを前に出し、盾で攻撃を受けるが押される。
回転したことで、盾にぶつかる鱗が無数の火花を撒き散らす。
祭りのフレイルが回転する穿山甲に直撃!鱗が砕け、回転が弱まった所でウッシーで突き飛ばそうとした瞬間、穿山甲が懐に飛び込み、鋭い爪が全て突き刺さる。
「ガハッ!」
肺の空気が一気に抜ける。
痛みが、より一層絶望を進行させる。
ルーザはシアンを狙っているが、亀の駒が射線を塞いでしまう。
穿山甲を狙おうにも、鱗によって矢が防がれてしまうと分かっているので、鱗がない場所を狙わなければならないが、”必中”のスキルを持つルーザでも狙いが付けられずにいる。
あの二体が居る限り、シアンを破壊できない。
祭りのフレイルが再び穿山甲を襲うが、敵はそのままウッシーに捨て身の攻撃をする。
「グソ!・・・」
ウッシーは、限界以上のダメージを受けて消滅する。
ウッシーが消滅した瞬間、無防備になった穿山甲にガロンで仕掛けるが、祭りのフレイル程のダメージは与えられない。武器の相性が悪いか。
『メダルを使用、平和な拘束』
緑のカード”平和な拘束”によってガロンが動けなくされる。
”平和な拘束”は、駒一体を二分間動けなくするというもので、拘束されたガロンは動けず、この間、ダメージを受けることも無い。
つまり、祭りと楓を守る駒が無くなってしまった。
穿山甲の爪が祭りの左肩を貫くのと、フレイルが穿山甲の頭を打ち抜くのは同時だった。
『ガアア!・・・・・・・・・意識が飛び掛けたか。グフッ!』
祭りの一撃で、意識が遠のいたシアンは、穿山甲の胸に刺さった棒手裏剣に遅れて気付く。楓が放ったものだ。
「楓!祭り!もういい!退場しろ!!」
これ以上は、シアンが何をするか分からない!
「あと二分稼げば、ガロンが動けるんでしょ!せめてこいつは、私と楓で仕留める!」
祭りが穿山甲と真っ向から渡り合う。楓は身体を引きずり、祭りを援護する。
穿山甲にダメージが蓄積されていくが、祭りもボロボロになっていく。
せめて、向こうに”並列思考”が無ければ!穿山甲を破壊するなんて簡単なのに!
だけど、祭り達が十分に引き付けてくれた!これで勝てる!
『!!おっと、さすが固金、抜け目がないな』
どうして気付かれた!
祭り達が攻防を繰り広げている間に、ホロケウでシアンを直接狙わせた。
ホロケウの”隠密”で気配を消し、”転換”で”霊樹の木刀”のスキル”透明”を使用した上での奇襲だったのに!
敵陣地にホロケウが侵入したことで、”バリケード”の壁が消えたからか?それだけじゃ正確な場所は分からないはず。
ホロケウの攻撃を躱したシアンの前に亀の駒が割り込む。
仕方が無い!まず亀の駒を破壊する!
『自爆しろ!』
「しまった!」
亀の駒がスキル”自爆”を発動し、ホロケウが爆発に巻き込まれ、消滅する。
”再生”で全開しかけていたのに!
だけど、残りは二体になった!
ドスッ!
・・・へ。
『駄目じゃないか、爆発に気を取られちゃ』
穿山甲の爪が、祭りの胸を貫いていた。背中から爪が飛び出ている。
「ごめん、・・・こ・・が・・ね・・・・・・」
祭りの身体が光になって消えた。
なんで?
頭の中を、十一年前のことが駆け巡る。
また奪われたんだ。
なんで世界は、こんな風に出来ているんだ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
世界ごときが!俺から奪ってんじゃねーよ!!!
『じっくり壊すつもりだったのに残念だ。あと三人だよ、固金。』
「黙れ」
自分の声のはずなのに、悪魔か鬼の声に聞こえた。でも、ちょうど良い。今の気分にピッタリだ。
目の前になぜか、シアンと俺の表示が現れている。
〔暗﨑固金〕 異界人 十六歳
スキル⚫言語理解 ⚫並列思考 ⚫真理眼 ○催眠
”催眠”の表示がいつもと違うのは、クラコに譲渡したからだ。
今まで???だったのが“真理眼”に変わっている。全身を覆う全能感は、このスキルが原因か。
ハンティングギアでなければ、スキルの詳細までは分からないか。
〔シオン〕 鳥人 十八歳
スキル⚫言語理解 ⚫痛覚耐性 ⚫危機察知
さっき、ホロケウの攻撃を躱せたのは、”危機察知”のスキルのおかげかな?
『固金?ど、どうしたんだい?』
「二分経ったぞ」
ガロンが動かせるようになる。
今までよりも強くガロンとリンクしている。
『ザンコー!』
「遅い」
動き出したザンコーに突進して、甲大剣を鱗が無い腹に突き刺す。すかさず片刃の短剣で喉を切り裂き、穿山甲は消滅した。
『・・・”並列思考”を持っているのに、対応できなかった・・・どうして』
これで、残り一体。
『メダルを使用!ピースリバース!』
楓の近くに駒が復活する。楓と祭りが破壊した鷹の駒が。
鷹の駒が楓を襲う前にガロンが前に立つ。
『プレシャスでもない女を、ワザワザ守るのかい?』
「お前には関係ない」
『酷い言い草だ。メダルを使用!進化!』
鷹の駒の姿が変わる。蒼い突風を吹き荒らし、まったく別の駒が現れた。
「そんな!?第四戦で”進化駒”なんて!!」
もしかしてアレが、通常駒でも変質駒でもない第三の駒!
あの駒が何か知りたいと思うと、情報が表示される。
空〔ワルツ〕 進化駒ルフ
スキル⚫飛翔 ⚫怪力 ⚫退化 ⚫突風 ⚫転換
ワルツから感じる威圧感は、今まで感じたことが無いほど凄まじい。どういうルールで出現させたか分からないが、アレが最後の切り札であることは、間違いない。
通常の駒はスキルが四つまでなのに、五つもあるのか。
「待って!進化駒は相手がシルバークラスでなければ使用してはいけないはず!これは反則です!!」
ルーザが何か訴えているが、反則なんかでこのシャスティングを終わらせないで欲しい。今は、”真理眼”の力を試したいんだ。
何より、俺の女達をこれだけ痛め付けてくれたんだ。落とし前を付けて貰わなきゃ気がすまない!
『マテリア様も承知のことです。レジェンドウェポンの使用は禁止されていますけどね』
「そんな、こんなの滅茶苦茶だ。・・・・・勝てるはずが無い」
「ルーザ、主人を差し置いて勝手に諦めるな!まだ終わっていないぞ!」
「そうですよ!固金さんはスゴいんですから!」
「・・・ハイ!申し訳ありませんでした。ご主人様!マリアさん!」
マリアの励ましに、ルーザが笑顔で応える。
まだ誰も、諦めてなんていない!
『・・・・・・認めるよ。君の周りに居る女達は全員いい女だと。でもね、負けてやるつもりは無い!』
ワルツがガロンに仕掛ける。振るうのはスピアータイプの槍。
ガロンには、槍を受けずに躱させる。受けていれば、武器ごと破壊されていたのが分かる。
進化駒の性能に”怪力”のスキルが合わさり、凶悪な力を生み出しているのだから。
『これならどうだい!』
ワルツがスキル”突風”を発動させる。
ワルツを中心に風が吹き巡り、一気に暴風となって周囲に炸裂するが、ガロンを直撃する前に安全地帯に移動させる。
『・・・なぜ・・・どうして今のが躱せるんだい!?』
楓が”妖艶”のスキルをコントロールしたとき、どっかの誰かが”催眠”を発動したときに見えた光が、今は当たり前のように見える。
おかげで暴風が吹き荒れるタイミングと、暴風が当たらない場所を知ることが出来た。
詳細は分からないが、”真理眼”はとんでもないスキルのようだ。
『躱しているだけなら、いずれは!』
暴風を纏って、槍を構えながら突撃してくる。
ジャンプして身を捻りながら、下方を通過していくワルツの進路に甲大剣を進入させる。
片翼が宙を舞い、バランスを崩したワルツが地面に衝突し、這い滑る。
風が無ければ真っ二つになるはずだったんだが。
痛みが快感に変わるというのは嘘ではないようだ。シアンが僅かに身悶えている。
「ご主人様・・・スゴい・・・進化駒を通常駒で圧倒している」
ルーザからすると驚嘆すべき事らしい。俺達の中で進化駒の力を知っているのはルーザだけだろうから、マリアや楓にはスゴいということが伝わっていないが。
今度は、こちらから仕掛ける!
ワルツが体勢を整える前にガロンが甲大剣を振るう。
槍で防がれるが、競り合わずに懐に潜り込む。
ガロンの短剣がワルツの胸元から腹まで切り裂くのと、突風が発生するのは同時だった。
ガロンが吹き飛ぶが、ワルツは追撃してこない。痛みを快感に変えられると言っても、駒の損傷を無視して動かせるわけじゃない。シアンが平気でも、ワルツはもう、まともに動けない。
吹き飛ばされた時の衝撃でガロンもかなりマズい状況だが。
全身がひび割れて、今にも消滅しそうだ。
楓は片足でマリア達と合流していた。ガロンとワルツの闘いが始まると移動を開始していたな。
油断せずに、ガロンでワルツにトドメを刺す。反撃があるかと注意していたが、震えるばかりでまともに動かなかった。
『ウアアアアアアアアアアアアアアア!』
ワルツが消滅した直後、シアンがパルチザンを振るいながら仕掛けてくる。だが、ガロンに近付く前に、ルーザの矢によって倒れる。
”危機察知”の力で一射目は防がれたが、間髪入れぬ二射目で仮面ごと眼球の辺りを撃ち抜いた。
ルーザに、牽制と威嚇のために二本は残すように言って置いて良かった。
こうして、俺達のシャスティング第四戦が終わった。
★
疲れた。
いまだかつて、シャスティングがこんなに長引いた事は無かった。長くても三分程度のはずだが、今回は七分以上掛かった。
シャスティング中に誰かが死ぬことは無い。
分かっていたつもりだったのに、いざ祭りが消えたときは、抗いがたい消失感に襲われた。
これは、俺の弱点になるかもしれない。・・・もっと強くならないと。
シャスティングが終わり、戻ってきた祭りが皆と喋っている姿を見るとホッとする。
今回は、何も失わずにすんだんだ。
『見事であった』
空中に黒炎が現れ、骸骨の姿を形作る。神マテリアが目の前に現れた。
『暗崎固金。今回のシャスティングで汝は、ブロンズクラスからシルバークラスに昇格した。褒美として汝に”進化”のスキルクリスタルとレジェンドウェポンを授ける』
マテリアの手から光が現れ、俺のハンティングギアに吸い込まれる。
『駒以外の今回の報酬も贈っておいた』
『待ってください!』
シアンが俺達の側にやって来る。
『僕のスキルを全て、彼らに渡してやってくれませんか』
『なにゆえにだ』
『彼らになら僕の全てを捧げても良いと思えたのです!』
『・・・・・・面白い。シャスティングで幾人もの女だけを殺してきたお前が、彼女達は認めたか。では!』
コキャン!
炎なのに硬いのか。骨の手で指パッチンするとあんな音が出るんだな。・・・・・なんで指パッチン?・・・指コキャン?
『あれ?』
シアンが間抜けな声を出したと思ったら、ピエロ風の服が消えて、素顔が晒される。(別の服は着ている)
「・・・女?」
「違う!僕はれっきとした男だ!」
目の前に居るのは、美少女と呼ぶに相応しい顔の持ち主だった。スタイルも細身で、スレンダーな女だと言われれば信じてしまいそうな程だ。
空色の短髪、左耳の前にだけ鎖骨辺りまで伸ばした髪がまとめられている。金色の目に、髪の色より少しだけ濃い翼が背中に生えている。
『だよねー、見た目は完全に美少女だよね!』
「マテリア様、キャラが崩壊していますよ・・・」
シアン改め、シオンがマテリアにツッコむ。
『固金くんさー、あの子って女の子に見えるよねー』
「まあ、どちらかと言われると女の子っぽいですね」
何、急なこのノリ!
『というわけでシオン、お前の願いを踏まえ、お前へのペナルティは、女体化して固金の奴隷にすることにした!』
コキャン!
再び響く指コキャン。
「えっ!嘘でしょ!嘘でしょう!僕は心から男なんだぞーーー!!」
シオンの身体が光り輝き、少しずつ収まっていく。
その先には少し背が縮み、胸とお尻が女を主張するほど大きくなったシオンがいた。顔は変わらないが。
『そんな、こんなのイヤーーーーーーーーーーー!!!』
シオンの絶叫が異界に響いた。




