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異常事態【イレギュラー】2

「あぁ、終わった…」


 結局俺は誰一人として救えず終わるのか

 大切な仲間も救えずにただただ虚しく犬死するのか

 こんな所で終わっちまう。

本当にそれでいいのか?

まだ何一つしていない

 救える者も一時の諦めで手放してしまうのか?


————————違うだろ


英雄(ヒーロー)ってのは自ら険しい道を選ぶんだろう!

ならそれは今この瞬間じゃないか!

諦めるなよ!負けんなよ!相手は筋骨隆々の牛。ただそれだけ。

牛の餌で終わる人生なんてまっぴらごめんなんだよ!


「ふっざけんじゃねええええええええ!」


 少年は体を捻りミノタウロスの拳を紙一重でかわす。

 そのまま顎に上段蹴り。ダメージは無いが動きを止めるには十分だった。


「さがれハル!」


 盗賊の少年が声を大にして叫ぶ。


「【我は歌おう】」

 魔導士(ウィッチ)の少女が詠唱(うた)を紡ぐ。

「【眼前に佇む巨大な壁を】」

 光の収束は詠唱魔法を発動する際の現象。

「【砕いて進む賛歌の歌を。】」

 発動する魔法。ミノタウロスの足元に展開される魔法陣(マジックサークル)

「【ライトニング】!」


 上空から落ちた一本の落雷は鬼牛へと吸い込まれる。

『オォ!?』

 二回目の直撃。落雷の衝撃により治療師の少女を抱えた戦士の少年は転がり仲間の元にたどり着いた。

「やったのか?」

 落雷の熱量により周辺は水蒸気に包まれ霧となり静寂が湿原を覆った。



 冒険者の基本(ルール)。戦闘の際モンスターの強奪は禁止。又同胞を殺す事を禁止とする。

 僕はルールに則り彼らの戦闘を見物していた。

 例えそれが異常事態(イレギュラー)な存在だとしても。

「さぁ頑張れ少年少女よ」

 彼らを応援しよう。

 


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 鬼牛の咆哮と共に二戦目の鐘がなる。

 破られた静寂。直撃した魔法によるダメージはまるでない。

「あれもダメなのかよ…」

 復帰した少年の心を容赦なく折る咆哮。先程とは違う威圧。

 鬼牛はキレていた。格下相手に二撃も許した自分に。今もなお抵抗を止めない彼らに。最初は玩具か虫にしか思っていなかった。だがそこは訂正しよう。彼らは虫でも玩具でもない。餌なのだと。

 餌に昇格した少年少女をミノタウロスは全力で迎えることにした。

 ミノタウロスが本気を出した。そのことは駆け出しでも分かる。世界が変わった。

 完全なる弱肉強食の世界へと。

 彼らは確信した。僕らは遊ばれていただけ。

 これから始まるのは本当の死闘。明らかな変化。


「行くぞロズ!」

「それしかなさそうだ!」


 戦士と盗賊の少年がミノタウロスに向け疾走を開始。

「私たちもやるわよ!」

「はい!」

 魔導士と治療師の少女が詠唱を始める。

「【柔を持って剛を剛を持って柔を断て】」

「【光の御手。妖精の涙。天使の立箏。】」

「【敵わぬ敵に敵う手段を与えよう】」

「【恵の雨。賢者の知恵。届かぬ望みに私は(すが)ろう】」

 二人の歌。淀みなく綴られた声に呼応し戦士と盗賊の下に魔法陣が映る。

「【ハルバード】!」

「【ライフレイン】」

 少年たちの肉体を頑強にし体力、魔力、精神力を全快。

 後方支援を受け戦士の少年はミノタウロスを正面から、盗賊の少年は側方から叩く。


『オアア!』


 ミノタウロスも迎えるように一本の両刃斧を構える。

「—————ッァ!」

 折られた大剣を全力で振り二撃目をすぐさま放つ。野生の勘が警鐘を鳴らす。咄嗟のガード。格下だという意識が抜けなかった油断。

 少年たちに与えられた絶好の好機(チャンス)

「【付与魔法・(エンチャント・フレイム)】!」

 戦士がさがり側方から盗賊が襲う。放たれる速攻の斬撃は浅くだが広くミノタウロスの巨躯を焼き刻む。


『アアアア!?』

「次ぃ!」


 薙ぎ払われた両刃斧を交わし戦士と入れ替わる。

 再び叩き込まれる重たい一撃に鬼牛は呻く。

「いける!」

 確実に蓄積されたダメージは動きとして現れ始めた。

『オオオオオオオオガアアアアアアアア!』

 ミノタウロスは両刃斧を両手に掴み少年の大剣へと叩き込む。

 圧倒的潜在能力(ポテンシャル)の差。忘れていた恐怖が再び少年の前に具現化する。再び変わったミノタウロスの何か。未だ確認されなかった新しい事実。僕にはその何かが分かった。


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