第1話 異界へ
シャスティングは、プレシャスとハンティングの合成語です。
私は、学校で浮いています。
父が日本人で、母がイギリス人のハーフである私は、日本から七歳の時にロンドンに移住し、一年前に、出身国であるこの国に戻ってきました。
泉マリアというのが私の名前です。
見た目が、日本人よりイギリス人に近いせいか、距離を置かれているように思います。・・・・多分。
高校入学直後は、向こうに居たときのようにフレンドリーに接していたのですが、いつの間にか、誰も話しをしてくれなくなっていました。・・・・・・何故でしょうか?
時々、てんね?と言われます。どういう意味でしょうか?
入学から一年以上経った今では、学校で喋る事は、ほとんどなくなりました。
私には、どうすれば良いのか検討も付きません。
・・・・寂しいな。
掃除が終わってから帰りのHRが始まるまでの時間は、いつもこんな事を考えてしまっている。
私は、教室の窓際の席に居る男子生徒を見る。
あの人は、なんかズルイと思う。
誰かと話して居るところなんてほとんど見たことが無いのに、いざという時、皆が彼を頼っている。
あんなに皆と仲良くなれる機会があるのに、自分から踏み込んで行かない。
おかしいです。ズルイです。羨ましいです!
ガラッ!
担任の先生が入って来てHRが始まった。
☆
「なんで、こうなるのかな~」
僅かしか入っていないゴミ袋を片手に、ゴミ捨て場のある裏庭へ向かっています。
教室のゴミ箱に入っていた僅かなゴミを見つけた先生の命令で、何故か私が捨てに行く事になってしまいました。
私の掃除担当は、教室ではなかったのに!
「ちょっとだけ癒されるな~」
この学校の裏庭は庭園のようになっていて、とても綺麗です。
紅葉する木や桜の木が何本もあり、池や川もあります。小さな赤い橋まであるんですよね~。
私が一番気に入っているのは、時計です。銀細工が施された大きな時計。
「あれ?」
ゴミを捨て終わった私は、時計を近くで見てから帰ろうと、そちらに目を向けると、時計の下に光っている物を見つけました。
「ネックレス?」
拾ってみると、五百円玉くらいの青い石がはめ込まれた銀のネックレスでした。
「・・欲しいけど、駄目だよね。ちゃんと届けよっか」
落とし物はどこへ持って行けば良いんだっけ?
「エッ!?」
急にネックレスから青い光が出て、世界が黒く染まる。
★
黒い世界が晴れて、周りが見えるようになったと同時に私は驚く。
目の前にあったのは石造りの四角い闘技場のような物。
闘技場の向こう側には、巨大な四角い門がある。私の背後にも同じ門があり、自分がリングの片側に、立たされている事に気付いた。
「ここ、これしかないの?」
他には、紫の暗雲が広がっているだけ。闘技場と門以外は何も見えない。
「ここは、そういう場所だから」
いつの間にか、彼はいた。
私が嫉妬していた相手。”暗﨑固金”くんが。
「どうして?」
状況が理解できない。
この場所が何なのか。何故、自分がここに居るのか。どうして固金くんまでいるのか。
いったい何が起きているの?
『ようこそいらっしゃいました。お二方』
声のする方を見ると、ピエロのような男の人が、闘技場の逆サイドに立っていました。
笑ったような仮面を付け、灰色の尖った服を着ています。
二重に聞こえる声で陽気に話しかけてくる様は、とても薄気味悪い。
『私の名前は、グレー。あなた方の対戦相手です』
「対戦相手?」
『これからあなた方には”シャスティング”というゲームをしてもらいます。そちらの青年はプレーヤーとして、あなたにはプレシャスとして参加していただきます』
「・・・・プレシャスってなんですか?」
頭が混乱している。
目の前の状況についていけてない。
聞きたいことが沢山あるのに、新しい情報が次々と疑問を想起させてしまう。
『失礼しました。プレシャスというのは、チェスで言えばキング、将棋で言えば王将の事になります』
「つまり君は、絶対守らなければならない駒ということだ」
ビックリした-!
急にしゃべり出したから驚いちゃったよ!
それにしても、何でこの人こんなに冷静なの!
というか、絶対守るって言った!?今絶対守るって言ったよね!・・あれ?最終的には駒扱い?
「って!何で私達がゲームなんてしないといけないんですか!ここどこなんですか!早く元の場所に戻してください!!」
一週回って冷静になった私は、溢れ出した疑問をぶつけていました。・・もしかして、全然冷静になれていない?
『ここは、シャスティングを行うために用意された“異界”です。元の世界に戻るには、私にゲームで勝つしか方法はありません』
「・・・・もし負けたら、どうなるんですか」
いやな予感が、波のように押し寄せながら、少しずつ強く、重くなっていく。
グレーの発する言葉が、まったく冗談に聞こえない。
何より固金君が、今の状況を全て理解し、受け入れているように見えて仕方ない。
どうして、こんな状況でも頼りになるように見えるの?
脱線してしまった思考が、次の言葉で引き戻される。
『死んで頂くだけですよ』
「そんな・・・・」
『私が殺すわけではありませんよ。ルール上そうなっているだけです』
足から力が抜けていく。
立っていられなくなる。
語られたこと全てが嘘に聞こえてくれない。
「どうして・・こんな事に。」
『あなたが、強い孤独をもっていたがためですよ』
「・・・・私が?」
『だから、あのネックレスは、あなたの前に現れたのです。ちなみに、私があなたを選んだわけではありませんよ』
私が孤独だったからネックレスが現れて、手にしてしまったからこの場所に呼ばれてしまったということ?
「じゃ、じゃあ何で彼が・・」
私が原因なら、彼は関係ないはず・・・・
『プレーヤーに選ばれるのは、ネックレスを拾った人間を最も”愛している”者だそうです』
エッ!!
・・・・もう感情の処理が追いつかない。
だって、つまり、その、・・そういう事・・なんだよね?
『大抵は、親族が来るものなんですけどね』
フワフワしていた脳が、急に冷えた。
「あなたは、こんな事を何度も繰り返しているんですか!!」
叫ばずにはいられなかった。
あの口ぶり、いったい何人が犠牲になったのか分からないけれど、ゲームが何度も行われてきたのは確実だ。
『私も、一人のプレーヤーに過ぎないんですけどね~ハハハハッ!』
この人は確かに、プレーヤーに過ぎないのだろう。
でも、このゲームを楽しんでいる最低な人間だ。
『まあ、良いではありませんか。どうせ死ぬのは彼だけなのですから』
・・・私が巻き込んだのに、犠牲になるのが固金君だけ?
「いい加減にしてよ!」
『はあ、こちらもいい加減ゲームのルール説明をしたいんですけれどね』
グレーは、身振り手振りで戯けてみせる。
「時間が惜しい。早くしろ」
固金君が、落ち着いた声音で告げる。
何でこの人は、こんなにも冷静なのだろう。
少しだけ、胸の圧迫感が薄まる。
『では、シャスティングのルールを説明させて頂きます』
自分でもジャンルがよく分かっていません。