変身ヒーローだとか
「瀬川さんこんにちはー」
「あらぁ? 有栖で良いわよ? 愛」
片手を上げて挨拶しながら駆け寄ってきたのは、最近部活に入った芥川 愛だった。
同級生だから気を使わなくても良いのにぃ。
「そっか。よろしくね有栖」
若干照れて頬を掻きながら答える芥川。
あら、可愛いじゃない。
「部室に向かうところでしょう? 一緒に行きましょう?」
「うん!」
私の言葉に、嬉しそうに頷く愛を見て満足する。
「本当に山田の言う通りだったわ。ダイアーク様、山田から聞いた話をしたら超挙動不審になってた」
嘆息する愛。
「それはそうでしょうねぇ」
「一応、これまで通りでお願いしますって、土下座されちゃったわ」
「あらぁ? 賢者様の土下座なんて、私も見てみたいわぁ」
愛の苦笑いに、笑顔で答える。
正直、同性の加入は嬉しかった。
男三人なんて、むさ苦しいったらない。
それも美形ならまだしも、マッチョに濃いのに不細工だ。
ご勘弁願いたい。
こんな感じで、女子達は、仲良くなっている。
「今日は、どんな―」
と、私が部室の扉を開けると叫び声が聞こえてきた。
「テメェ! 今まで何で黙ってやがった!!」
ドゴッ!
陣内に殴られて吹っ飛ぶ山田。
「NO! 顔は駄目よ陣内クン! 瀬川サンに怒られるヨ!」
慌てて陣内を羽交い絞めにするボブ。
男子達は、新学期早々仲間割れを起こしていた。
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目が覚めると、俺の目の前にはボブが白い歯を輝かせて笑みを浮かべていた。
「山田クンも罪作りだネー! これでミーの好感度は、また上がったんじゃないノ?」
「うるせぇ! ボブと仲良くなってもしょうがねえんだよ! オイ! そこの腐れ吸血鬼! ワクワクした目で俺を見るんじゃねえ!」
俺は飛び起きると状況を確認する。
周りを見回すと、瀬川と芥川がおり、陣内はいない。
陣内に色々と話をしていたところまでは覚えているんだが―
「でぇ? 腐れ吸血鬼のご主人様にぃ、何があったか教えてくれるかしらぁ? クソ豚野郎ぅ?」
額に青筋立てたご主人様が俺に腹パンを決めながら、笑顔で尋ねてくる。
この威力、早さ、正確さ!
流石である。ちゃんと答えられる状態且つ、気を失わずに痛みだけは残す殴打!
ヒットの瞬間、腹が消し飛んだかと思うほどの威力だ!
「は、はい。ごしゅじ……」
「返事は『ブヒィ』でしょうぅ?」
次の殴打が鳩尾に炸裂する。
腹を抱えたまま、呼吸困難になりながらも俺は答えた。
「ぶ、ブヒィ」
「ちょ、有栖? 二人はそんな関係なの?」
芥川が怯えた目で―
全く見ていなかった。
「おい、芥川? 何テメェキラッキラッした目でこっち見てんだ? 俺は死ぬほど痛いんだぞ?」
「あら、そういう趣味なのかと思ってたわ」
正直立っているのも辛い。
ガクガクと震える膝で、腹を抱える姿勢が精一杯だ。
クスクス笑う芥川に怒りを覚えた俺の腹に、ご主人様の前蹴りがまたも鳩尾に入る。
「答えなさぁい?」
「ぶ、ブヒィ……」
辛うじて返事をする俺だった。
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「陣内の敵であるメカドロイドが壊滅した」
ご主人様こと、瀬川のドメスティックなバイオレンスを散々受けた後、ようやく人間語を喋ることを許された俺だった。
「ねえ? それより、有栖と山田の関係が気になるんだけど?」
「いいから黙れ芥川! 話が進まん!」
ションボリ顔の痴女は放っておき、話を進めることにする。
「でもぉ、何で急に、そんな事になったわけぇ?」
俺は手を握りしめ俯く。
「実は、薄々そうじゃないかなって思ってた線が大当たりだった……そういう意味では、陣内の怒りは最もだし、殴られてもしょうがないと思っている」
肩を落とす俺に、ボブがそっと背中を叩いてくれる。
「山田クンは、よく頑張ったと思うヨ」
「ボブ……」
何だかんだ言ってボブは優しい奴なのだ。
俺は瞳に貯まった涙を一気に袖で拭い去る。
「問題は、うちの近所に住む自称マッドサイテンティストのジジイだ」
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それは俺が小学校五年生の時だった。
突然、地球に『バクサイダー』を名乗る機会生命体が現れ、地球侵略を宣言したのだ。
それに対抗するために集められた5人の小学生が、同じく命を守るために異星からやって来たシュゴークリスタルの力を借りた合体ロボ『シュゴーファイブ』を操り、バクサイダーと戦い、地球を守ったのだ。
「で、そのパイロット候補に落ちたのが友人中たった一人俺だけで、シュゴーファイブを作ったのが、件のクソジジイだ」
「くっ……いつ聞いても泣ける話だネ……」
ボブがサングラスの下で目頭を押さえている。
瀬川は腹を抱えて笑っている。
芥川はポカンと俺を見ながら聞いてきた。
「その、なんで山田はパイロットになれなかったわけ?」
「ジジイ曰く『これは五人乗りな上に、お前他の奴とキャラ被ってるじゃん』と言われたんだ……」
俺の言葉に、ボブは『ジーザス!』と声を上げ手を組み祈り始める。
瀬川は、呼吸困難になったらしくヒーヒー言っている。
芥川は、俯いて肩を震わせている。笑いを堪えているんだろう。
「で、その、友達は、今は……?」
「ああ、これ以上は、かなり辛い話になるから今までしていない」
「ま、まだ続きがあったんデスカ!?」
「お、教えてぇ!!」
俺の言葉に、思わず立ち上がり興奮するボブと瀬川。
俺は、話すか話さないでおくか数瞬考えた後、口を開いた
芥川の質問は、それほど重い物だった。
だからこそ、部活メンバーにも今まで話していなかったのだ。
「まず、リーダー格の奴がバクサイダー攻略近くに、紅一点の女子ことピンクと付き合い始めた」
「あー、ありがちなパターンよねえ」
「ヒーローには、ヒロインがつきものだからネ!」
皆、ウンウンと頷いている。
馬鹿者共め。現実は甘くない。
「中学に入って暫くすると、その女子がリーダーと、仲間内の他のポジション……ブルーと言えばいいのか? まあ二股かけてたことが発覚したわけだ」
「うわぁ……」
「なんか、そんなのステイツのドラマで見たことガ……」
「おっと黙れボブ! これからが本番だ!」
俺はボブの言葉を片手を上げて遮ると続けて話す。
「最終的に、リーダー事レッドとブルーと別れた後、残ったグリーンとイエローでピンク争奪戦が始まった訳だ」
俺の話に全員が固唾を飲む。
「そ、それでどうなったのよぅ?」
瀬川よ。口元が既に笑っているぞ。
安心しろ。
お前の期待に応えてやる。
「ピンクは結局、全然関係ないサッカー部の先輩と付き合い始めて、高校でまた彼氏が変わったらしい」
ボブは頭を抱えて、放送禁止単語を連発している。
瀬川は完全に呼吸困難になって机をバンバン叩いている。
芥川は我慢しているが、口元からプッスプッス息が漏れている。
「まあ、悪いが前座の話だ。一息ついてお茶でも飲んでくれ」
皆が落ち着くまで、俺は持ってきたお茶を飲みながら待つ。
「そ、そうよね……陣内君の話がまだだもんね……」
「しゅ、主題はそれだったわねェ……」
「全く、山田クンの引き出しが多過ぎて困るヨ……」
皆がひとしきり笑って落ち着いた後、本題を話し始める。
「まずは、陣内がどうして変身ヒーローになったかを話そう」
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そもそも、陣内と俺が知り合ったのは高校に入ってすぐの頃だった。
陣内は今の厳つい格好や性格から考えられないくらい陽気な奴で、すぐに俺とも打ち解け友達になった。
しかし、高校生活開始から三か月経った時、陣内は不幸な事故にあってしまう。
メカドロイドと呼ばれる、サイボーグのテロに巻き込まれ、瀕死の重傷を負ったのだ。
それを救ったのが近所のジジイだ。
瀕死の陣内に改造手術を施し、命を救うと同時にジェットマスクに変身できるようにした。
それ以来、陣内はジェットマスクとして、自らのような被害者が出ないようメカドロイドと戦っている。
「それだけ聞くと、そのお爺さんは良い人そうなんだけど」
芥川の言葉に俺は横に首を振る。
「小学生の時の件もあるし、そもそも改造された陣内は性格がガラリと変わってしまっていた。俺の中ではジジイへの疑念ばかりが募る毎日だった」
「そこにぃ、陣内君のぉ彼女の話を聞いたわけよねぇ?」
瀬川の言葉に頷く。
「ああ、何でもジジイの孫娘がやって来て、陣内と恋仲になったらしい」
俺は、怒りを吐き出すように机を叩く。
「だがな! 近所に住んでいる俺は見たことがないんだ! そんな女を!」
ジジイの家(自称、研究所)に出入する陣内とジジイは、いつも見てきていた。
しかし、ジジイの家に、女の子が出入りしている所を見たことがなかった。
孫娘の話は、陣内かジジイ経由で聞くだけ。
俺は、陣内の恋人でありジジイの孫娘と言う存在自体を疑うようになっていた。
日曜の事だ。
俺は、母親に頼まれていたゴミ出しに出かけた。
丁度そこへ、ジジイが同じようにゴミを持って出てきたんだ。
「おう、ジジイ」
「なんだ、山田か」
俺もちょっとは大人になったつもりだ。
ジジイが両手いっぱいにゴミ袋を持っているのを見て、声を掛けた。
「おい、さすがにその量は大変だろ。ちょっと手伝ってやる」
ジジイから、ゴミ袋を奪い一緒にゴミ捨て場に向かった。
「ふ……山田も成長したな……」
「どっかのクソジジイが世知辛い世の中を教えてくれたからな」
ゴミを捨てた俺は、ふと疑問を口にした。
「というかジジイ、ゴミ捨て位、孫娘に頼んだらどうなんだ? 一緒に住んでるんだろ?」
「い、今は外に出ておるんじゃ」
「朝6時からか?」
ジジイの目は明らかに泳いでいた。
「じ、陣内君とデートだとか……」
「陣内なら、さっきまで俺と一緒にゲームでオンライン対戦やってたぞ」
俺の言葉を聞いたジジイはダッシュでその場から逃げだした。
俺はダッシュでジジイの後を追った。
「ふ、不法侵入だぞ! 貴様!」
「身寄りのないジジイの介護さ……さあ、ジジイそこを退け!」
玄関で両手を広げ、前に進ませまいとするジジイを足払いで転がすと、俺は家の中の研究室に入った。
そこには、カツラを被せられセーラー服を着たロボットが椅子に座っていた。
「おい、ジジイ! まさかテメェ!」
「ふっ……事実を知られてしまったようだな……」
「この木偶人形を孫娘だと陣内に刷り込みやがったな!?」
「だって、高校生のヒーローだぞ!? ヒロインとか必要だろ!!」
訳の分からない事を言いながら涙を流すジジイ。
「陣内君にはスマンと思っている……しかし、彼のメンタルをケアする一環でもあり」
何かピンと来た。
「おい、ジジイ。まだ何か隠してんな?」
人は隠し事がバレると寡黙になる。しかし、まだ疾しい事があるのなら饒舌になる。
俺は孫娘ロボを投げ捨てると、研究室の中を歩いて回る。
後ろでジジイの叫び声と、ガーピーガーピーというビープ音が聞こえるが気にしない。
ジジイの机の周りを探してみる。確かこの辺りにあったはずだ。
「ちょ、触るんじゃない! ワシの大事な研究資料が!」
引き出しの脇にある不自然なボタンを見つけた俺は迷わず押した。
すると、研究室の一部が開き新たな通路が現れる。
「やはり、この地下室か……」
俺は後ろから聞こえるジジイの声を無視して、中へと進んでいく。
小学生の頃、ここに来た時には、地下がハンガーになっており合体ロボたちが格納されていたのだ。
そして、地下に着いた俺が見たものは、メカドロイドと呼ばれているサイボーグ達が格納庫に綺麗に並んでいる様だった。
「ジジイ……」
後ろからやって来たジジイが、膝から崩れ落ちて泣き始めた。
「昔はよかったんじゃ……だが、バクサイダーが倒されて以来、シュゴーファイブはどっかに消えるし、ワシの研究は無用に……政府からの援助は打ち切られ、借金に喘ぐ生活……そして、ワシはある事を思いついた……」
「メカドロイドという新たな敵を作る事か……」
ジジイは俯いたまま頷く。
「陣内君が、事故に巻き込まれたのは偶然だった……しかし、その偶然こそがワシへの天啓だった! 自らヒーローを作りだし、自ら敵役を作り出す! そうすれば一生食うに困らず―」
俺はスマホでポリスメンを即座に呼び出し、ジジイはツートンカラーの車に乗せられ消えて行った。
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俺の話が終わると、部室内には何とも言えない空気が充満していた。
時計の針の音だけが鳴っている。
「そりゃあ、陣内君も怒るわよねぇ」
瀬川の嘆息に、同意して俺は頷く。
「そんな訳だ……今日は、ここらで解散しよう」
俺の言葉を聞き、皆が無言で部室を出て行った。
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いつも通り、家でゲームをやっていると爆音と共に部屋が揺れた。
窓を開けると、はす向かいにあるジジイことテロリストの家が粉みじんになっていた。
俺はスマホで陣内にメールを送る。
「夜中のジェットサンダーアタックは近所迷惑なので止めてください……と」
こうしてまた一つの悪が滅びたのだった―