第23話 楓の王子様
私は男が嫌いだ。いや、怖いの間違いか。B
切っ掛けは、私が十三歳の時に三人の男達に誘拐されそうになったことだ。
あの時、一人の男が私を後ろから抱え、車に引きずり込もうとしながら胸を揉んできた。あの時の感触が悪夢のように蘇る時がある。
その事が切っ掛けなのだろう、その日以来男に触られるとジンマシンが起きて、酷いときは吐き気がこみ上げて来る。実際、嘔吐した事もあった。
あの事件の切っ掛けは母だった。”十三歳にしては大人びている美少女”としてテレビ番組に出演したが、私の意志を無視して、母が勝手に取材を受けた。男達が私に目を付けたのは、その番組を観たからだった。
この事件が切っ掛けで、私は引っ越した。ニュースで名前が出ることは無かったけど、住んでいた場所が田舎だったため、噂があっという間に広がったのだ。
私よりも、両親の方が辛かったらしい。
十五歳になると、人生が悪化した。
出来るだけ地味な服や髪型をするようにしていたけど、強引なナンパや痴漢に遭う事が一気に増えた。
学校の男子が影で私の下卑た妄想をしているのを何度も聞いた。先輩に強引にキスされそうになったことも一度や二度じゃない。
そんなことが続けば続くほど、私の王子様への想いは強くなっていく。
大学に進むと同時に、一人暮らしを始めた。
高校を卒業する頃には同性に嫌われるようになっていたため、私のことを誰も知らない場所で生きたかった。
「私の彼氏を返せ!」などと言われた事が何度あったか。私は誰とも付き合っていないし、奪った覚えも無いのに。
親元を離れたのは、母親と上手くいっていなかったのと、父親が自分に向ける目が、嫌なものに変わってきていたからだ。
なぜか、私に劣情を抱く男は多い。自分の容姿が優れていると言っても限度がある。
少しでも襲われる回数を減らそうと、色々工夫した。
胸に性的なものを感じやすいなら、サラシを巻いて小さく見えるようにした。
化粧をキツくして、目を合わせないようにして、表情を無愛想にして、言葉を素っ気なくした。
努力の甲斐あって、私への下卑た視線はほとんど無くなった。
これなら無事大学生活を送れる。そう思っていた矢先、事件は起きた。
ヤリサーの噂があったサークルの男にぶつかってしまったのだ。
それからしつこくサークルの人達に誘われるようになり、実際ヤリサーであることを暴露してきた。
ぶち切れた私は、ヤリサー共を男として再起不能(物理的)にしたあと、大学を辞めた。女達の方は楽しんでいたのか、脅されていたのか分からなかったので放置を選んだ。
それからは、”オリジン”で働く事に集中した。
元々、大学生活の時間を持て余していたから始めてみたのだが、予想以上に儲かった。大学を辞めてからは、メニューを増やしたのもあって、毎月の売り上げが約四倍(百万円前後)になった。
給金は売り上げの半分以下だけど。
”株式会社オリジン”の仕事内容は私に合っていた。
料理を作るのは好きだったし、いくつかのきまりを守れば自由にメニューを決められる。何より、誰かと一緒に仕事をする必要が無い。
定期的に、衛生面や売り上げを誤魔化していないかなどを調べるために、会社の人間が来る事はあったが、”オリジン”の正社員はみんな女性だったので特にトラブルもなく日々すぎていった。
毎日キッチンカーでお弁当を売る日々に変化が起きたのは、大学を辞めた半年後の事だった。
肌寒い秋が近付いてきた頃、毎週金曜日にある高校の近くで販売するようになると、一人の男子高校生が毎週お弁当を買いに来るようになった。
最初に彼が訪れたとき、私自慢の”三色カツサンド”を買っていった。
その時は、互いに事務的な言葉しか交わさなかったのだが、次の週に訪れた彼は、言葉少なげだったが、私のお弁当を絶賛していた。
男の人は怖いが、彼に褒められたのは、素直に嬉しかった。
彼が訪れるようになって五ヶ月近くが経った。
少しずつ、本当に少しずつ互いに交わす言葉が増えていった。
彼が来てくれるのが、少しだけ待ち遠しく感じるようになっていて、同時に王子様への思いが薄らぐのが分かり、寂しくも感じていた。
彼が普通の高校生なら、こんな想いはしなかっただろう。
でも、彼が私と同じように、何かを抱えているのが分かってしまったから。通じ合えると感じてしまったから。
だから油断してしまったのだろう。
お弁当を渡すとき、彼の手に私の指が触れてしまった。
彼は、少し照れているようだった。
良かった。私に欲情している様子はない。・・・・・もしかして、女として興味を持たれていない!?
そんなことを考えていたから、気付くのが遅れた。
男に触れたのに、ジンマシンが起きていないということに!
今さら王子様を見付けるなんて不可能だ。
だったら、この人しかいない!と心に決めたのにも関わらず、なかなか一歩を踏み出せずに、一カ月が過ぎた。
ある日、今更になって彼の名前を知らないことに気付いた。
きょ、今日は頑張って、彼の名前を聞こう!エプロンのバッジのせいで、向こうは私のし、下の名前を知っているし。・・・不公平だし!
だけど私は、結局名前を聞かなかった。
その日、訪れた彼の顔が、憑きものが落ちたように、自然に笑っていたからだ。
もう、同じ世界の人間じゃ無いと思った。
ダメ出しとばかりに、いつも一つしか買わないお弁当を三人分買って、幸せそうに彼女が出来たことを仄めかしていた。・・・人の気も知らないで!
やっぱり、私には王子様しか、こがねさましかいない!
毎週土曜日、木々に囲まれた公園の外側でお弁当を売っていた。
いつもより多く作ってしまったためか、普段ならとっくに完売している時間になっても売れ残っていた。
そろそろ引き上げないと、明日の仕込みが大変になる。そう思っていたときだった、一人の男の子が近付いてきて・・・。
意識がボウッとして、気が付くと、お弁当を買いに来てくれる彼がいて、さっきの男の子が倒れていて、二人の会話から私が何かされたのを知って・・・・・全身の違和感に気付いた。
指が触れた程度じゃ起きないジンマシンが出来ていて、吐き気も感じる。
私、何をされたの!!!?
気付いたときには、名前も知らない年下の彼に抱き付いていた。彼にすがりたくて仕方がない。生きていくために取り繕っていた心がボロボロに崩れていく。もう、独りじゃ支えきれない!
その後、彼に何かを言われて移動を始めたが、よく覚えていない。頭では分かっているはずだけど、心が現実に付いてきてくれない。
次に意識が浮上したのが、見覚えのない湯船の中だった。
そこでようやく、自分の周りで起きたことに目を向けることが出来た。それでも、上手く思考がかみ合わない気がする。
どれ程時間が経ったのだろう、自分がのぼせている事に気付いた。義務感のような思いで身体を洗い、浴場を出た。
ちょっとした迷路のような廊下を、朧気な記憶と聞こえてくる声を頼りに歩き、ようやく彼が居る場所に辿り着いた。
リビングに入ると、中には四人の男女がいた。
その内の一人、綺麗な紫の長髪に紅の瞳、尖った長い耳を持つ美少女に色々聞かれた。って!部屋にいる女の子全員可愛いよ!!
エルフみたいな女の子の話を、ちぐはぐな思考で聞いて答えていた。そうしているうちにバラバラだったモノが一つにまとまって・・・・・。
「私を愛人にして下さい!」
・・・・・私・・今何を言った?
そうだ、目の前に居る彼が私の王子様で、その彼には彼女がいて、でも離れたくなくて、じゃあ愛人になれば良いじゃん、と思って、・・・・・どういう状況なの、これ!?
訳が分からなすぎる!というか、私はなぜ土下座した!!
⚫⚫⚫
突然の出来事に驚いたためか、楓さんに対しての劣情は治まった。
「なぜ愛人に?いや、その前に王子様ってなんですか?」
「・・・八年前の冬に、警察に通報したでしょ?」
八年前?確かにそんなことがあったような・・・。
「あー~~~~~~!もしかして、立花楓さん?じゃあ、あの時誘拐されかけた人って!」
「う、うん、それが私だよ。・・・あの時にね、警官の人から、”くらさきこがね”っていう名前の小学生が通報してくれたって聞いて・・・それからずっと、その子は私の王子様で・・・」
あの事件の被害者が楓さんだったのか。
「私、なぜか男の人に襲われることが多くて、祖父から教わった護身術でなんとか身を守ってたんだけど、辛くて。顔も知らない王子様が、ずっと私の・・・支えだったの」
すがるような目で見詰めてくる楓さんに、再び情欲が湧き上がる。
「・・・・・ご主人様、今、発情してません?」
「へ、変なこと言うなよ!」
これは、本当にマズい!確かに楓さんを性的におそいたくなっている。
”催眠”のスキルで一時的に自分の意識を飛ばすか?いや、それじゃあ根本的な解決にならないし。
「ハンティングギアで楓さんを表示してください、ご主人様」
ハンティングギアで表示?取り敢えず言われた通りにしてみる。
〔立花楓〕 サキュバス・異界人 二十歳
スキル⚫妖艶
⚫妖艶:性的なものを感じる要因により異性の性的な欲求を高める
表示を全員に見えるようにする。
ルーザ以外の全員が驚いていた。
「・・・私が・・・サキュバス?異界人?」
「推測になりますが、私の見解を述べましょう」
ルーザが楓さんの正体について語り出す。




