第12話 共同生活
『パープル改め、ルーザです。末永く宜しくお願いします♡』
煌めく紫の長髪に、紅の瞳。畏ろしいほど整った顔立ち。そして、長さ十五センチほどもありそうな長い耳。その、身体的特徴は、エルフそのものだった。
で、俺はどうしたら良いんだ?本当に奴隷にしないといけないのか?
「パープルさんの正体が、こんな綺麗で可愛い女の子だなんて!思っていたとおりです!」
文法おかしくない?
スタイルならパープルの姿の時に見ていたから判るけど、顔とか年を特定出来る情報は一切無かったと思うが。
「どうでしょう、マリア様。私は、固金様の物に相応しいでしょうか?」
「ハイ!ルーザさんは、固金さんの者に間違いありません。だって、こんなに可愛いんですから」
二人の話に全然ついて行けないんですけど!!
だんだん周りの視線が集まってきた。
美人二人が、何やら不穏な話しをしていたらそうなるよね~。
ルーザには、いろいろ聞きたい事もあるし。
「二人とも、どこかに移動しよう」
「じゃあ、私のマンションに行きましょう!!」
止める間もなく歩き出すマリア。
何故か、妙にテンションが高くなったマリアに連れられ、俺とルーザは歩き出した。
☆
「本当に、ここに住んでるのか?」
目の前で暗証番号を入力した上、鍵まで使って玄関を開けたのに、それでも信じられない。
自分のアパートの窓から見ていた、高級マンションの最上階全てが、マリアの物だなんて。
「ここに、独りで住んでいるのか?」
「ハイ!名義はパパになっていますけど」
パパって、父親の事で良いんだよな。一瞬、別の意味に聞こえた。
「スゴいです!こんな素敵な場所で暮らせるなんて!」
パープルじゃなくて、ルーザは、目をキラキラさせている。
目の前に広がるリビングは、五十畳位ありそうだ。
シャンデリアをはじめ、高そうな調度品がそこかしこに置かれている。
確かに、こんな所に住んでみたいけどな。
「いや、ルーザ。ここはマリアの家で、俺は住んでないからな」
ルーザが俺の奴隷だというなら、マリアに迷惑を掛ける訳にはいかないし。
「えっ!お二人は夫婦ではないのですか?」
ルーザの言葉に、思わずマリアの方を見てしまう。
マリアの顔が真っ赤になっている。なんだか嬉しいな。俺の頬も熱くなってきた。
「俺達は、まだ結婚する年じゃないだろ?」
「そうなのですか?私がいた世界では、十五歳から結婚できましたけど」
世界って!やっぱりルーザは、俺達とは違う世界の・・・
ぐううううう~~~。
「・・・・・・ご、ご飯にしましょう!適当にピザを注文しますね!」
マリアは、お腹が鳴るのも恥ずかしいらしい。慌ててリビングを出て行った。
ピザが届くまでの間、マンションの中を見せてもらった。
まさか、プールや温泉まであるとは思わなかった。最上階フロアだけの特別仕様らしい。
注文を出したのは、マリアの父親だそうだ。
「ふうー、ピザというのは美味しいですね!」
ルーザが食べたピザは、ワンホール五千円もする。
そんなピザを二枚に、唐揚げやフライドポテトなど、合計一万六千四百円分の食事が届けられた。
たった一食に三人で一万六千四百円。
信じられない。
一食三百円に抑えようとしている俺は何なの?マリアずるくね!
「固金さん。やっぱり一緒に暮らしません?部屋は有り余ってますから、ルーザさんが居ても大丈夫ですよ」
昼食が済んだ頃、マリアが提案してきた。
正直に言えば、とても助かる。
ルーザの事もあるし、多少お金も浮くし。
「光熱費とか全部パパが出してくれるし、生活費も毎月使い切れないくらい貰ってますから。お金のことで迷惑掛けたりしませんから!」
なんだか俺を、自分にたからせようとしていないか!?
男として、そんな恥知らずにはなりたくないんだけど!
「私、独りじゃ寂しいんです!」
それが本音か。そうだよな。
マリアは寂しがり屋だもんな。
・・・仕方ないか。
「じゃあ、一緒に暮らすか」
俺だってマリアと一緒にいたいしな。
ルーザがいるから歯止めになってくれるだろうし。
ただ、問題もある。
「俺達が一緒に暮らしている事は、絶対に隠す。もしバレれば、この関係は破滅する事になる」
そう長くは続けられないけど、高校を卒業するまでは、隠し通す。
マリアは天然だし、ルーザは異世界人だろうから、こっちの常識を知らないだろう。強めに釘を刺しておかないと。
「・・・本当に、本当に一緒に暮らしてくれるんですか!」
「ああ、よろしく、マリア」
目に涙を溜めて笑っている。
マリアが本当に幸せそうで、俺まで幸せになってくる。
「そうと決まったら、明日から引っ越しの準備だな」
俺は大した荷物もないし、明日の朝から動けば、昼前には終わるだろう。
「明日からですか?今日からここに住むんじゃないんですか!?」
頑張れば今日中に終わるだろうけど、その前にルーザから話を聞きたいんだけど。そう思いながらルーザを見る。
「私は、ご主人様の不利益になるような真似はしませんよ」
そう言いながら微笑むルーザ。
「奴隷としての契約上、ご主人様が死ぬと、私も死んでしまいますしね」
思っていた以上に重いんだが
「そんな話聞いてないぞ!・・・だったら、なおさら誰かの奴隷なんて、嫌じゃないのか?」
「固金様だから、私は奴隷になることを選んだんですよ。他の方の奴隷なんて死んでも嫌です」
「まさか、わざと負けたのか?」
正直、グレー戦の時ほど苦戦しなかった。作戦が見事にはまっただけかもしれないが。
「私は、全力でやりましたよ。本気にはなれなかったかもしれませんが」
「それはどういう意味だ」
こいつと一緒に共同生活なんて始めて大丈夫なのか?嫌な予感しかしない。
「ハンティングギアに奴隷に関する情報があるはずです。それよりも、今日中に引っ越しを済ませなければならないのでは」
確かに時間が無いが。
「あの、固金さん」
「わかった、わかったからそんな泣きそうな顔をするな」
俺は、頭の中で引っ越しの段取りを決め、立ち上がる。
「二人とも、手伝ってくれ」
「ハイ♡」
「私も、ご主人様に教えたいことが沢山ありますので、安心して下さい」
マリアとルーザの手伝いもあって、暗くなる前に、荷物を運び終わった。
家電や家具は持っていく必要が無かったので、俺の服や教材、最低限の日用品を鞄に詰めて、三人で徒歩で運んだ。
アパートは、しばらくの間そのままにして、少しずつ物を処分していこう。いきなりアパートを引き払ったら、後々問題になるかもしれないしな。
マリアが貰っている生活費は、俺の生活費のざっと十倍だったので、なんの問題も無く生きていける。
もしものためにバイトは続けるし、出来るだけ節約はしよう。いつ、何があるか分からないからな。
そんなこんなで、この日から、高校生男女とエルフの奇妙な同居生活が始まった。
ただし、この三人での同居生活は、予想よりもはるかに早く終わりを迎えることとなった。




