第9話 デートの終わり
アパートから彼女を連れ出した後、幾つか店を覗いた。
途中オープンカフェを見付けたので計画を実行する。
「あそこで休憩しよう」
「ハイ♡」
マリアは、とても楽しそうだ。
心が少しずつ軽くなっていく。
二人で、白いテーブルの席に座る。
オープンカフェの前には、石畳の空間が広がっている。
良いところだな。
人が多い場所は苦手だから、静かで広々とした場所は落ち着く。
「この辺、なんだかロンドンの街並みに似ています」
「そうなんだ。・・・日本より向こうの方が良いか?」
つい、聞いてしまった。
向こうの方が良いと言ったら、移住を検討しないと。
「固金さんが居る場所が、私が一番居たい場所ですよ♡」
ぐふっ!
流石天然。
スゴいことをさらっと言いやがる。
あれ、よく見たら顔が赤い。
さすがに恥ずかしかったらしい。
カワイイ!
「わ、私、ああいう時計が好きなんですよ!」
マリアの照れ隠し、貴重だ。
しょがないから、話を合わせてやるか。
マリアが好きと言ったのは、広場の中央にある大きな時計だった。
「学校の裏庭にある時計に似ているな」
「ちょっと形が違いますけど、似てますね。同じ人が作ったのでしょうか?」
世界が黒く染まる
それは、突然だった。
「クソったれ!」
押し込めていた不安が一気に流れ出て、叫ばずには居られなかった。
★
『ようこそいらっしゃいました。固金様にマリア様』
視界が開けると、目の前には女が居た。
薄ら笑いの面を付け、紫の服を着たピエロ風の人間が。
声とスタイルで女だとは分かった。
『私の名はパープル。これより、シャスティング第二回戦の説明を始めさせていただきます』
やっぱり、終わってはいなかった。
いい加減にしろよ!!
どこまでも人の心を弄びやがって!
自然と拳に力が入る。
『その前に、お二人にはお詫び申し上げます。同僚であったグレーは、どうせ自分が勝つからと説明の義務を怠っていました。誠に申し訳ありません』
そう言って、深々と頭を下げる目の前の女。
・・・湧き上がった溜飲を下げざる終えなかった。
「俺達は、シャスティングから解放されることはないのか?」
『シャスティングは、全部で七回戦です。あと六回勝ち上がれば、二度とこちら側に来ないように出来ます』
信じて良いのだろうか?
どっちにしろ、目の前の女とシャスティングで競わなければならない。
『二回戦に伴い、若干のルール変更がございます。その前に、こちらをどうぞ』
パープルが左手を横に振ると、半透明の駒が三体表示される。
全てレッドカラーで統一された、槍を持った空の駒。
「グレーの駒か」
『その中から一体選び、己の持ち駒として下さい。断る事も出来ますが、持ち駒は一体でも多い方が良いですよ』
俺の駒は、全て剣が武器だ。
一体くらい槍持ちがあった方が良い。
グレーの駒ということは考えないようにして、一体選択した。
『では、ルールの変更についてですが、プレシャス以外の駒は最大四体。それに伴い、固金様には新たに駒を一体制作する権利が与えられます。』
俺の持ち駒は四体だが新たに一体作れるらしい。
というか、以前使った駒はそのまま使うしかないのか?
それだと、手の内が読まれやすくなる。
「あんたは、俺とグレーのシャスティングを見ていたのか?」
『ハイ、観させて頂きました。中々素晴らしい試合でしたよ』
以前使った戦術は、知られているか。
「カードの色を変更することは可能か?」
『色の変更は出来ませんが、デッキの変更は可能です』
つまり、青のカードの内、俺がどのカードを使うかは分からないか。
『新ルールとして、お互いにメダルを二枚使用可能です』
「メダル?」
『メダルの使用効果は、今回は二つです。一つは、時間を無視したカードの使用。二つ目は、駒一体を予備の駒と入れ換えることです。より詳しい事は、ハンティングギアでお確かめ下さい。既にアップデートは完了しています』
新要素が加わるのか。
これは、戦術を一から見直さないといけないか。
『ルールの変更は以上です。続いて、負けた場合のペナルティに関してですが』
今回も、負けたら死んで存在を忘れられるのではないのか?
『固金様が負けた場合、貴方には私の奴隷になって貰います』
・・・・・・へ?・・・。
『安心して下さい。マリア様は、無事日常に戻られますので。固金様は責任を持って、私が可愛がって差し上げますから♡』
「ふ、ふざけないで下さい!固金さんは私の物です!共有するならともかく、独り占めなんて許しませんよ」
?・・・?・・・・・!?
マリアの言葉の意味が分からない。
共有?
天然だからか?
・・・・なんか怖い。
『フフフ、マリア様とは良い関係が気付けそうです』
「私もそう思います」
全然ついて行けない。
何故この二人は仲良くなっているんだ。
目の前で握手してるし。
「・・・・シャスティングの事だけ考えよう」
『では、三時間後にお会いしましょう!』
パープルは、とても楽しそうだった。
シャスティング前なのに、何故かとても疲れた。
★
待機室について、すぐにシャスティングの準備を始めた。
作業が終わり、マリアと戦術の打ち合わせを始める。
その間、マリアはずっとゲテモノ料理を食いあさっていた。
「やっぱりおいひーですね。ここの料理」
この子、こんなに逞しかったか?
「マリアは、本当に僕のことが好きなのか?」
突然押し寄せた不安に、言わずには居られなかった。
しまった!と思いながらも、モヤモヤした気持ちをこのままには出来ない。
それが、マリアの想いを信じられないと言っているのと同義だったとしても。
「仕方ない人」
マリアが何か喋ったと思ったら、唇を塞がれた。
お互いの顔が離れて、ようやく理解する。
マリアに・・・キスされた!!
呆然となる俺に、更に追い打ちが掛かる。
「本当は、固金さんからして欲しかったんですからね」
マリアは、やっぱり女神だ。
何を考えているか分からないけれど、もう疑うのはやめよう。
俺は、マリアを愛してる。
今はそれだけでいい。
今度は俺から、マリアにキスをした。




