第19話 エロフの想い
「あん♡おっきいの!・・・きちゃう~♡」
どうやら、ルーザは自分が異界に来たことに気付いていないらしい。
無地の白い半袖に紺色のミニスカート姿のルーザは、右手を自分の下着の中に突っ込み、左手で布を顔に押しつけ、自慰に夢中になっている。・・・・・あいつが持ってるの、俺のパンツじゃねぇか!!
さすがに、これ以上あんな醜態を晒させる訳にはいかない。
「ルーザ!目を覚ませ!」
ピタリと、ルーザの動きが止まる。
ルーザの視線が動き、俺と目が合う。
「・・・・・ご、ごめんなさーい!!」
顔を真っ赤にして瞬時に起き上がり、待機室へと繋がる階段へ走って行くルーザ。
ルーザは、俺が思っていた以上にエロフだったようだ。・・・可哀想に。
『ガキどもが、クソみてーなもん見せやがって!』
随分ヒステリックな声だな。
声の主は、怒りの形相を貼り付けた仮面に、紅色の刺々しい服と帽子を身に付けた女。
『私はクリムゾン!お前らをぶち殺す女だ!』
ルーザの醜態を目撃して切れているのだろうか?
正直ウザい。
『まず、お前たちにはペナルティと報酬を、次の二つから選択してもらう!』
少なくとも、あの女を俺の奴隷にするのは絶対嫌だ。
全ての生物にとって、”うるさい”は悪です!
『敗北したらプレーヤーが死に、勝てばスキルクリスタルが一つ手に入るのが一つ目。二つ目は、勝てばスキルクリスタルが三つ手に入る代わりに、敗北側は全員が死ぬ!ハハハハハハハハハ!さあ、選べ!!』
悪趣味な選択肢だな。どちらにせよ、俺は助からないけど。
とはいえ、どちらを選ぶかなんて明白だ。どう考えても一つ目を・・・・・。
「二つ目に決まってます!」
マリアが宣言した。
「いや、リスクがデカすぎる。一つ目なら犠牲になるのは俺だけで済むんだ!」
最悪、みんなが生き残ってさえくれれば、それで良いんだ!
「アンタ、馬鹿じゃないの!」
「そうです!固金さんが居なくなったら、意味が無いんです!」
「アンタが死んだら、ルーザがどうなるか忘れたの!」
ああ、そうか、奴隷であるルーザは、主人の俺が死ねば一緒に・・・・・すっかり忘れていた。あいつと俺が、本当の意味で一蓮托生だということを。
『なあ、二つ目だよな!二つ目を選ぶよな~!二つ目で良いんだろう~!!』
「三つ目だ!」
『ハアアアアアアアアアア!?』
「俺達四人の命を掛けるのに、スキルクリスタル三つじゃ足りないんだよ!」
リスクを負うなら、リターンは少しでも大きくしないとな!
二人のおかげで、なんか吹っ切れた!
「どうせ死ぬんだ!お前のスキルを全部よこせよ!」
こいつの自信の源が、自分のスキルだとしたら、レアスキルを一つぐらい持っているかもしれない。
『か、勝手に決めてんじゃねーよ!テメーにそんなことを言う資格なんて・・・・・』
『良かろう、三つ目の選択肢を認める。敗北した場合は、四人共々死んで貰うがな』
突如、乱入してきたのはマテリア。声だけであったが、クリムゾンが黙るどころか震えている。
『ま、マテリア様。い、いくらマテリア様でもこ、この様なこ、ことは・・・』
『我がルールだ。我に従え』
『か、か、畏まりました』
どうやら、こちらの要求は無事通ったようだ。
『だ、第三戦のルール説明を行う。第二戦との変更点は、使用出来るメダルが三枚に増え、駒は五体になった。それと、制限時間五分を設ける。その間に決着がつかなければ、私の勝ちだ。変更は以上だ。三時間後にシャスティングを開始する』
大分静かになったな、あの女。説明が終わった後、さっさと消えてしまった。
・・・俺も、シャスティングの準備をしますか。
★
俺達が待機室に移動すると、ルーザが隣の部屋から出てきた。
髪が濡れていたので、シャワーを浴びたのだろう。
あの後、寝室で続きをしたのだろうか?
「あ、あの・・・」
ルーザが何かを言い淀む。
「私達は隣の部屋を借りますね」
そう言って、マリアと祭りが部屋を移動した。
気まずい空気が流れる。
「わ、私のこと、嫌いになりましたか?」
不安そうに尋ねてくるルーザ。
その問いにどう答えろと!
「・・・まあ、正直引いたけど、・・・・・ルーザが俺のこと、慕っているっていうのがハッキリしたのは・・・う、嬉しかったかな・・」
微妙な空気が流れる。
「わ、私は、いつでもご主人様を受け入れる覚悟は出来てますからね!む、むしろ押し倒してしまいたいですから!・・・一番はマリアさんに譲るつもりですけど」
「・・なんでお前は、俺のことをそんなに・・・」
「ひ、一目惚れだったんだから仕方ないじゃないですか!私の理想を体現したような人が目の前に現れたんですよ!シャスティングで競ってみて、この人になら全部捧げられるって思っちゃったんですもん!」
ルーザがそこまで一途に想っていたなんて。
自身の想いを捲し立てたルーザの顔は、恋する乙女そのものだった。
綺麗な女の子とは思っていたけど、こんなに可愛かっただろうか。
無言になった二人の唇が、ゆっくりと近付いていく。
「ん!ん♡んー!♡」
「こ、固金~♡スゴいよ~♡」
微かに聞こえた二人の甘い声に、我に帰ってしまった俺達。
一瞬、覗かれていたのかと思い冷や汗をかいたが、そういう訳ではないらしい。
「しゃ、シャスティングのことで話し合って置きたいことがあるんだけど・・・」
「そ、そうですね・・・・・」
あいつらも、ルーザの姿に興奮していたのか。
変な空気が流れる。
暫くして、俺とルーザは真剣に話し合っていた。
「苛烈な言動が多かったが、攻めよりも守りで来るだろうな」
「向こうは、守ってさえ居れば勝てますからね。使うカードは、間違いなく緑でしょう。これまでのシャスティングは全て確認しているはずですから、新しい戦術が必要ですね」
打てば響く掛け合いをしてくれるルーザ。こういうとき、彼女の存在がとても頼もしいと同時に心地よくも感じる。
ガチャ
マリアと祭りが戻ってきた。
二人とも頬が赤い気がする。
あ、目をそらしやがった。
後は四人で、作戦の打ち合わせをした。
話し合いが終わったのは、待機時間が残り一時間に迫った頃だった。
「固金さん?」
おもむろに立ち上がった俺に、マリアが声を掛ける。
「じゃあ、隣の部屋、使うから」
至って冷静を装って部屋を移動する。
多分、バレバレだろうけど。
仕方ないじゃん。俺だってムラムラしちゃったんだよ!
俺が部屋から戻ってくると、生暖かい目で見られた。
特にルーザは、幸せそうな顔をしている。
ああそうですよ!お前をオカズにしましたよ!ちくしょう!
居た堪れない空気が流れる。と、同時に妙な一体感があった。
《『シャスティング第三回戦を行う!サッサと準備しやがれ!』》
心の中でクリムゾンに感謝した。
★
今回のバトルフィールドは、第一戦のときのように長方形だ。陣地も真ん中で分かれている。
違うのは第一戦のときよりも細長い形をしている事だ。横が五メートル、縦が二十メートル。
さらに、とげ付きの板が空をランダムに動いている。
空の駒はあの板より高く飛べない。つまり、空の駒の動きを制限するための仕掛けだ。
『セッティング、カード展開、スタンバイ、デュード!』
一気にシャスティングの準備を終えるクリムゾン。どれだけせっかちなんだ。
カードの色は予想どおり緑、駒は全てがたいの良い陸駒で盾を装備している。
細かい構成は、大猩猩(ゴリラ)、サイ、熊、象の四体にタワーシールド。牛の駒にカイトシールドだ。
タワーシールドは全て同じデザインで、身を寄せれば全身を隠せる程大きい長方形の盾だ。
カイトシールドは三角の形をしていて、黒を基調に銀の装飾が施されている。あれ、カッコいいな!
奴から貰う駒は牛の駒で決まりだな。
プレシャス駒はクリムゾンの現し身。当然か。
盾は意外にも小型のバックラーだった。もっと大型のものを選ぶと思ったが。
「準備はいいか!」
「ハイ!固金さん!」
「大丈夫です。ご主人様!」
「いつでも良いわよ。固金!」
みんな気合いは十分なようだ。
「セッティング、カード展開」
「スタンバイ」
マリアの言葉により自身を、俺の言葉によりルーザと祭り、さらに三体の駒がフィールドに転送される。
今回の駒は狼のガロンに食火鶏のヒクイ、そして蛸のクラコを選択した。
今回は、意図的に属性を分けた。緑のカードを警戒したがゆえだ。
「ディード!」
ゲーム開始の黒炎が現れ、落ちた。
四人の命が懸かったシャスティングが、今始まった。




