吸血鬼狩りだとか
それはいつも通りの部活風景。
俺は、部活メンバーを見回す。
「なーボブ。そのヨンデー読み終わったら、俺のマガズンと交換しようよ」
「ンー、もうちょっとダカラ、待っテー」
「ねえねえ。有栖。このお菓子美味しいね」
「この抹茶ミルク小豆ソーダ味なんて飲み物、どこで売ってたのぉ?」
和やかなムードだ。
この雰囲気なら、言えるかもしれない。
「なあ、瀬川」
「んー? なにぃ? 山田も珍奇なドリンク飲みたいのぉ?」
「いや、そんなゲテモノはいらん。大した事じゃないんだが……」
「お菓子の方はあげないわよぉ?」
「お前の追いかけてるオズワルドっぽい人見かけたんだけど」
抹茶ミルク小豆ソーダがパックごと俺の顔面に直撃して破裂した。
「何コレ?! 何で目に染みるの!? 刺激要素ほぼないはずなのに!! 超痛い!!」
「何で早く話さなかったのよぉ! もう部活開始から小一時間経ってるじゃなぁい!」
謎の液体が目に染みて、目も開けられない状態の俺の襟首を掴みガックンガックン前後に振る瀬川。
「ああ、私の抹茶ミルク小豆ソーダが……」
「陣内クン、正直ヨンデー最近面白くないから買うの止めようと思ってんだヨー」
「それは困るなあ。じゃあ、俺ヨンデー買うからボブがマガズン買う?」
他のメンバーは興味ないようだ。
「早く吐きなさぁい? さもないと抹茶ミルク小豆ソーダ山田味に仕立てあげるわよぉ?」
「ミキシングされる! 助けて! 陣内! ボブ! 芥川! 早く助けて!」
さすがにグロいのはご免なのか、瀬川はようやく部活メンバーに止められた。
「でぇ、どこで見かけたのぉ?」
「駅前で声かけられた」
瀬川の瞳が冷たく光る。
「コイツよねぇ?」
差し出された写真を見て間違いないと確信して頷く。
それは、瀬川と両親とオズワルドが映った写真。
瀬川は、芥川のカバンから新たな紙パック飲料を取り出すと俺に向けて宣言した。
「嘘や冗談だったら、この納豆ヨーグルト塩辛メンマナタデココを山田味に仕立てあげるわよぉ?」
「発酵食品ばっかりじゃねェか! そんなジュースどこで買ったんだよ!」
芥川は明後日の方向を向いている。
「まあ、良い。とりあえず落ち着いて聞いてくれ」
瀬川は嘆息すると、ようやく席に座ってくれた。
「あと、納豆ヨーグルト塩辛メンマナタデココは芥川が責任を持って処理するように」
芥川が小さく悲鳴を上げた気がするが気にしてはいけない。
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それは、昨日の事だった。
家に帰ろうと駅の改札に向かっていた俺に金髪の外国人が声を掛けてきたのだ。
それは以前、瀬川に写真を見せて貰っていた相手で―
「駅前留学しませんかー?」
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俺の顔面で納豆ヨーグルト塩辛メンマナタデココが炸裂した。
「目が! 目がぁぁぁぁあっぁぁぁ!」
「適当ぶっこいてると生徒会室の攻略ルートにアンタ突っ込むわよ? いや、突っ込まれるのかしら? どちらでも良いわ!」
「首が閉まるとはなしぇないきゃぁらぁ! らめぇ!」
「瀬川サン! 落ち着いテ! 山田クンがしゅごいことになっちゃうカラ!」
ボブの必死の羽交い絞めにより、ようやく止まってくれる瀬川。
俺は、タオルで顔を拭きながら―
何コレ超くっせえ。あとでこのタオルは、芥川のカバンに突っ込んでおこう。
「いや、本当なんだ瀬川。奴は今、駅前の英会話教室で働いている」
俺は、貰ったチラシを瀬川に渡す。
「本当なのねぇ……」
そこには、名前も隠さずにオズワルドが講師として紹介されていた。
瀬川は、それを握り潰す。
手からは血がにじんでいる。
「そ、その有栖はなんで、その人の事を追っているの?」
心配そうな芥川を見て、落ち着きを取り戻したのか瀬川は語り始めた。
未だにその情景を忘れられないのだろう。
自らに流れる呪われた血と、その因縁について。
「あれは雪の降る寒い日だったわぁ―」
(中略)
「というわけで、両親の仇を討つため……あれぇ? 山田、ちゃんと聞いてるんでしょうねぇ?」
俺は迷わずに頷く。
「しっかりと聞いていたさ!」
疑わしそうな目でこちらを見る瀬川に笑顔で返す。
「そう? なら良いけどぉ」
嘆息しながら、瀬川は席を立つ。
「行くのか?」
「その為に、日本まで来たんだもの」
「部のリーダーとして、言うべき事があるんじゃないのか?」
「貴方達は巻きこめないものぉ」
そう言って俯く瀬川の背中に声が掛る。
「変身ヒーローなのに、最近変身してないから、俺も行こうかなー」
そう言って、背伸びする陣内。
「銀の弾丸は持ってないが、何とかなるだろう」
ボブは、リボルバーに弾丸を装填する。
「友だちなんだから遠慮しないでよね! 有栖!」
芥川も席を立つ。
瀬川は振り向くと、瞳に涙を浮かべていた。
「ありがとぅ……」
その言葉に俺は続く。
「では俺以外、部活メンバー出動! 瀬川の援護に回れ!」
「「「了解!」」」
皆の声を聞いて満足した俺は、タオルを芥川のカバンに詰め込むと家に帰った。
だって、俺がいると邪魔だからね!
家でゲームしてたら日付が変わる頃に陣内からメールが来た。
何でも、裏ボスっぽいのが出てきて大変らしい。
俺は『頑張れ』とだけ返信して布団に入った。
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翌日、登校すると芥川が欠伸を連発していた。
「眠そうだな」
「朝まで掛っちゃったからね」
「大変だったな」
そう言いながら、教科書を机に入れた瞬間、ずにゅりという不快な手ごたえがした。
隣で芥川が肩を震わせている。
「抹茶と納豆どっちだ?」
「キムチレーズンチョコレート」
俺は迷いなく教科書を芥川に投げつけた。