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人間モドキの英雄譚  作者: たいさん
一章
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一章 仮初め勇者

「「「「お待ちしておりました、勇者様。どうか私たちを救ってください」」」」







  いつも通りの時間に目を覚ます。テレビにはつまらないニュース番組が流れている。画面上の6:00の文字を確認し、いただきますも言わず朝食を食べ、機械的に高校に登校する。何気ない日常、変化のない日々、今日もそうなるはずだったのに……








「「「「私たちを救ってください勇者様。」」」」







 なんなんだこれは!!!













 ◇◇◇

  頬をつねり夢ではないことを確認する……痛い。どうやら現実のようだ。複数の男達が平伏するこの状況も信じられないが、自分の足元に光る巨大な魔方陣が現実とは余りに乖離していた。

  目の前に平伏する男たちはこの国の大臣らしい。数年前から魔王率いる魔族の活動が活発化して人間達が被害を被っているそうだ。そこで圧倒的な力をもつ勇者を召喚し、魔王を討ってもらうということで意見が一致したらしい。古い文献には悪逆非道な行いをしていた魔王を勇者一行が討伐したという一節があるとかなんとか。

  しかし自分が従う必要などない。僕はなんだかんだ日本が好きなんだ。



「さっきから勇者様、勇者様っていってますけど僕にそんな力なんてありませんよ。」



「またまたご冗談を」



「冗談ではありませんよ。それにいきなり異世界召喚、魔王討伐しろなんておかしいでしょう。」



「ご迷惑をおかけするのは大変申し訳なく思っています。しかし私たちには勇者様のお力が必要なんです。」


「僕にはなんらメリットがない。」



「そうおっしゃらずに。それ相応の対価は用意しますから。」



「お金や財宝なら要りませんよ、僕は。それより早く元の世界に返してください。」



「それなんですが、勇者様の召喚に大量の魔力を消費してしまい、回復するのは当分先になりそうなのです。」


 

「なっ……」



 殊勝な態度の大臣が告げたあまりのことに言葉が出なかった。帰れないだと?当然のように出てきた魔力というフレーズはスルーした。



「どうしてくれるんですか?帰れないって!!それに僕は絶対魔王討伐なんてしませんからね!!」



「そこをなんとかお願い申し上げます。」



「お断りします。何を積まれてもやりませんよ」



 自分の意思が固いことを伝えようと大臣を見やるが、大臣は焦りを見せるどころか余裕の笑みさえ浮かべていた。先程からこの大臣が受け答えをしている。おそらく代表者なのだろう。ブクブクと太った矮躯はどことなく気味が悪かった。



「な、なんですか?」



「ですからそれ相応の対価を用意したと言っているでしょう。ほら入って来い!!」


 パンパンと手を叩くと甲冑に身を包んだ二人とぼろ切れのような衣服を纏った髪の長い女がはいってきた。


「ほら、挨拶しろ。」



 大臣が指示すると、少し怯えた様子を見せながらも女は僕の前に立つ。



「私は※※※と申します。勇者様を支えるために参りました。」



 言葉少なく女が挨拶した。か細く消え入りそうな声だっが、僕は生まれてはじめて声が出せないという状況に陥った。高く透き通る彼女の声に脳が焼かれたようだった。肩まで流れる髪は吸い込まれそうなほどに深い黒、同色の瞳は光を美しく反射し、青く見えるほどだ。肌は彼女の声のように白く透き通っている。





  僕は儚い雰囲気の彼女に魅入ってしまっていた。





「どうですか勇者様、これが我々の用意した対価です。魔王を討伐してくださるというのなら好きにして戴いて構いません。」




 悪魔の囁きだった。僕の心はもう決まっていた。







「わかりました。引き受けましょう。」









 ◇◇◇

 あれから一週間僕は大臣が派遣してきた教師然とした男にこの世界についてのことをおそわっていた。



「今から200年ほど前からです。恐ろしい魔物が発生し始めたのは。人々は為す術なく蹂躙され、住む場所を追われました。そこで私たち人類は決意しました。あの魔物たちを何とかしようと!!」



 少し演技がかってはいるが聞き取りやすい講義だ。合いの手をいれるのがコツなのだとこの1週間で学んだ。



「魔物を相手に?どうやったんですか?」



「人よりはるかに強大な魔物を相手にどうやって対抗するのか、私たち人類は叡智を振り絞った結果、地下に追いやることに決めたのです。私たちがそれはそれは長い時間をかけて築き上げた地下シェルターに閉じ込めようと!!」



 講義を受けて気づいたのだけれど、この世界は僕が想像していた異世界よりずっと技術が進んでいた。1000年ほど昔から500年もの間、この世界は氷河期のような気候になっていたらしい。それを予期していた人類が築いていたというのが件の地下シェルターだ。しかし世界中の人類を収納するほどの規模は作れず、全体の6割以上が死滅してしまったらしい。その際今まで築き上げてきた人類の文化も消滅あるいは衰退し、今ではもうほとんど存在しないのだとか。



「地下ふかくまで張り巡らされた地下シェルターは急激に発生した魔物たちを閉じ込めるのは格好の場所でした。寒気が入らないように入り口も密閉できる構造にしていたのも好都合でした!!人類は地下シェルターという突破口を見つけた瞬間色めき立ち、救われたと思っていました……」



「おもっていました?どこか問題があったんですか?」



「地下は地上に比べ酸素が薄くなります。そんな場所に人類全員が入ろうとしていたのです。先人達が工夫を凝らさない訳がありません。寒気が入らないような工夫を施しながらも、空気穴を無数に創っていたんです!!それこそ一番の問題だった!!私たちは焦りのあまり見逃していたんだ!!」



 およおよと泣きはじめてしまった男教師に大臣とは違った気持ち悪さを感じながらも頭で整理してみる。つまりその空気穴とやらから魔物たち、大臣のいうところの魔王や魔族が地上に出て悪さを始めたのだろう。それにしても魔王ってどんなのだろう?



「あの先生、魔王ってどんな感じですか?」


「・・・・・・・・・。」


「あの……先生……?」

 

「・・・・・・・・・。」


「今日の講義はこれくらいですか?」


「・・・・・・・・・。」



 いまだに感情を制御できずに泣いている男教師を見てため息をつく。こうなると長いぞ。


 ありがとうございましたと一礼して部屋を出る。僕はまだ外の状況がわからないから迂闊に歩き回れない。そういえば大臣から手配されたこの屋敷から一歩も外に出ていな

 い。こんなので魔王討伐なんてできるのだろうか。不安になってきた。いつまにか自分は魔王討伐に乗り気になっているようだ。

 あの黒髪の少女とはあれ以来会っていない。彼女は今手続きやらなんやらで大変忙しいらしい。僕がもう少し知識を得て、魔王討伐のための力を得たら、彼女との冒険が始まるというのだ。そう思うと普段は手が着かない勉強にも身が入るものである。

 それにしても窓という窓、ドアというドアは閉めきられろくに外も見れない。大臣に詰め寄っても


「然るべきときが来たらとしか……」


 とはぐらかされてしまう。もういっそドアをぶち破って外に出てしまおうか。なんたって僕は勇者なのだから。

 フンスとドアの前で力こぶをつくる。筋肉のきの字もでないけど。

 

だから後ろから近づいてくる人影に僕は気づけなかったんだ。






「何をしていらっしゃるのですの、勇者様?」









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