イシュト(1)
どうも! Genshoです。この作品も間をあけまして。だいぶGMの方に手をかけていました。しかし今回からイシュト編でございます。イシュトくんはかなり気が弱いですが、どうか愛でてやってください。
釣りにて、とある裏技を使うことによって資金源の調達は可能になった。これにより、クテュルヴで死ぬまで生きていけるだろう。
そして話は変わるが、あの三人のことだ。昨晩寝ずに考えたところ、とりあえず彼らはテスト結果のままに育成してけばいいと思う。
回復のイメージが出たイシュトだったら回復役に、防御のクーフは防御役に。んでもってレアルを超 攻撃型にすればいいだろう。それに魔法とは別に体術なんかも覚えることができるんだったらそれはとても嬉しい。
「というわけで、今日はお前だ。イシュト」
「......うぅ、はい」
今日はイシュトに魔法を教えてみようと思う。その魔法こそ、最初に教えると言ってた初級の『治癒』だ。
前も言ったかもしれないが、この魔法は習得も使用も至って簡単であり、前の世界だったらほとんどすべての魔族、人間が日常的に使用してたものだ。よってこの世界でも覚えることは簡単に可能だと思うんだが......
「じゃぁまずは魔法の基礎だな」
「ふぇ?」
情けない声を出すイシュト。理解力が乏しいのか? こやつらは。
「魔法の基礎。真髄。それは前にテストした時に教えたように『イメージ力』が大きく関係してくる。
さぁ、イシュト。お前が考える『回復魔法』とはなんだ?」
イシュトは俺の問いに静かに答える。
「......誰も、悲しまないこと」
ほぅん......。
俺が、できなかったこと。いや、やろうなんて考えなかったか。誰かが幸せになる時、誰かが悲しむ。それが常理だと思ってたんだろうな。この考え方は子供特有のものなのか、直感的なのか。そこまではわからないが、しかしこいつがそれを望んでるのはわかる。
「よし。そしたらそれを、その気持ちを忘れるなよ。いいか、お前が今後魔法を使う時には、この心を絶対に離すな」
「うん! わかったよおじちゃん!」
......いい目だな。
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そして時は経たずにクーフとレアルが次々に合流してきた。直後のことである。
「今お前の前にはレアルが怪我してる! もう死にそうだ! さぁ、治してみろ!」
「ちょ! おじちゃん!?」
「うるさいレアル! お前は怪我してるんだ!」
「そんなのねぇぜっ......」
ただいま絶賛イシュトを教育中である。
まぁ、やり方は極悪非道そのものだけどな。
でも、ここまで仲がいいんだ。死にそうだったら助けないわけがない。
「うぅ......っん......」
......そうでもないようだな。緊張してるのかしらんが強張ってやがる。
「イシュト、無駄な力を入れるな。イメージだ。ものを『治す』イメージ。レアルを悲しませるんじゃねぇぞ」
「う、うん! ──くっ!!」
するとイシュトの手に緑色の淡い光が現れた。大きさは彼の握りこぶしぐらいだろうが、初めてにしては上々だ。問題はこれが発動するかだな。何で試すか......
「ねぇおじちゃん......」
イシュトがか細い声で俺を呼ぶ。
「僕、魔法使えてるの???」
「いや、まだわからん。だが、少なくとも魔法の素はできてるぞ。ほれ、試しに俺の傷を治してみろ。こっちの方が簡単だろ。実際傷ついてるからな」
そう言って俺は自分の腕を自らの爪で切り裂いた。
「うわっ!」
意外に多かった出血量に、イシュトも目をくらます。確かにこれは俺もびっくりだ。少し......いや、結構痛くなってきた。くそ。調子乗ったなこれ。初級魔法じゃ治せないんじゃないか?
「うぅん......
いやぁ!!!!!!!!」
叫ぶイシュト。しかしその裏腹に、俺の腕の傷は全く変化しない。
......外見は。
「......んなっ!?」
俺がその違和感に気付いた時にはもう遅かった。
「んわぁ!!!!!!!!」
どうやらイシュトは気を失ったらしい。魔力の使用過多だな。そこまで大事はない。
しかし、それ以前に俺にはものすごい意味のわからない状況が発生しているのだ。
『治癒』という魔法は、小さい怪我をした部位を完全に修復することで、痛みもひく。
しかし、俺が受けたこの魔法は、外見が変わらず、痛みだけが引いているのだ。あれだけ出血したにもかかわらず、貧血や頭痛などの障害も起きていない。一体なんなんだこの魔法は......?
「おい、クーフ、レアル。絶対にこのことは誰にも話すなよ。特に町の大人には......」
「うん! わかってるよ!」
「おじちゃんずっとその心配してるぜ! 安心しろよ!」
いや、これは安心できる問題ではないようだなっ......
俺は1人、薄黒い笑みを堪えることができなかった......
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「ん? ここ......どこ......?」
「おう、起きたか。イシュト」
「おじちゃん......?」
現在時刻は、推定8時〜9時。黄色い星が雲で隠れることによって、光一つない夜道をイシュトをおぶって歩いている。この村は電気があるのか知らんが、街灯というシステムがない。ただ単に人通りがないからかも知れぬが。
そのため、俺は光という魔法を使って足下を照らしていた。
──あの後、イシュトが起きるのを少し待ってクーフとレアルに魔力強化のストレッチを教えていたのだが、それでも起きないようなのでレアルに教えてもらいイシュトの家まで送ってってやってるところだ。
「ねぇおじちゃん。僕、治癒使えたの?」
イシュトが辛辣な面持ちで尋ねる。
「......わからない」
「ダメだったの?」
「いや、ダメではないぞ」
だがよくもない。あまりにも理解不能だ。
系統としては回復魔法の傷害系統に属すると思うんだが。俺の記憶の中にあんな魔法は存在しない。くそっ、こんな時にクルックかボーグ辺りが居れば......あいつらだったら魔法ぐらい全暗記してると思うのにな。
「お前はよくやったよ。ただもう1回同じやつを明日やろうな。それでダメだったらまた考えるから」
「うん......わかった......」
やはり不満げである。例によらず子供というのは自分の失敗を引きずる生き物だな。まぁ、尤も俺は子供の頃に失敗なんてした記憶はないがな。
「クゥ〜......」
ん、どうやら歩いているうちにイシュトは眠ってしまったらしい。やはり使用過多の影響は残るか。それでも、回復は遅い方ではない。
「しっかし、どうしたもんかな〜」
誰にも聞こえないような声で呟いた声を、寝たふりをしたその少年は、聞き取ることができなかった......
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「イシュト!!!」
「おまっ! どうしてこんなに......」
......俺の存在は???
──俺はどうにかこうにかしてイシュトの家へ連れて帰ったものだが、親御さんは見ての通りだ。息子の心配はするが、俺の方に目がいってない。何か事情があるのを見るのが普通だが......
これはきっとあれだな。過保護ってやつだな。これがイシュトの精神力に影響するようだったら少し考えないとな......
「あのね! おじちゃんが一緒に遊んでくれたんだよ! それで家まで送ってくれたの!」
「そりゃ見たらわかるが......クーフちゃんやレアルくんは一緒じゃなかったのか?
いつもは彼らと一緒に帰ってきてるだろう?」
「みんなは先帰っちゃったよ! 用事があるんだって!」
......ほぉう、嘘つくようになりましたか。......ってか俺は? おじちゃんって名前だしたよなぁこいつ。
やっぱり、この世界では魔法を使えるのが特殊なのか? もしくはあまり好まれていないとか? だが子供たちは食いついてきてるんだが......
そうか、俺が誰にも言うなって言ったんだ。
「じゃぁ今日は遅いからもう寝なさい。ご飯は食べる?」
「ううん! 大丈夫だよ! じゃぁね、おじちゃん!」
「おう、またな」
すると母親と思われる女性はバタンッ、と扉を閉めて中へ入っていった。
......一言も俺に礼言わなかったな。
あまり自分を高めるようなことはしたくないが、曲がりなりにも夜中に子供を送って行ってあげてるのだ。感謝の1つや2つぐらい減らぬもんではないと思うが。......どうも行き過ぎた過保護だな。子供が可愛くてしょうがないのか。
──俺にはわからん。それにしても夜暗いな!
そんなことを考えながら帰った宿屋では、とっくに日が変わっていた。
ゆき