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山田太郎の嘆き  作者: 無一文
20/29

小ネタだとか その5

 夏休みと言えば水着イベントやひと夏の甘い恋じゃないかね。

 何なら時をかけたりするんじゃないのかね。

 ということを情熱的に書いて部活メンバーに送信したところ、全員から面倒くさいという、満場一致の意見を頂き、たった一人で海にやってきました山田です。

 最近、色んな事に巻き込まれてるから、恋愛関係もいけるんじゃね?

 もう人魚とかイカの女の子とかでも良いのよ?


 そう思っていた時期が僕にもありました。

 主に、昼過ぎ位まで。

 特に何の出会いもなく、夕暮れに染まる海を体育座りで眺めてます。

 周りに人気もなくなってきました。

 所詮はモブだもんな俺。


「モテてえなあ……」


 思わず声が出てしまいました。


「本当っすよねぇ」


 後ろから返事が返ってきました。


「隣良いっすか?」

「どうぞどうぞ」


 モテない男同士語り合おう。

 と、横に座った人物を見たら、半魚人でした。

 サハギンってやつですね。

 そうきたか~~~~~~~~~ッッッ!!!

 あくまでも動揺を顔に出してはいけない。


「自分、正太郎って言うんです」

「俺は山田 太郎です」

「太郎つながりっすね」


 二人で乾いた笑いをする。


「正太郎さんは異世界から?」

「いえ、九州出身で……ちょっとナンパでもって」

「その人間の女の子を?」

「いや、そんな、もちろん同じサハギンか人魚とかですかねぇ」

「そうですかー」

「山田さんは?」

「似たようなもんですかね……さすがにナンパする勇気はないですけど」

「いや、実は僕もなんすよ。家を出る時はやる気満々だったんですけど、実際に来ちゃうと声もかけられなくて……ヘタレですよねぇ」


 他にもいたんだサハギン。

 波の音だけが静かに響いている。


「あの、山田さん。ちょっとやってみたい事があるんすけど」

「え、何ですか?」

「あの、ドラマとかで良くあるじゃないですか。砂浜を恋人同士で追いかけあうやつ」

「あー、ありますね」

「あれ、ちょっとやってみたいんすよ」

「男同士で?」

「試しにですよ! 試しに!」


 仕方がないのでジャンケンで女役を決めて、お互いに追いかけあうことにした。


「待て待てェぇぇぇぇぇ!」

「捕まってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 砂浜で全力疾走する俺とサハギン。

 実際に追われてみたら、超怖いんだもん!

 これ捕食されるって!

 お互いに息が切れたところで立ち止まる。


「ごめん、怖くて本気で逃げた」

「あ、すんません。じゃあ、次は山田さんが僕追いかけてください」


 再び砂浜で全力疾走する俺とサハギン。


「待てぇえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ」


 再びお互い息切れで立ち止まる。


「すんません。なんか経験値にされる気分になって」

「ごめん、俺もクエスト気分になってた」


 再び沈黙が訪れる。


「次、壁ドンいってみますか?」

「やってやろうじゃねぇか」


 最早お互いヤケクソである。

 適当な岩場でサハギンに壁ドンされる俺。


「やっぱ食われる気しかしねえよ。近いし」

「僕もなんか違う気がしてきました」


 入れ替わって、壁ドンする俺。


「なんか、気の弱いモンスターをカツアゲしてる気分になってきた」

「非常に的確な表現だと思います」


 お互い、溜息を吐く。


「おう、あれやろうぜ。砂浜で花火」

「持って来てるんすか?」

「念のためにな……」

「ああ、家出る時はってやつっすね……」


 すっかり暗くなった砂浜で、花火をする俺とサハギン。


「なあ……」

「言わないでください……」


 なんだろう? この居たたまれない気分。


「ごめんな……」

「いえ、こっちこそ、すんません……」


 二人で最後のヘビ花火を眺める。


「モテてぇな……」

「本当っすね……」


 種族は違ってもモテない者同士は引かれ合うらしい。

 これもまたひと夏の経験。

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