クーフ(4)
どうも! Genshoです。不定期更新にはなっておりますが、他作品の改稿、推敲。本作のプロット追求など(あと勉強、部活)などありまして、定期更新の見込みはできていない状況です。それでも、一週間に1話を目安に投稿頑張っていきますので、何卒ご理解とご愛顧の方宜しくお願いします!
またその翌日であーる。今日はあいにくの曇天だ。青く珍しい空も赤くはならずに黒みのかかったまさに雨の降りそうな色をしている。ま、天候を操る魔法はあっても天候に操られるような魔法はないから教授にあまり関係ないのだけどな。それでも気分的なもの、テンション的なものは幾分か落ちてくる。
さて、本日もクーフの番だ。昨日はだいぶ精神的に殺してやったからな。今日はその分も含めてきちんと教えてやらんとな。自分で自分の顔に泥を塗るような真似だけはしたくない。プライド? 俺は魔王だぞ?
そんなことを言っていると彼女が暗い天気とは対照的な明るい声で話しかけてくる。
「ねえねえおじちゃん今日は何するの? 前の続き?」
「ああ、そうだな。昨日教えかけた移動式の壁について今日は教えるか。
ま、そうそう簡単にできるような代物じゃないからな。これから時間をかけていけばいいさ」
「ムゥ。すぐにできないの?」
今日教えてすぐにでもできると思っていたのだろうか。少しやさぐれたクーフが1人小さな頬を膨らませている。
「お前、ただの壁もまともにできないくせに生意気言うなよ?
魔法はそう簡単にうまくいくようなものじゃないし、ましてやお前らみたいな年端もいかないような子供が触れていいようなものでもない。
そこだけは絶対に履き違えるな。魔法で死ぬ奴もいる。俺はお前らがそうならないようにする義務がある」
わかってくれ、と切実に頼む。
「ムゥ。わかったよ」
乗り気ではなさそうだが、どうやら理解してくれたらしい。何故俺が受け身に回ってるのか。俺でもわからない。
「んじゃ始めっぞ。まずは普通の壁を作ってみろ」
「はぁい」
気の抜けた返事をすると、クーフは一言唱え、2mほどの石の壁を作って見せた。
「なぁクーフ?」
「うん? なに? おじちゃん?」
少し上ずった声で俺の声に応えるクーフ。わざとではないのだろう。にしたって焦っているのはすぐにわかる。
「作ったのはいいんだが......」
「あへへ......」
2人の声が互いに反響する。
その理由はこの環境にある。
まず俺の眼前。壁である。右を見る。壁である。さらに右を向く。またしても壁である。そうすると当然その右もまた、壁である。
そう、俺はクーフの立てた壁に囲まれてしまっていた。
しかしこれっぽっちのハプニングなど他愛もない。こんな子供の作った壁など拳1発で十分......
ゴツン
「......硬いな」
おかしいぞ? クーフごときの壁にこんな硬度があったとは思えんが......
もう一度拳を入れてみる。
ガツン!
音は強くなった。しかしダメージを食らったのはどうやら俺の手の方だったようだ。赤く見えて、少しヒリヒリする。
「おじちゃーん? さっきからガツガツ音がするんだけどー!!! どうしたのー!?」
「いや、なんでもない。すぐに出てくるから待ってろ」
......とは言ったものの、この場を脱出する方法が限られてしまう。
その1:とりあえず全力で殴る。
これが1番 低リスクだろうが、決してうまくいくとは限らない。一応元魔王の全力だ。それなりに威力はあるだろうが、この強度に耐えられるだろうか。俺の手が。答えは否だろうな。
その2:魔法を使う。
これが1番現実的だが、リスクが高い。爆発系の魔法を使うと余波が生じる可能性があるし、破壊系の魔法に至っても同じだ。他に何かあるとしたら転移系魔法か。しかしこの壁は残ってしまう。
普通、魔法によって作られた物体、特に壁や、まぁ、たとえとして『木』のような地面と接続されているものは、意識を手放すことによって消滅する。ただ、魔法の作用として、敵の攻撃を防ぐために壁を作るわけであるから、基本的に『残す』という概念が長く魔力に残り、多少意識を飛ばしていても残るようになってしまった。
「おっじちゃんまだかな〜」
......この場合はそれに該当しなかったようだが。
さて、気を取り直してその3:壁を登って外から破壊する。
安全策。ノーリスクノーリターン。保険。言い方はいろいろあるので言いつくしたらきりがないが。要するに奥の手だ。果たしてこれが子供達に『かっこいい』ともてはやされる魔王なのだろうか。これが子供達の望む『先生像』なのだろうか。......俺の気にするこっちゃない。
とりあえず登ってみる案を採用するか。俺は眼前の茶色い物体に自分の足をかけようと......
「参ったな。足場がない」
その壁は凸凹はしているものの、最初の頃とは比べ物にならないほど綺麗になっており、小さな突起がこれっぽっちしか出ているだけである。
ならどうするか。作ればいいのでは。
それが可能だったらもうしている。
魔法で作られたものに魔力生成を加えると、その空間に魔力の異常干渉が起こり、干渉を起こした方の身体に異常をきたす可能性がある。よって現実的には不可能だ。やってもいいが俺が困る。
「んじゃ飛ぶか」
結局魔法のお世話になってしまった。
「特殊飛翔!!!!」
移動魔法の飛翔系列魔法。いつ聞いても奇抜な詠唱だ。まぁ、定まっているものは変えることができないから無意味だが。
さて、俺はその飛翔魔法のおかげで壁よりも上に飛ぶことができた。そして着地をストンと決めたわけだが、何やらクーフがもの言いたげな目でこちらを見ている。
その目はなんというか物欲しそうなというか、憧れと羨望の眼差しに見えるのだが......
「ねぇ! おじちゃん空飛べるの!? 私もやりたい!!!!!!」
あ、察してたよ。わかってた。きっとそうだって知ってたもん。
「お前またそう自分勝手なことを......
ま、移動式の壁ができるようになったら教えてやるよ」
そんな軽く約束してしまったが、大丈夫だろうか。まさか1日で習得なんて沙汰はないと思うから、それなりには時間を稼げるだろう。というのも、飛翔魔法というのは、唯一魔法の中で色を持たない魔法である。この『色』というのは、3人にテストをした時に彼らの手のひらに発現した光のことだ。
飛翔魔法は魔力の関係とは別に、才能の有無が決まっている。それが、『第六感』だ。飛翔魔法は天性の才能で全てが決まるというなんとも残酷な魔法である。ま、種族によって生まれつきその才能を有する種族もあるらしいがな。特に翼を持つ種族、ドラゴン族や鳥類は。確か淫魔も飛べるんだったっけな。翼を持てば、な。
話がずれたが、なぜ時間を稼ごうとするかは、まだこいつらが幼いうちに万が一飛翔魔法のセンスがないことが発覚すれば、ショックを起こすかもしれないという心配。特にクーフはイシュトみたいに感受性が豊かだからな。
あともう1つは、魔界では飛翔魔法の教授というのを行ってなかったため、俺自身もいまいち教えかたがわからないところがあるためだ。そのため、少しずつ魔法教授を覚えて、その要領で臨むことができたらいいなと考えてだ。
「ま、まずそう簡単に移動式壁ができるわけないだろうからな」
「言ったなおじちゃん! 今日中に片付けてやる!」
威勢良くクーフが吠える。威勢だけにならないようにはしてほしいが。
「あぁ、頑張れよ」
その後うまくいくわけなかったのは御察しの通りである。
しかしなぜだか壁の強度だけは格段に、今までと見違えるようなほどの変化が起きていた......
もちろん俺の、知る由も無い。
もう直ぐ引退。
引退したいけど引退したくない。
小説業じゃないよ。




