第20話 火魔法vs閃き
シャスティング開始と同時に、三体の通常駒を突撃させる。
予想通り、向こうはプレシャスを守ることに全力を注ぐようだ。
四体で密集陣形を組み、その内側にいるプレシャスの前に牛の駒を配置している。タワーシールドの特性を生かすためだろう。
こちらは万が一に備えて、ルーザと祭りをマリアの護衛に当てている。
今回ルーザは、パープルのときには使えなかった、彼女本来の武器である弓矢、”ウタ”を使用している。
弓矢には攻撃回数に制限があり、ルーザの背中の矢筒には矢が八本しか入っていない。これは、シャスティング上の決まりだ。
話は変わるが、ルーザの現在の格好は、一言で言うと”妖精の娼婦”だろうか。
大胆に胸元と太ももを露出した淡い紫の布に、金の帯を着けただけの、防御力がほぼゼロの服だ。・・・・・簡単に脱がせられそうなデザインなんだよな。
マリアと祭りは以前と同じ物を着ている。
一度決めると選択し直す事が出来ず、どうしても替えたい場合は、自力で用意しなければならないが、シャスティングに適した服など簡単には用意できない。
この勝負、勝てないなどとは微塵も考えていない。
相手のメダルさえ消費させれば、幾らでも勝ち筋が見えてくる。
逆に言えば、相手にメダルを温存されれば確実に負けるだろう。
まずは挑発してみますか。
「どうしたクリムゾン!そっちは攻めてこないのか?偉そうな事を言っていたくせに、ただの腰抜けなのか!」
「・・・・・」
さすがにこの程度の挑発には乗ってこないか。
ガロンとヒクイが敵駒と接触する。
二体の攻撃に敵の陣形は揺らぐが、崩すにはほど遠い。
接触から数秒後、クラコが追いついたが戦闘には参加させない。
敵は守ってばかりで、自分から動こうとしない。
ここまでは予想通りだ。
イレギュラーが無ければ勝てるだろう。
『ファイヤー!』
クリムゾンの手から炎が生まれ、自分の駒ごとガロンとヒクイを焼く。
炎を浴びたのは俺が二体、向こうは五体まとめてだ。どう考えても向こうの方がデメリットが大きいはずなのに。
「ぐうっ!」
熱さは感じないが、焼かれた痛みがジワジワと全身を覆っていく。
炎が止み、駒の姿が見えてくる。
身体の各所が溶けている俺の駒に対し、向こうの駒は無傷。どういう事だ!?
「第三戦で魔法が使える者を出すなんて。ご主人様!奴の駒は炎を無効化するスキルを持っています!」
ルーザが情報をくれる。
メダルを使用した気配は無かったから、スキルなのは間違い無いだろう。
あ~~~身体がヒリヒリして駒を動かしたくね~。
先手を取られた以上、全力で動くしかない!
『があああああ!!・・・・・何が!・・・」
クラコを二体の後方に置いて、攻撃させなかったのはなんでだと思ってやがる。
クラコには”潜水”のスキルがあるが、下半身が尾鰭ではなく二足歩行のため、他の海の駒のように早く泳げない。
だから、クラコの蛸足だけを伸ばして地下を泳がせた。
結果、背後から十の湾刀に次々切られることになった。
クラコが元々持っていた”触手のスキルのおかげである。
〔蛸の駒〕 通常駒
スキル⚫潜水 ⚫触手
⚫触手:触手の類を伸ばし、操るスキル
『ガキが!ガキどもが~~~~~!』
「ようやく、らしくなってきたじゃないか」
すかさず挑発しておく。
プレシャス専用陣地が無ければ、奴を直接狙えたかもしれないが。
『メダルを二枚使用!”フィールドリバース”!”フィールドリバース”!』
早くもメダルを二枚使用してくれるのか。こちらとしては有難いが。
ちなみに”フィールドリバース”の効果は、自身の駒全てを少し再生するとういものだ。
他には、駒一体のみを再生させる”リバース”があり、こちらの方が再生効果が高い。
クラコの触手湾刀に気が付くと、盾でガードされるようになるが、全てに対処出来ずに再生した傍から傷ついていく。
『クソクソクソクソクソクソクソクソガキがーーーーー!!』
らちがあかないことに気付いたようで、牛の駒が前に出て来てクラコに突撃を仕掛ける。
この有利を逃す手はない。ガロンを牛の駒にぶつけ、クラコを守る。
『ヘビープラスーーー!』
メダル無しでのカードの発動。とっくに三十秒経過しているからな。
”ヘビープラス”の効果は、二十秒間駒一体の重さを二倍にするというもので、今回対象になったのはガロンだった。
動きが遅くなったガロンの攻撃を盾でいなされ、盾の角張った部分で腹を殴打される。
鈍痛が腹に伝わる。ガロンの”堅牢”のスキルのおかげか思っていたほど痛くない。
ちなみに、”頑強”のスキルはダメージを減らすのであって、痛みを減らすスキルではないため、俺が取得しても意味が無い。俺自身が直接傷ついている訳ではないからだ。
クリムゾンが牛の駒に思考をさいた事で、残り四体の動きが悪くなる。結果、触手湾刀によるダメージが増していく。
ガロンはサンドバッグ状態になってしまっているが、牛の駒の足止めに成功している。
ルーザが言っていた、トッププレーヤーはみんな”並列思考”のスキルを持っているという意味がよく分かる。
パープル戦の時もそうだったが、戦場が二つに別れただけで、相手の駒の制御がおざなりになっている。
俺もグレー戦の時はスキルを使いこなせてなかったが、スキルの存在を認識したことで、同時に複数の事を考えるのが当たり前になっている。
このたった一つのスキルによって勝敗が分かれると言っても良い。
現に、クリムゾンが既にカードを三枚使用しているにも関わらず、一枚も使用していない俺の方が圧倒しているのだから。
とは言え、油断する気など欠片もないが。
”ヘビープラス”の効果が切れた瞬間、俺は勝負に出る!
「ビーストダウン!」
敵の陸駒全ての動きを三秒だけ停止するカード。
ガロン、ヒクイ、クラコの三体に敵の駒を突き飛ばさせる。
さすがに三秒で全ての駒にトドメを刺すことは出来ないが、シャスティングの勝敗を分けるのは、倒した駒の数じゃない。
ルーザの直線上から邪魔な壁が無くなる。
クリムゾンの姿さえ見えれば、ルーザの”必中”のスキルが発動する。
『ガハッ!・・・・・そん・・な・・』
ルーザの放った矢が、クリムゾンの胸を貫いた。
ルーザには、チャンスがあれば射れと言っていたが、相手にメダルを全て使わせてからチャンスを作るつもりだった。
当初の俺は、必要以上に警戒していたようだ。
さらに、ヒクイの強力な蹴り爪がクリムゾンの腹に決まり、ジャマダハルによって右腕を切り落とす。
あのダメージなら確実に破壊した。間もなくプレシャス駒は消滅する。
『メ、メダルを二枚使用!リバース、マジックブースト!』
消滅せずに、カードの発動だと!?
クリムゾンの身体が消滅しない程度に回復し、もう一枚のカードの効果も発動する。
”マジックブースト”は、駒一体の発動する魔法の威力を一度だけ二倍にするという効果だ。
『ファイヤーーー!』
威力二倍の炎がヒクイ、ガロン、クラコを呑み込んだ。
クリムゾンが魔法を使うまでの間、何も出来ないなんて情けない。
全身がチリチリと、痛みで溶けていく気がする。三体の駒の焼かれる痛みが俺を襲っているんだ。
痛みで思考が破綻していく。
駒の動きが止まってしまう。
その時、視界の中に二人の人影が見えた。
⚫⚫⚫
巨大な炎が固金さんの駒を呑み込んでいく。
その時、私の頭の中で何かが閃いた。もしかして、”閃き”のスキルが発動した!
「来て!祭りさん!」
「えっ!」
気付けば祭りさんに声を掛け、私は駆けだしていました。
炎が治まったとき私と祭りさんは、プレシャス駒の前に辿り着いていた。
「ハアーーーー!」
「セイヤー!」
私の剣が身体を切り裂くのと、祭りさんの拳が頭を殴るのは同時でした。
『キサマらーーーーー!!』
まだ消えないなんて!?
クリムゾンが持っていた盾で殴り付けてきた瞬間、矢が彼女の左肩を貫き、体勢を崩す。
さすがルーザさん!
『ガキが!・・・クソガーー-ーーーーーーーーーーー-!』
ようやくクリムゾンの身体は、光となって消えました。




