第27話 51VS11
俺が選んだ駒は、ルーザ、祭り、楓、狼のガロン、烏のヤタ、蛸のクラコ、牛のウッシー(祭り命名)、食火鶏のヒクイ、日本狼のホロケウ、鯨のボエルだ。
陣地の境界付近に楓、その後方に第一陣としてウッシー、ガロン、クラコ、祭りを配置し、残りはマリアを守る第二陣に配置した。
「カード展開!」
目の前に長方形の発光体が出現する。
一段十枚ずつが三段、上と真ん中が青のカード、下が白のカードだ。
『「ディード」』
試合開始の合図、黒煙が墜ちる。
ドオンンン!
試合開始と同時に、楓が単独で敵陣地に侵入、進行を遮るように端から端まで撒き菱をバラまく。
仕事を終えて撤退しようとする楓に、空駒四体による矢が迫る。
上方から下方に放たれている矢なので、速さも威力も高い。
メダルを消費して”ワープ”のカードを使うか逡巡したが、楓が危なげなく矢を躱し、時には忍者刀でたたき落としていたので、自重する。流石は忍びの末裔。
楓が使っている武器は、全て楓の実家で見付けた物だ。服に関しては、異界に来てから選んだ。
今の楓の格好は、”お色気忍者”とでも言うべき物だ。黒を基調とした忍者服で、肩を露出し、太股と胸元を大胆に強調するデザインだ。
ルーザが楓に「そういう格好の方がご主人様が喜びますよ!」という言葉を吹き込んだ為に、あの格好になってしまった。
・・・好きだけどさ!あんな格好他の男に見られたくないんだけど!!
楓が祭り達に合流した頃、向こうの駒も動き出す。
横一列に十体の陸駒が前進する。
・・・”並列思考”を持っていないにしても、動きがぎこちなさすぎる気がするのだが。
すぐに撒き菱がバラまかれた一帯に差し掛かる。・・・止まらずに前進だと!足の裏に刺さったまま駒が前進してくる。
シアンが苦しんでいる様子が無い。
「ご主人様、おそらく”痛覚耐性”のスキルかと」
”痛覚耐性”は、痛みを十分の一にする効果があるらしい。代わりに駒の操作性が落ちるという欠点があると、ルーザに教えて貰っていた。
多くの駒を使用する弱点の一つとして、痛みがある。単純に考えて、リンクする駒の数だけ痛みを感じる身体が増えると言うことだからだ。
奴の駒の動きのぎこちなさを考えれば、”痛覚耐性”を持っているのは間違いないだろう。
「メダルを使用、ワープ!」
青のカード”ワープ”を発動し、ヒクイをいまだ動きが無い、敵駒が密集して居る場所に送り込む。
『何をするつもりだい?』
「暴れろヒクイ!」
ヒクイのスキル”暴走”を発動する。同時に、俺とのリンクが切れ、勝手に暴れ出す。
第三戦の報酬で手に入れたスキルクリスタル”暴走”をヒクイに使用して置いた。
俺は、勝つためにヒクイを捨て駒にする事を選んだ。
ヒクイが暴れ、次々と敵の陸駒が破壊されていく。
向こうの陸駒の装備の大半は、柄の長い槍の為、近距離に現れたヒクイに対応できず、離れた位置の駒は、味方の駒が邪魔で攻撃に移れない。
ヒクイのジャマダハルが敵を切り刻み、鋭い足の爪が身体を抉る。
最後には、複数の駒でヒクイを押さえ込み、味方ごと槍で刺し貫いて、ようやくヒクイは消滅した。
”暴走”によって、俺とヒクイのリンクは切れているため、俺自身は痛みを感じていない。
ヒクイを捨て駒にした戦果は九体、半壊状態が五、六体と言ったところか。
撒き菱で行動を制限したところに送り込めていれば、もう少し戦果を上げられただろうが、そう簡単にはいかないか。
ちなみに破壊されたヒクイだが、次のシャスティングで問題なく使用できる。
敵の陸駒が俺の第一陣に迫っている。
二枚目のカードを切るか。
「メダルを使用!バリケード!」
『メダルを使用!エフェクトブレイク』
俺が青のカード”バリケード”を発動しようとすると、白のカード”エフェクトブレイク”によって効果を打ち消される。
だが、想定内だ。
「メダルを使用!バリケード!」
『メダルを使用!エフェクトブレイク!』
「メダルを使用!エフェクトブレイク!」
俺達が勝つためには、どうしても”バリケード”が必要だ。だから、カード効果を打ち消す”エフェクトブレイク”を使い切らせる必要があった。たとえ、メダルが残り一枚になったとしても。
ちなみに、”エフェクトブレイク”はカード発動から三秒以内に使用しないと効果を発揮しない。
”エフェクトブレイク”の効果で”エフェクトブレイク”を打ち消し、ようやく”バリケード”の効果が発揮され、第一陣の左右に高さ二点五メートルの壁が出現する。
これで、空を飛べる駒以外はバリケードが無い中心、第一陣が陣取る場所以外から先へは進めなくなる。”潜水”のスキルでも壁の下は越えられない。
『流石は固金だ!使い所が難しい”バリケード”をワザワザ二枚入れておくなんて』
”バリケード”は海、陸駒に対して高い防御効果があるが、空を飛ぶ駒に対しては無意味。相手が青のカードの使い手なら”ワープ”等で効果的なカードとは言えなくなる。
何より使用条件が厳しい。俺の駒が敵陣地にいる場合、壁は消滅し、カードの効果も発動出来ない。
”バリケード”は完全に防御一辺倒にしか使えないカードだ。
敵の陸駒が第一陣の先頭に居たウッシーに、一斉に槍を突き入れようとするが、出現した光の壁に阻まれ届かない。更に敵の駒十体の内、八体が動きを止める。
ウッシーに与えて置いたスキル、”障壁”の能力で攻撃を防ぎ、その隙に背後に控えていたクラコの蛸足八本が、敵ごま八体に触れ”催眠”を発動したのだ。
光の壁が消えた瞬間、動きが止まっていない二体の駒にガロンとウッシーがそれぞれ仕掛け、装備している甲大剣とバトルアックスで破壊、同時に動きが止まっていた駒を祭りとクラコが全て破壊する。
祭りの武器は籠手なので、リーチと攻撃力を上げるため、フレイルを持たせている。
フレイルは、柄に鎖が付き、その先に刺付きの鉄球が繋がれている武器だ。”剛力”のスキルと遠心力を利用すれば強力な一撃を生み出せる。
ウッシーのバトルアックスと祭りのフレイルは、”世界の武器展”で手に入れた物だ。コスプレまでして手に入れた甲斐があったよ。
これで十九体!
「まさか、”催眠”のスキルがこんなにも重宝するとは」
クラコが”催眠”のスキルを使えたのは、白のカード”スキル譲渡”を使用したからだ。
”スキル譲渡”はプレーヤーのスキル一つを、駒一体に譲渡するというものだ。よって、シャスティングが終わるまで俺は”催眠”のスキルが無い状態だ。
メダルも無くなってしまったが。
『これは僕の勝ちかな~、固金~』
「痛みが十分の一とはいえ、これだけ駒が壊されているんだ。苦痛は半端ないだろう?」
半分強がりで尋ねる。
向こうはメダルを三枚残しているからな。
『問題無いとも、固金は僕のことを心配してくれているようだが、僕は母親に虐待されていた事があってね、痛みを快感だと思わないと生きていられなかったのさ!』
シアンの歪みと狂気が滲み出てくる。
『そろそろ、このシャスティングを終わらせよう』
空の駒十体が壁の上を越えて進軍する。
「マリアちゃんの所へは行かせない!」
楓が手裏剣を打ち、空駒の翼を傷付けていく。
・・・今、一度に六枚投げていたような・・。全部当たってるし。
高度が下がってきた駒に、楓が鍵縄を引っ掛けさらに下げる、そこに、祭りがフレイルを叩き込む。
空駒一体が消滅。
その間にルーザが、弓矢持ちの空駒四体の眉間を、一撃で貫き消滅させていく。
見事な早技だ。
第二戦の時、ルーザが弓矢を使用できていたのなら、負けていたのは俺だったかもしれない・・・。
残りの空駒三体はヤタで牽制している。
ルーザがヤタの援護をしようとしたとき、敵駒がボロボロになりながらヤタに掴みかかる。
『ヘビープラス』
シアンが緑のカード”ヘビープラス”を発動、ヤタに掴みかかった駒が重くなり、回転しながら床に這いつくばる形で落とされる。
落ちたときの衝撃は無いが、叩きつけられた時の痛みが全身に広がる。
そこに、残り二体の空駒が接近し、味方ごと槍で何度も突き刺す。
床に這いつくばっているため、武器の尖端しか刺さらないから仕方がないとはいえ、何度も何度も刺しやがって!
ヤタと覆い被さっている敵駒が光に変わり始めた瞬間、接近したボエルとホロケウによって残りの空駒が両断される。
これで二十九体!残り二十二体!
第一陣に陸駒八体が接近、さらに海駒五体が第一陣の背後に出現する。
第一陣の真下を”潜水”で通り抜けてきたか。
追い討ちとばかりに、別の海駒五体が第二陣に迫る。
「リベリオンボルト!」
青のカード”リベリオンボルト”は、自分陣地に自分の駒の倍以上の敵駒が存在するとき、敵プレーヤーのリンクを五秒間解除するという、文字通り反逆の為のカードだ!
全ての駒の動きが止まった瞬間、全力の攻勢に出る。
敵を全滅させる前に駒が動き出したため、反撃を受け、ボエル、ヤタが消滅した。
「ドーディ」
クラコは、今にも消滅しそうなほどボロボロなので、退場させる。
”催眠”のスキルに気が付いたのだろう、クラコは集中的に狙われた。
これで”サクリファイスパワー”の使用条件は満たした。
ホロケウは、片腕を失ったが問題は無い。
ガロンとウッシーは、傷だらけだが五体満足だ。
祭りとルーザは軽傷、マリアは絶対に動かないよう厳命したので無傷。
一番酷いのは楓だ。左足を切断されて動けず、痛みに顔を歪めている。
楓達人駒は、どれ程傷ついても死にはしないし、血も流さないが、痛みはある。
傷口は、ガロン達同様、石像が傷付いたような状態だ。
・・・海駒は対処が後手に回ると厄介なため、無理をしてでも全滅させる必要があった。
結果、俺の駒は六体に対し、シアンは四体。
なんとか数が逆転したが、大きな犠牲を払う事になった。
人駒である楓は俺の意思では退場させられない。
楓は、十分に役に立ってくれた。後は休んで貰おう。
「楓!良くやった!もう、たいじょ・・う・・・」
気付いてしまった・・・。
フィールドを端から端まで見渡すが、どう見てもシアンの駒が三体しか居ないことに!
「キャアアアアアア!!」
「このーー!」
悲鳴を上げたのはマリア。投げ槍によって、腹を貫かれて倒れていく。
明らかに消滅するほどのダメージを負ってしまった。
マリアを襲った駒をルーザが攻撃するが、掠めただけで、逃げられる・・・・・。
「ご主人様!マリアさんを!!」
「つ!ヒール!」
試合前にマリアには、”生存本能”のスキルを取得させて置いた。おかげで、消滅する前に白のカード”ヒール”を発動し、首の皮一枚を繋ぐ事が出来た。
あの時、マリアが倒れるのを見て、頭が真っ白になってしまった。
ルーザが声を掛けてくれなければ、”ヒール”を使うことが出来ずに負けていただろう。
クリムゾンの戦術、カードの回復効果とスキル”生存本能”のコンボを参考にしておいて良かった。
マリアを襲ったのは、カメレオンの駒。確か、姿を消せる”保護色”のスキルを持っていたはずだ。
乱戦に紛れて接近に気付かないなんて!情けないな、俺は!
ホロケウの村正によって、カメレオンの駒は両断され、消滅した。
『やはり、スゴいよ君は!五倍の戦力差を覆すなんて!』
その声音が、心からの賞賛であることを伝えてくる。
『でも、ここからが本番だ!スキルコピー!対象は”並列思考”!』
白のカード”スキルコピー”には、相手プレーヤーのスキル一つを名指しすることで、自身にコピー出来る効果がある。
俺が”並列思考”を持っていなければ不発に終わっていたはずの効果。
『四十八体。”スキルコピー”を発動するための条件、試合開始から三分の時間を稼ぐ為に、四十八体の駒を犠牲にする事になってしまったよ』
「時間を稼ぐ為なら守りに徹すれば良かっただろう」
どういうつもりか知らないが、時間が経てば使えるカードの数が増える。
数で勝る以上、無理に攻める必要は無い。
『そんなことをしたら、君は今ごろ駒を失わず、メダルも残していたじゃないか』
「全部、計算通りだって言うのか」
『イヤイヤ、この短時間で四十八体も破壊されるなんて思わなかったよ。ピースリバース』
さり気なく、緑のカードを発動しやがった!
”ピースリバース”は、相手より自分の駒の方が少ない場合、相手陣地で破壊された駒一体を、その場に復活させるカード。
相手が”並列思考”を得た以上、駒が増えるのはマズい!
何より、満身創痍のマリアの近くにはルーザしか居ない!
「エフェクトブレイク!」
”ピースリバース”の効果を無効にし、その間にホロケウをマリア達に合流させる。
『エフェクトブレイクを使ったね!固金!!ハハハハハ時間崩壊!』
二枚目のピースリバースを使うのかと思ったら、ここで”時間崩壊”?
緑のカード”時間崩壊”は、カードを使用するための時間を、互いに、二倍にするというものだ。
ルーザの話では、三十秒ごとにカードを使用するためのゲージが一つ溜まるらしい。
”時間崩壊”を使われたことで、一つのゲージが溜まるのに一分掛かるようになってしまったが、ワザワザ今使用した理由が分からない。
メダルがある以上、俺よりも使えるカードの数は多いのだから、攻める為にカードを費やせば良いはずなのに・・・。
『時間崩壊!』
また”時間崩壊”!いったい何を考えているんだ!?
『固金!なぜ僕が時間崩壊を二枚使ったのか分かるかい?あまり知られていないことだけどね、”時間崩壊”を二枚使うと効果が変わるんだよ!互いの時間が崩壊するにね!』
「つ!ワープ!・・・・・・クソ!!」
予想通り、カードが使えない!おそらく、ゲージそのものが消滅してしまった!
どれほど時間が経っても、もうカードが使えるようにはならないだろう。
シアンはメダルが三枚残っているため、カードを使用できるのに対し、このシャスティング中、俺はカードを発動出来ない。
全てがこの状況を作り出すための布石だったというわけか!
『ゲームを終わらせる前に、君の女達を全員、じっっっっっっっっくり壊してあげるよ。コ~ガ~~ネ~~~~!!』
シアンの狂気が、バトルフィールドを覆っていく。
俺の心に、絶望が這い寄る。




