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山田太郎の嘆き  作者: 無一文
27/29

魔剣だとか

「明後日の部活は社会見学です。参加できない奴はいるか?」


 俺の言葉に部活メンバーがキョトンとしている。


「社会見学なんてあるのね」


 芥川が不思議そうに尋ねてくる。


「たまーにあるよ。前は何だったっけ?」

「改造人間作る悪の組織に行きましター」

「ああ、そんなとこにも行ったわねぇ。個人的にはぁ、試作型ロボットに乗って山田が乗り物酔いでロボット一台ダメにしてたのが印象深いわぁ」

「あったあった」

「何それ面白そう」


 楽しそうに話す他のメンバーに芥川が食いついている。

 これなら全員参加だろう。


「今度の行先は、『ティルソードラボラトリー』だ。何か魔剣作ってるらしい」

「「「おおー」」」

「って、皆普通に受け入れてるけど、何で山田はそんな所に入る許可もらえるの?」

「何処も大体『ここ何してる場所なんですか?』から始まり『近所の高校で地域の情報集めている部活なんですけど見学って可能ですか?』って聞くと案外快く受け入れてもらえるぞ」

「そんなに簡単に行けるもんなの……」

「山田クンは、どれだけ裏を取っても一般人ですからネー」

「目的もちゃぁんとしてるしぃ、見せて良い所までだったらぁ、見せてくれるみたいよぉ」

「凄い特技持ってるのね」


 特技と言うか、礼節をわきまえていれば大丈夫なんだが。

 さすがに無理な所もあるけど……。

 俺は姿勢を正すと全員に号令した。


「では、放課後一旦ここに集まってから出発な。ボブは当日武装全面禁止」

「アイサー」


 こうして、俺達は魔剣研究所の社会見学に向かうことになった。



---



「あー、山田君お待ちしてましたー」


 当日、研究所の前に着くと、一人の女性が笑顔で手を振りながら駆けてくる。

 年は20代、おっとりした顔にメガネを掛け、長い黒髪は後ろで一つにまとめ白衣を着ている。

 あと巨乳である。

 こっちに駆け寄ってくる途中も揺れていた巨乳である。


「伊藤さん、今日は宜しくお願いします」


 俺は伊藤さんに向かって軽く挨拶をする。


「で、こちらの方々が……」


 俺の後ろに並ぶ面々を見て聞いてくる。


「はい、うちの部活メンバーです。この方が、当研究所の所長である伊藤 静江さんです。全員挨拶!」

「「「宜しくお願いしまーす!」」」

「はい、宜しくお願いしまーす」


 全員が声を揃えて頭を下げると、伊藤さんはニコリと微笑みながらお辞儀を返してくれる。


「ねぇ、山田ぁ? ドストライクでしょぉ?」

「もちろんでございます」


 瀬川の小声に、親指を立てて答える。

 もう異形の生物はこりごりである。

 おっとり系で優しい美人で巨乳なお姉さんとか最高だよね。


「では、研究室の方へご案内いたしますね」


 ニコニコと笑顔で所内に案内される。

 受付で人数分の来客バッジを貰い、身に付けた俺達は伊藤さんに付いていく。


「へー、扉以外は完全に壁で仕切ってるのね」

「はい、様々な研究を行ってますので、部屋の中が見えると色々と不味いんです」

「え、そんな所に入って俺たち大丈夫なんですか?」


 陣内の質問に伊藤さんはちょっと困り顔で答える。


「本当は秘密なんですよ? だから、口外しちゃダメですからね?」

「「「分かりました!ありがとうございます!」」」


 全員の返答に満足そうに頷く伊藤さん。

 事前に打ち合わせておいて良かった。

 この伊藤さん、実はかなりチョロイ。

 俺が施設を見つけて、何を作っているのかと手を変え品を変え質問したところ『秘密なんだけどね』という口癖と共に色々教えてくれたのだ。

 そうして、今日の社会見学に至る。

 ただまあ、大丈夫なんだろうかこの研究所……。

 若干スキップ気味に歩く伊藤さんの後姿を見て、そう思う俺だった。



---



 こうして案内された一室は結構広いスペースであった。

 小さな台が部屋の中央に5つあり、黒い棒のようなものが、それぞれに置かれている。


「では、早速当研究所の成果、『魔剣』をご覧頂きましょう!」


 そう言って、台の前に移動する伊藤さん。


「こちらのグリップを、皆さん手に取ってみてください!」


 言われるままに、その黒い棒を手に取る俺達。

 すると、黒い棒が光り輝きはじめる。


「ふふふ! 驚きましたか? 実はそれこそが魔剣なのです! 秘密なのですが適正の有無はここに来るまでの通路に仕込まれたセンサーにより調べていました!」

「あれぇ? 山田も大丈夫だったのぉ?」

「はい、山田君も適正有りでした!」

「このパターンだと俺だけオミソになる可能性を危惧していたんだが……」

「魔剣は、この『グリップ』と呼ぶ物によって形成されます! 個人の魔力や肉体的能力により、その能力は異なります」

「完全に魔法って訳じゃなさそうだし、有栖これって錬金術かしら?」

「んー、それだけとも言えないのよねぇ」

「お二人とも凄いですね! これは魔術と科学、そして錬金術を応用した―」


 その時、手に持った棒が一層光り輝いた。


「世界で唯一の魔剣が誕生するのです!」


 そして、全員がオリジナルの魔剣を持っていた。


「魔剣ってぇ、剣よねぇ?」


 有栖が不思議そうな顔で手に持った鞭を見る。


「剣じゃないわ」


 魔法少女が持っていそうなステッキを見ながら瀬川が呟く。


「これ、メリケンサック……」


 ションボリしながら陣内が呟く。


「使い慣れてますけど剣じゃないですネー」


 アサルトライフル片手にボブが言う。


「えぇぇぇぇぇぇえぇぇぇ!?」


 伊藤さんが驚きの声を上げる。


「そ、そんな……イレギュラーすぎてその……」


 呆然とする伊藤さんに、俺は笑顔を向ける。


「これ、俺の家にありますよ」


 そう。部活メンバーの持っている物は武器なのだ。

 まだ良いじゃないか。

 伊藤さんは俺の方を向き、声も出せずにいるようだ。というか、笑いを堪えてプルプルしている。

 部活メンバーは俺を見て笑い始める。

 そりゃそうだろう。俺が持っているのは1メートルにも満たない棒先にピンク色の布が複数着いたもの……。


「あの、伊藤さん。ハタキって武器に入りますか?」


 その言葉に耐えかねたのか、伊藤さんがブフッっと笑いを吹き出した。


「み、皆さん問題なく魔剣が起動したようなので、実際に使ってみましょう!」


 伊藤さんはゴリ押しで会話を進める。

 各々が獲物を持った状態で、次の場所に向かうと、そこは体育館の様に広い場所になっており、ターゲット用のマネキンが立っていた。


「では、こちらの人形に向かって魔剣で攻撃してみてください! 特殊な素材で出来ているので、そう簡単には壊れませんから―」


 スパーン


「壊れたわぁ……」


 芥川の振った鞭により、マネキンの上半身が消し飛んだ。


「え、ええ~~……か、代わりの物を用意しますね」


 よいしょよいしょと、近くに並んでいるマネキンを運んでくる。

 俺達男連中も嫌な予感がしたので、他に3体ほどマネキンを運ぶ。


「す、すみません」

「いえ、こちらがご迷惑をお掛けしているようなので」


 並んだ四体のマネキンに向けて、それぞれ魔剣で攻撃を始める。


 ドカーン


 瀬川の振ったステッキから、星のようなものが飛んでマネキンを吹き飛ばした。


 ドバババババ


 ボブのアサルトライフルがマネキンをハチの巣にした。


 ドゴーン


 陣内に殴られて、マネキンが半分に折れながら吹っ飛んで行った。


 パタパタ


 俺のハタキでマネキンが綺麗になった気がする。


「綺麗になりましたよ! 伊藤さん!」

「ブフッ……山田君、いちいち笑顔で報告しないでください……」


 伊藤さんは、顔を真っ赤にして肩を震わせている。

 ふむ、あと一押しだな。


「ボブ、ちょっとこっち来い」

「ナニ―?」


 俺はボブの学生帽を取ると、頭にハタキを乗せる。


「ドレッドヘアー」

「ブバフッ!?」


 伊藤さんの我慢が限界に達したらしく、部活メンバーと共に腹を抱えて笑い始める。


「俺の得物は破壊力こそ低いが、広範囲に影響を及ぼす恐るべき魔剣だな」

「百均で売ってますけどネー」


 ひとしきり笑い終った伊藤さんは、ずれたメガネを掛け直すと姿勢を正す。


「実は秘密なんですが、この魔剣には隠された能力があるのです!」

「「「な、なんだってー!?」」」


 俺達の反応に満足したのか、うんうんと頷くと両手を腰に当てて胸を張る。


「グリップを両手で持って、引き延ばすと短時間ですがパワーアップさせることができるのです!」


 俺達は早速試してみる事にした。


「あらぁ? 棘が付いたわぁ?」


 瀬川の鞭には棘が付いたようだ。


「何か豪華になった」


 芥川のステッキは、装飾が増えて見栄えも良くなっている。


「ライトマシンガンになりましター」


 ボブのアサルトライフルはライトマシンガンに進化した。


「お、カッコよくなった! 篭手みたいだ!」


 陣内のメリケンサックは篭手の様になり、拳から腕までを覆うメカっぽいものになった。


 ここで、全員の視線が俺に集まる。

 俺はクイッとメガネを指で上げると不敵に微笑む。


「見せてやろうじゃないか! 俺の真の力!」


 俺がグリップを引き延ばし、両手で構えるとハタキが光に包まれる。

 そして現れたのは―


「伊藤さん、ハタキって進化すると布団叩きになるんですね?」


 俺の素朴な疑問に、伊藤さんはもう目も合わせずに俯いたまま肩を振るわせている。

 陣内が楽しそうに篭手を眺めているのが悔しいので呼んでみる。


「陣内、ちょっとこっちに来たまえ」

「んー? 何ー?」

「ちょっとあっち向いてみ」


 俺に言われて余所見をした陣内のケツに向かって布団叩きをフルスイングする。


 スパーン!


「いった……くねぇ?」

「音は素晴らしいんだがな」


 伊藤さんはうずくまって床をバンバン叩いていた。

 この人、笑いの沸点が低いのかもしれない。



---



「ところで、魔剣って何に使うものなんですか?」


 芥川が不思議そうに尋ねる。


「掃除に決まってるだろ」


 俺はハタキを芥川の顔に押し付けながら答える。


「ブフッ……ち、違います……そ、その実はですねー。んー。どうしようかなあ?」


 伊藤さんは腕を組んで悩み始める。

 もうひと押しと言ったところか。


「武器にしては威力がないと思うんだよなあ」

「ボクのに関しては本物持ってきた方が早いネー」

「これで特殊なプレイをしようって魂胆ねぇ?」

「みなさんが特殊すぎるだけなんです!」


 伊藤さんは咳払いをして、呼吸を整える。


「秘密なんですが、この魔剣はとある怪物と戦うために開発された物なのです!」

「「「なんだってー!?」」」


 ぐっと拳を握って力説する伊藤さん。

 陣内が小声で話しかけてくる。


「山田、ちょっとお前リアクションが雑になってるぞ」

「すまん。微妙だったので普通にへーっとしか思えなかったんだ」


 俺達の会話は聞こえていないようで、伊藤さんの演説は続く。


「あれは10年前の事でした―」


(中略)


「こうして、父の研究を受け継ぎ、怪物を倒すべく私は魔剣の開発を進めているのです!」


 全員で拍手する。


「それで、怪物が出てくるのは更にこの先のフロアって事ぉ?」

「ええ、さすがに危険なのでこれ以上は……」

「俺達も何かの力になれるかもしれませんよ?」

「確かに、あなた達の力が規格外だという事は……」


 俺は無言で伊藤さんの顔にハタキを押し付ける。


「ちょ、やめ、山田君! 分かりました! 案内しますから頭の上でパタパタしないで下さい!」



---



 こうして、俺達は更に奥のフロアまで進むことが許された。

 そこには、異次元に続くと言われている扉があり、レイピアを携えた一人の少女が立っていた。


「あれ? 静江さん、どうしてこんな所に……って、その人達は誰ですか?」

「瑞貴ちゃんお疲れ様ー。この人達はね」


「「「社会見学です! 宜しくお願いします!」」」


 全員で一斉に頭を下げる。


「ちょっと静江さん! ダメですよ! こんな所まで一般人を連れてきちゃ!」


 至極もっともである。


「い、いやぁ、その……」


 お世話になっているしフォローしておこう。


「瑞貴さん、俺はお世話になったお礼に掃除に来ただけだ……」


 ハタキを持ってパタパタと扉の埃を落とす。


「扉の掃除なんて初めて聞いたんですけど……」


 その時、俺のスマホが鳴り始めた。


「あ、すみません。ちょっと出て良いですか?」

「山田電源切っとけって自分で言ってたのに」

「うん、切ってたんだけどなぁ……」


 入る前に電源を切ったのは確かなはずなんだが……。

 と、スマホの画面に出ているのは天使一号さんからだった。


「はい、山田です」

『あー、山田さんお久しぶりです一号です』

「どうもお久しぶりです」

『山田君、もしかして今魔剣の研究所に居たりします?』

「もしかしなくてもいます」

『あー……、扉の前とかにいます?』

「もちろんです」

『やっぱり……』


 何だか溜息を吐く一号さん。


「何か起こるんですか?」

『いえ、そちらの担当の天使が今からイベントを起こそうとしてるんですけど山田さんの所在を確認してくれって言われたんですよ』

「もしかして、青い髪の女ですか?」

『はい、彼女です』

「聖杯ですか?」

『ああ、それは上司に怒られて止めたそうです。なんでもクレームが酷かったらしくて』


 俺のクレームがちゃんと届いてたのか。


『それで、山田さんにはちょっと今回手を出さないで頂きたいなと』

「分かりましたー」

『はい、じゃあ、すみませんが宜しくお願いしますー』


 俺が通話を切ると、スマホの電源が落ちる。

 こっちの状態関係なし出かけてこれるのか……。

 気を取り直すと、伊藤さんに向けて言った。


「何か今から怪物が出てくるらしいですよ」

「は?」


 素っ頓狂な声を上げる伊藤さんの横で、扉が揺れ始める。


「え、なんで? 山田君何で分かったんですか!?」

「部活メンバーは手出し禁止なー。ちょっと下がって見てよう社会見学だし」

「「「はーい」」」

「伊藤さんも瑞貴さんも、近くにいると危ないですよー」

「えっと、はい……」


 俺達と一緒に扉から離れる二人。

 段々と揺れが大きくなり、扉が開く。


「ルァァァァァァァアァァァ!!」


 扉の中から出てきたのは、3メートルほどはある異形の怪物だった。


「そんな……! もう奴等が来るなんて!」

「私が応戦します!」


 そう言って前に出る瑞貴さん。


「山田の知り合い?」

「俺もそれを懸念してたが違うようで良かった」


 陣内の小声に答える。


「ルァァッァァアァッァッ!!」

「このぉぉぉ!!」


 怪物の拳に、レイピアで応戦する瑞貴さん。


「ちょっと危なそうなんだけど大丈夫なのかしらぁ?」


 瀬川の予想通り、瑞貴さんは怪物の攻撃に押し負けて吹き飛ばされる。

 そのまま、壁にぶつかって気を失ったようだ。


「瑞貴ちゃん!」


 慌てて駆け寄ろうとする伊藤さんをボブが止める。


「危ないですヨー」

「で、でも、このままじゃ!」


 その時、フロアの入り口が開き、一人の少年が飛び込んできた。


「瑞貴に手を出すんじゃねぇぇぇぇぇ!」


 少年は持っていた小太刀で怪物に斬りかかる。

 その隙をついて、陣内が瑞貴さんをこちらに運んできた。


「瑞貴ちゃんは助けたぞ!」

「すまない! 君たちは?」


「「「社会見学です」」」


 その答えに時が止まった。

 怪物まで止まっている。


「姉さん……何してんの?」


 もっともなツッコミである。


「いや、だって和人……」

「そういうズボラな所がダメなんだって! 家でも部屋散らかしっぱなしだし!」

「それは今は関係ないでしょ!」


 姉弟喧嘩が始まった。


「そ、それよりも和人! 貴方はここに来ちゃダメって言ってたでしょ!」

「今はそれどころじゃないだろ!」

「貴方には才能がないのよ!」

「ぐっ……」


 悔しそうに歯噛みする和人。

 だが、伊藤さんの『才能がない』という言葉に部活メンバーの視線が俺に集中する。

 俺は無言で伊藤さんの肩を叩きハタキを見せつける。


「山田君今いそが……いえ、才能がないって言うのは和人に言った言葉で……その……ブフッ……や、止めてください! 無言でパタパタしないで下さい!」


 こちらの様子が目に入っていないのか、怪物と対峙を続ける和人。


「確かに俺に才能がないのは分かってるさ……でも……」


「あ、布団叩きにパワーアップして何する気ですか!? さっきみたいに―」


 スパーン

 無言で伊藤さんのお尻を叩く。


「いた……くない! 何コレ凄い!」


「俺にはやらなきゃって聞いてる姉さん!?」

「あ、ごめん。聞いてた! 聞いてたわよ! 何だっけ!?」

「聞いてないじゃん! 弟が必死に戦おうとしてるのに聞いてないじゃん!」


 その隙を突かれて、怪物に思いっきり吹っ飛ばされる和人。


「和人!」

「ふふん。奴もまだまだだな」

「いや、アンタのせいでしょ」


 芥川のツッコミは気にしないでおく。

 傷だらけになりながらも、ヨロヨロと立ち上がる和人。


「俺は負けられないんだ……! 瑞貴の為に……! この世界の」


「だから、山田君ブフッ……そのボブさんの頭に……ドレッドブフッ……」


「人の話を聞けよぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 和人の叫びと共に、小太刀が輝きはじめ、大刀へと変わる。


「そ、そんな! 和人は今まで一度もパワーアップに成功したことがないはずなのに!」

「ふっ……奴も目覚めたか……」

「主人公の覚醒がツッコミで起きるってどうなのよ?」


 陣内のツッコミは気にしないでおく。


「食らえぇぇぇえぇぇぇぇ!」


 和人の放った一閃は、怪物を見事に打倒したのだった―



---



「今日は面白かったわねぇ」

「自分達で戦わないって言うのも新鮮ね」

「いつもと得物が変わらなくてガッカリでしター」

「魔剣はさすがに返さなきゃいけなかったのが残念だったな」

「俺は部屋掃除に使いたいって言ったら貰えたけどな」

「研究素材にもならないって言われてたじゃなぁい」


 談笑しながら帰っていると、目の前に人影が立ちはだかった。


「ちょっと! また山田なんかしたでしょ!」


 青い髪の天使である。


「えー、今回俺達見守ってただけだぞ」

「違うわよ! 本当は、静江が瑞貴を庇って瀕死の所で、和人が来て覚醒イベントだったはずなのに! 予定が狂っちゃったじゃない!」

「そういう鬱イベントは後半に回せや」

「しかも、姉弟の関係が悪くなってる所に、そのイベントが発生して死の寸前で仲直りってシナリオだったのに、今見てきたら普通に仲良くなってるじゃない!」

「良い事じゃないか」


 そう言いながら俺はハタキを布団叩きにパワーアップさせる。


「そもそも瑞貴って子ももっと色々と」


スパーン


「いたっ……くない。何それ凄い」

「俺の魔剣『ヒャッキンニアルヤーツ』だ」


 こうして俺は魔剣を手に入れ、部屋の掃除と布団干しに余念がなくなったのだった。

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