最凶魔王の初めての異世界転移
どうも! Genshoです。とりあえずこの作品は投稿の見立てが早くもできたので、この作品だけちょっとずつ進めていきます。そのほかの作品は改稿をメインにやっていきます。これと同じく進める見立てが出来次第次話投稿していきたいと思います。
そして彼が目を開けたのは、2mを超える彼の図体があまりにも似合わないであろう、赤・黄・ピンクの花々が眩しいお花畑の上であった。
「──んっ?
ここは......???」
「おじちゃんどーしたの? 怪我したの? 痛いの?」
「お、おおおじちゃん痛いの? だ、ダイジョーブ?」
彼からしたら信じられなかっただろう。
おそらく人間の、ヒトの子が見るからにやばそうな魔王に声をかけているのである。
「なっ! ......お主ら、俺が怖くないのか?」
すると3人のうち1人の少年が元気よく答える。
「うん? 怖くないぜ! おじちゃんかっこいいぜ!
角とかよ! ここいらじゃあんまり見かけねぇからな!」
すると残りの2人もそれに続く。
「う、うん! 僕たち怖くないよ!」
「おじちゃんかっこいいよ!」
人間から自己肯定されるなど、タローを除いては初めての経験であった。もしかしたら自分も知らない魔族未開拓の辺鄙な土地なのだろうか。考えを張り巡らせたが、それでも魔王はこの状況を飲み込めずにいた。理解できるはずがなかった。
まぁ、今になってはそれも仕方がないことだ。彼も後から知ることになるが、この世界は『異世界』なのだから......
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どういうこった......
空が青い......魔界の空ってこんなに澄んでいたか......
というかここはどこだ!? 俺に声をかけたこの三人の子供たちはなんなのだ!?
恐らく俺──魔王シュタルヴィッチ4世は勇者戦により死亡したのだろう。当然だ。あの強さはいうまでもなく最強の部類だ。
そこからの記憶がなく、今現在に至る。ここは一体どこなんだ? 極楽浄土か? 皮肉にも元魔王の俺が天国に行けるとは思えないがな......
しかし、
「なぁ」
とりあえずアクションは起こしてみなけりゃ始まらない。
「うん? なぁに、おじちゃん!」
「なになに!?」
「あの.....あし......」
1人ビクビクしてる男の子が何か言っているが......『あし』? なんのことだ?
「なぁ、お主たちはここら辺の子か?
よければここらを案内してくれないか?」
「いいよー! でもおじちゃん足怪我してるよ?」
「おいちゃん痛いの?」
ぐっ、確かに立って見ると俺の右足から血が出ている。あの子が言ってのは『足』だったか。
思い返せば確かに勇者との戦いの時に聖剣が俺の右足へと傷をつけたが......
この程度だったら俺並みの治癒魔法でも治るか?
とりあえず初級からやってくか......
「......治癒」
俺が一言 呟くと、緑色の淡い光がゴツゴツとした右手から発せられ、俺の足の傷口はみるみるうちに塞がった。これが魔法──治癒魔法だ。しかし、いくら魔法といえども初級魔法じゃある程度しか効果はない。事実、まだ痛みまでは癒えない。
「おじちゃんすごい!」
「──っ! 今のどうやったの!?」
「おじちゃんおれもやりたい!」
3人の子供たちが興味津々な目で見てくるが......そんなに珍しいもんだったか?
ああ......人間は魔法を使うことができるやつは限られているんだっけか。むやみやたらに使うもんじゃねぇな......
「ああ......そのうちな......」
とりあえず、そう言っておくしか俺には道はなかった。
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5分後。その3人の少年たちに案内され、彼らの住んでる村へやってきた。どうやらそれなりに大きな村らしい。
余談だが、彼らの名前は、イシュト、クーフ、レアルというらしい。ガタイのいい茶髪の男の子がレアル。1人オドオドしてる青い目のやつがイシュト。なんかグィッグに似てるな......そして、唯一の女の子である金髪美幼女がクーフだ。
しかし......この村に来るまでは確信が持てなかったが、やっぱり俺の見立ては間違ってなかったようだな。
「......ここ、魔界じゃないな」
俺は3人に気づかれないよう小声で呟く。
村の入り口であろう巨大な門(しかし、魔王の身長よりは小さい)をくぐった時から俺に襲いかかる身の毛もよだつような違和感。それは俺からしたら受け入れ難くも受け入れなければいけない現状だろう。
村の中には、人間の格好をしたものと、明らかに人ではない魔族が入り混じっていた。どこの店を見ても、魔族の店員がいるが、買い物客は人族であり、仲良く会話に花を咲かせている。
魔界では、一応例外はいたものの、俺、魔王率いる魔族軍と、勇者率いる人族の戦いだった。仮に万が一ここが魔界だとしても『文明が発達していないから』という仮説が当てはまらない。みんな普通に俺にわかる言語を話しているし、露店の品物などを見ても、魔界と同等ぐらいの品揃えは見てわかる。
よってここは魔界ではないだろう。となるとやはり俺は死亡転移したんだろう。魔界とは違う、どこか遠い異世界に。
まぁそうだろうなぁ。この3人の態度を見たって、魔界だったら人間は俺に話しかけるどころか、俺が攻撃してたんだもんな。きっとこの3人から声をかけてくれなかったら俺がこの3人を拉致監禁してたところだ。今更ながら物騒なことをしてたもんだよなぁ......
そんな考え事から覚め、俺は上級治癒魔法を唱え、自分の足の痛みを消していったときに、この3人の子供たちが再び話に戻ってくる。
「ねぇ、それさっきと同じやつ?
私たちも使えるの?」
「おいちゃんどうやるんだそれ!?」
「おじちゃんぼ、僕にも教えて!!!」
うぅん? 嘘だろ......???
ここの子はたかが魔法にここまで???
こんなにも身近に魔族がいる環境だったらば魔法の1つや2つぐらい知ってると思うんだが......?
魔法という概念がないのか......? しかし、俺が発動できているのだから、そういうこともないのだろう。
「あぁ、もうちょっと待ってろよ」
とりあえず俺はまたこう言ってはぐらかすことしかできなかった......
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「改めて、ここが私たちの村だよ!!!」
「む、村はちっちゃいけれど、人がいっぱいいるから!!!」
「みんな優しいから、おじちゃんもすぐ馴染むぜ!」
現在俺は、彼らの住む村を案内してもらっている。やはりどう見ても魔界とは違い、人族と魔族が共生しているのだ。
ここが田舎だから魔人別種の文化がないのか、それともやはりこの世界はそもそも『魔王』なんてものも存在せず、魔法を使える俺が異常なのか???
しかしその仮説も一瞬でぶち破られた。どの店を見ても、剣や盾など戦うには必要な道具が揃っているし、見た感じ回復薬? のようなものも売っている。よってこの線はないと思う。
ふぅむ。ここがどこなのか。俺はなんで生きているのか。やはり転移したのだろうか。考え難し。
......きになる。
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しかし、その答えはすぐにでた。
『ここは異世界である』──そんな結論に達したのは、1回り村を周り、さっき広場でイシュト、クーフ、レアルの3人にこの世界について質問をしていた時だ。
「なぁ、この世界の名前はなんて言うんだっけ? 俺忘れちまった」
「えぇ? おじちゃんどうしちゃったの? 良いよ! 教えてあげる!」
「俺が教えてあげるぜ!」
「ぼ、僕もわかるよ!!!」
なんてみんなで知識の張り合いっこしていたもんだが、そのうち喧嘩に発展しちったみたいで、俺も止めるかどうか迷ったんだが......
「思考停止」
手出しちった......
「ごめんなお前ら。喧嘩は良くないからな」
決して元『魔王』が言うような言葉ではないと思うが、今の俺はもうそんな職業に囚われていない。いや、囚われてたという表現も微妙だがな。
確かに人族の子供と遊んだり会話したりするのは少し慣れないのもあるが、それだって前の世界でも降伏して仲間になる人族だって少しはいたはずだ。タローとかな。あいつがいちばんの成り上がりだろうな。
パチンッ
そして俺が指を鳴らす。すると思考停止状態にあった3人の知能が回復する。
「ん......僕どうしたの......」
「あれ? 私何してたんだっけ......?」
「おおおおおおおお俺じゃじゃじゃじゃじゃ......」
目を覚ましたみたいだが、一人様子がおかしいな。レアルだ。もしかしなくても錯乱状態にあるのか?
「精神治癒」
俺は彼──レアルに向けて治癒魔術をかける。前回同様、俺の右手から淡い光が発せられ、レアルの頭部からお腹にかけてを覆っていく。すると彼も正気を取り戻したみたいで、いつも通りのレアルに戻った。
そしてそれを見ていた2人──イシュトとクーフが感嘆の声を上げる。
「うわ! やっぱおいちゃんすごいや!」
「そ、それ魔法だよね!? ぼぼぼ、僕にも教えてよ!」
......やはりこの世界には『魔法』という概念自体は存在するのか。じゃぁやっぱりここは......
「なぁ、この世界の名前はなんて言うんだ?」
「? 忘れちゃったの? 私わかるから教えてあげるよ!」
「ぼ、僕だってわかるよ!」
「俺が教えてあげるぜ!」
......う、うん? なんか既視感???
「喧嘩しなくていいから。じゃぁイシュト、教えてくれるか?」
「う、うん!」
ここら辺の感情コントロールはやはり魔界の子供達より下だな。
いや、あっちと比べるのが悪いか。
魔界の教育はボーグが充実させていたからな。
「えーっとね、この世界の名前はね、『アヴィリル』っていう世界で、ここはそのの中の、『ユール』って言う村だよ!」
......『アヴィリル』。
当然ながら聞いたことがない。
それ以前に『魔界』ではない......と言うことはやはりここは異世界なんだ。
「???」
質問されたイシュトはわけわかんない顔で俺を見つめているが、ほっとくか。
「そうか......よしクーフ! ここの村で泊まれる場所はあるか? 宿屋かなんか」
「あるよ! 私のお父さんとお母さんが宿屋さんだよ!」
おお! すごい偶然だ! よし、今日はとりあえずそこでお世話になるとしよう。
「じゃぁそこまで案内してくれるか?」
「うん! いいよ! イシュトとレアルも一緒でいい?」
「ああ、もちろんだ」
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村の公園から1kmほど歩いたところにその建物はあった。クーフの実家、宿屋『クテュルヴ』。クーフの名前の由来は店の愛称か、もしくはその逆か。
クーフ直々に紹介してもらい、あの3人と遊んでやったと述べると、歓迎され、普通に部屋を取れた。なお、今日の分のお金はいいと言ってくれた。
......明日からどうやって働こ。
「おい! イシュト、クーフ、レアル!」
「なに! おじちゃん!」
「なになに?」
「おいちゃんどしたの?」
俺は約束は守る男だからな。数時間前にした約束なんか忘れてたまるか。
「お前ら、魔法を覚えたいのだろう?」
「うん! かっこいいよ!」
「覚える!」
「僕も......やってみる!」
だろうだろうそうだろう。
ものすごい眼差しで俺のことを見てる。そうか。キラキラした眼差しとはこのことか。
......俺はもうこの世界でやることなんてないからな。
なんだったら少し目標を立ててもいいんじゃないかなと。そう思うわけだ。
「よし、俺がお前らに魔法を教えるのには条件がある。
1つは、俺が魔法を使えることは俺がいいと言うまで誰にも言っちゃダメだぞ。
もちろん魔法を習ってることもな。
あと1つは、大事にするものとそうじゃないものは区別をつけるんだぞ」
「うん! わかった!」
「いいよ! 守るよ!」
「......僕も!」
この小さな人間の子供たちを、もっと笑わせてやりたいと。
夢を与えてやりたいと。そう思うわけだよ。
この作品も放置して約3ヶ月。