第25話 故郷へ
バイトが無い放課後は、学校の図書室でシャスティングに役立ちそうな本を読むのが当たり前だった。
俺が入学した高校の図書室は人気が無く、いつ来ても誰も居なかった。
そんな図書室に変化が有ったのは、俺が二年生になって間もなくの頃。
ある日図書室に行くと、一人の見慣れない女の子が本を探しているようだった。
何故か俺は、その子に話し掛けていた。
「何の本を探しているんですか?」
「えっ!」
俺が部屋に入ってきたことに気付いていなかったらしい。
「ふ、フランスの服の歴史について書かれた本って、どこにあるか判りますか?」
「服についてなら、向こうの角の棚です」
彼女が探していた場所とは全然違う場所を教えることになってしまった。
「あ、ありがとうございます!えっと、二年生・・・先輩ですよね?私、一年の愛川美鈴といいます」
一見地味な子だ。黒縁眼鏡にフワリとしたショートカットがそう思わせるが、整った顔立ちと気品のあるたたずまい、制服では隠しきれない色香は、どこかの令嬢を思わせる。
「二年の暗崎固金です。よろしく」
その後、何度か図書室で会い、幾つか言葉を交わした。
それが、俺と美鈴ちゃんとの関係だ・・・のはずだった。
「先輩!?」
「美鈴ちゃん!?」
楓を我が家(マリアの家)に迎えてから一週間以上が過ぎたある日、登校しようとマンションのエレベーターに乗っていたら、美鈴ちゃんに遭遇した。
「先輩、安いアパートに住んでるって言ってませんでしたっけ?」
「あ、ああ・・・」
こんなこともあろうかと、三人の登校時間をバラバラにしていたけど、まさかマンションないで、しかも美鈴ちゃんに見つかるとは、どう言い訳するか。
「実は、このマンションに住んでいる、ある人の朝食を作るバイトをしているんだよ!実入りが良いバイトなんだけど、正規の仕事って訳じゃないから学校にバレたくないんだ。だから、他の人には言わないで欲しい」
美鈴ちゃんには、俺が金銭面で余裕が無いという話をしたことがあるので、一応の理解はしてくれるはず!
「・・・・・彼女さんって、金髪巨乳のハーフで、家がお金持ちだって噂ですよ。誰の彼女さんの話かは知りませんけど」
俺がマリアと同棲している事はバレてる!だが、他に三人いるとは気付いていないようだ。
「なんか、今ホッとしませんでした?」
「いや、バレたのが美鈴ちゃんで良かったかなって」
なぜ気付かれた!?
「・・・じゃあ、黙っている代わりに、こんど私のお願いを聞いてください。良いですね、先輩!」
「・・・ハイ」
良い笑顔で約束させられてしまった。
・・・・・美鈴ちゃんってこんな子だったっけ?
俺が動揺しているうちに、そのまま二人で登校することになった。
☆
三日後、マリア、ルーザ、祭り、楓を含めた五人で、朝から俺の地元に来た。
目的は、楓の実家に行くことだ。
楓の実家には、由緒ある武器が保管されているそうなので、戦力アップのために見せてもらいに来たのだ。(ハンティングギアに読み込ませるため)
地元の駅に着くと、真っ直ぐ楓の実家に向かう。
祭りは自分の両親に会う気は無いらしく、俺も、家族に会っても不愉快な思いをさせてしまうだけなので、問題は無い。
田舎ではあるが、駅の周りは都市化が進んでいる。
楓の実家は、五キロほど離れた山の方にあるということなので、バスで向かうことになった。
「新幹線というのもそうでしたけど、金属の中に入って移動するって、なんだか変な感じがします」
エルフ耳をツインテールと青い髪飾りで隠すルーザが、バスを降りると呟いた。
ルーザの世界には、自動車の類は無かったようだ。
本人に確認すると、制約が働いて苦しめる事になりかねないので、向こうの世界について聞けず、ルーザの何気ない言葉から予想するしかない。
「皆、こっちよ」
楓の案内で木々に囲まれた道を進む。
こんなに青々とした匂いを嗅ぐのは久しぶりだ。
今は六月、さっきまで日差しに当てられていたので、木々が影になっているのは有難い。
整備された道ではないため、体力が削られ汗が流れる。
ここまでで、一番体力が無いのはルーザだと判明した。祭りに肩を貸して貰っている。
「ゼエゼエ、すみません」
途中から俺がルーザに肩を貸す。
ルーザはエルフだからなのか、皆より肌がしっとりとしている。
土や木々の匂いに混じって、かすかにルーザの匂いがして、少し恥ずかしくなった。でも、安心する匂いだ。
いつの間にか、趣のある黒い家が見えていた。
古いが立派な家だ。六十坪はあるんじゃないか?
俺達が近付くと、玄関から和服の老人が出てきた。
老人の背筋は曲がっておらず、服越しからでも鍛えているのが分かる。
「お爺ちゃん、久しぶり!」
「よく来たね、楓」
「ここに保管されている武具が見たいんだけど、見ても良い?」
楓が交渉する。
「見るだけなら構わないよ。付いてきなさい」
そう言って、案内をしてくれるお爺さん。なんというか、隙がない人だな。
☆
案内された倉の中に入ると、電球に光が灯り、橙色の光が倉庫の中を照らす。
「・・・忍者?」
倉庫の中に有ったのは、忍びの道具と思われる物だった。
様々な形の手裏剣に、仕込み刀や暗器の類い、鍵縄や鉤爪などが保管されていた。
「ここに有るのは、我が立花一族が”忍”びとして活躍していたときの物だ」
「お爺ちゃん!?忍びって何?私初耳なんだけど!」
楓は忍者の末裔って事か?
「わしらは夢魔の末裔とされ、その為か不思議な力を使える者もおったそうな。故に忍びとして功を立てることが出来たようじゃ。なぜか、女児が産まれた場合は必ず殺せと伝えられていたのう」
不思議な力は、スキルの事だろうな。
・・・女児を殺していたのは、男を惑わすからって所か。楓のようにスキルをコントロール出来なかったんだろうな。サキュバスの血を引く女はサキュバスになるらしいからな。
「楓、お主に護身術と称して教えていたのは、忍びの技の応用じゃよ」
「そう・・・だったんだ。ありがとうお爺ちゃん。お爺ちゃんに教わった技で結構助かったよ」
男に何度も襲われたらしいからな。
「そうか、それなら良かった。・・・それじゃあ、わしは昼寝でもするから、好きなだけ見ていきなさい」
「うん、元気でね、お爺ちゃん」
最後には、好々爺とした笑顔を浮かべ、去って行った。
今のやり取り、なんか違和感が・・・・・
「欲しいのがあったら持って行けってさ・・・相変わらずだね、お爺ちゃんは」
「粋というか、不器用というか、まあ、いい人だな」
「面子やら世間体やらを気にする、うちの両親とは大違いよ」
楓は、お爺ちゃん子だったのかな。信頼しているのがよく分かる。
「じゃあ、始めますか!」
右手にハンティングギアをはめて、武具を読み取っていく。暗がりで初めて気付いたが、掌から淡い光が発生していた。
これは使わさらないだろうという物も、一応読み取っていく。
「なんだ?」
何もないはずの場所に、違和感を感じる。
ハンティングギアをかざして、表示と念じる。
〔霊樹の木刀〕 スキル武器
スキル⚫透明 ⚫再生 ⚫霊脈
⚫透明:姿を消すことが出来る
⚫再生:再生する
⚫霊脈:魔力を回復する。庇護者にも効果が伝播する
スゴい物が出てきた!・・・まったく見えないけど。
「スゴいですね。スキル武器とはいえ、スキルが三つも付いている武器なんて珍しいですよ。”再生”スキルの効果で、半伝説の武器になってますし」
ルーザから見てもスゴい物らしい。
指を這わせて、形を確認していく。手触りは、確かに木刀だ。長さは、五十~六十センチってところか。
「俺を透明にする事も出来るのか?」
「”転換”のスキルが無いと、武器に付与されたスキルを自身に使用するのは不可能ですね」
「今のままじゃ、宝の持ち腐れか・・・だけど、気に入った。こいつは、現物を貰おう」
「そもそも、スキル武器はコピー出来ませんよ」
早く言ってくれよ!
☆
倉庫から出た俺達は、楓のお爺さんに挨拶をして帰ることにした。元から日帰りの予定だったので、長居するつもりも無い。
挨拶に行くと、漬物やらお菓子、山菜の入った包みを渡された。お返しという訳ではないが、楓と俺で作った”野菜たっぷり豆腐弁当”を渡した。
最後に、「ひ孫を楽しみにしておるからの!」と言われた。・・・大体の事情は察していそうだな、この人。
そんな一幕を、駅に向かいながら思い出していた。
「この辺りも変わったな」
多分、もう故郷へ戻ってくることは無い。だから、最後に向き合っておきたい場所があった。
十二年近くも近付かないようにしていた場所。
俺が五歳の時、あのイヤリングを拾った公園。
「ここが、固金さんの人生の転換点。・・・・・固金さん?」
「・・・なんで?」
マリアの呟きは、途中から聞こえていなかった。
目の前の光景に、困惑と確信が入り乱れた。
朧気な記憶の中には存在しなかった物。
異界へと向かうとき、必ず存在していた物。
公園の隅に、あの銀の大時計が置かれていた。
カチリという音が聞こえた気がした。
世界が黒く染まる。
★
『ようこそ、皆さん。僕が四回戦の相手、シアンと申します』
やけに、かん高い男の声が響きわたる。今は気分が悪い。余計に不愉快だ。
『では、駒の譲渡から始めましょう』
頭がモヤモヤした状態で、シャスティングの時が迫ってくる。




