世界創生だとか
「山田よ……山田太郎よ……目覚めるのだ……」
目を覚ますとそこは自分の部屋ではなく、応接室の一角だった。
そして、俺の目の前には白いローブに身を包み、白いひげを蓄えたハゲたジイさんが立っていた。
頭には輪っかが付いている。
「夢か」
二度寝しようとする俺を揺さぶるジジイ。
「起きろ! 起きんか!」
「んだよ! うっせーな! 誰だよテメェ!」
「ワシは神じゃ」
「そうか、介護施設の番号調べてやるから、ちょっと待ってろ」
「違うから! ボケてないから!」
「ああ、じゃあ病院の方か」
スマホを探すが見つからない。
「おい、どこだよここ」
「だから、ワシは神で、ここは天界と言うやつじゃ」
また面倒な事に巻き込まれたらしい。
「んじゃ、とりあえず俺を元の世界に戻せ」
「手伝って欲しい事がって……帰る気満々!?」
「当たり前だろ! 大体、こういう事に巻き込まれてロクな目に合った事ねえんだよ!」
「そこなのだ山田よ!」
いきなり、ズビシと俺を指差しながら語り始めるジジイ。
「数多の世界を体験した、お前のような人材を探していたのだ!」
「要領を得ないな。話だけは聞いてやろう」
話が進まなそうなので、とりあえず椅子に座り直す。
「先程も言ったようにワシは神であるからして、新たな世界の創生を任されたのだ」
「一週間もあれば出来るんじゃねえの?」
「いや、それが困ったことに、作る世界がことごとく壊れてしまってな」
「破壊神じゃねえか」
「ある程度安定した世界を作るために試行錯誤をしている最中なのだが、どうにもワシそういうの向いてないみたいでな」
「お前神様辞めろよ」
「今辞めたら退職金がパアになるではないか!」
「え? 天界ってそういうシステムなの?」
「様々な下積みを経験し、試練を乗り越えたものだけが至れるのが神なのだ!」
「ん? 下積み経験あるんなら、何とかなるんじゃねえの?」
「縁故採用でな……」
とりあえず、目の前に合った机を蹴り飛ばした。
「ふざけんな! そんなんで世界作れるわけねぇだろ!」
「だって、就職氷河期だったし、他に道が……」
四つん這いにになって泣き出すジジイ。
天界も就職氷河期とかあるのか。
「全知全能じゃねェのかよ」
「人間だって、出来の悪い奴くらいいるだろ! お前みたいに!」
「喧嘩売ってんのか、手伝って欲しいのかどっちだジジイ!」
頭の輪っかを掴んで、ジジイに投げつける。
「も、もちろん手伝って欲しいと思っておる!」
「タダ働きか?」
「え?」
「まさかタダ働きじゃねぇだろうな?」
「じ、時給800円でど―」
「コンビニの方がマシだわ! つーか神様ならいくらでも用意できるんじゃねェのか!?」
「わ、分かった……では、給料については後で別途相談させてくれ」
まあ、バイトでもしようかと思っていたし、こんな仕事なんて早々できないだろう。
「しょうがねぇから引き受けてやるよ」
「よ、良かった……ありがとう」
「で、何すりゃいいんだ?」
「まずは、皆に紹介しよう」
そう言って応接室の扉を開けて、外に出るジジイ。
俺はその後ろを付いていく。
扉の先に広がっていたのは―
「おい! データ間違ってんぞ!」
「どうするんだよ! ここの仕様!」
「アンタいっつも口ばっかりじゃねェか!」
見た目は普通のオフィスビル内なのだが、天使っぽい人たちがパソコン使って仕事していた。
しかも、雰囲気最悪である。
「おい、嫌な予感しかしねえんだが、もしかしてアットホームな職場か?」
「さすがは山田だな! 一目で見抜くとは!」
「単なるブラック企業じゃねェか!」
俺は躊躇なくジジイの顔面に拳を叩きこんだ。
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「えー、というわけで今日から手伝ってくれることになった山田太郎君だ。皆、仲良くしてやってくれ」
「山田太郎です。宜しくお願いします」
とりあえずお辞儀をする俺。
俺の隣には、青タンを作ったジジイが立っており、目の前には10人ほどの天使っぽい人が並んでいる。
「人間である山田君だが、異世界の経験は豊富で、知識も多い。皆の役に立ってくれると思う」
「とりあえず、何をして貰うんですか?」
天使の一人が質問する。
「今作っている世界のテストからだな。一号よ、テスト現場まで連れて行って説明してやってくれ」
「分かりました」
俺は一号さんの後ろに付いて行きながら質問する。
「一号さんって名前なんですか?」
「ああ、天使はね、名前を貰えるまでは番号で呼ばれるんだ」
「天界って思ってたより俗っぽいですね」
「これから、もっと色々知ることになると思うよ」
そう言って一号さんは、オフィスの一角にある小部屋に俺を案内してくれた。
「ここがテストルームだ」
目の前にあるのは、パソコンと、モニターと、ゲーム機である。
「は?」
「ええっと、一番馴染み深そうな形にしてみたんだけど」
「ああ、俺専用に用意したって事ですね?」
「そういう事」
何かもっとこう神秘的なものを期待してたんだが、確かに俺にとって効率は良いだろう。
一号さんはPCの電源とゲーム機の電源を入れる。
モニターには、異世界の様子が映し出されている。
「今はテスト用の生き物を使っているんだ」
真っ白い人型の人形が異世界にぽつんと立っている。
「これをコントローラーで操作して、おかしなことが起きたら、こっちのパソコンで状況報告して欲しい」
「デバッグですよねコレ?」
その言葉に、ピタリと一号さんの動きが止まる。
「ま、まあ、人間界風に言うとそうなるかな?」
「この世界の資料とかあります? それがないと何が正しくて何が間違ってるのか……」
「ああ、それならここに」
パソコンを操作して、資料のあるフォルダを開く。
そこで、凄く気になる事があったので聞いてみた。
「資料……少なくないですか? ファイルが10個くらいしかないんですけど」
再び一号さんの動きが止まる。
「い、今作ってる最中だから……」
「ちょっと待ってて下さい」
俺はテストルームを出ると、ジジイの下に向かう。
ジジイは何を勘違いしているのか笑顔で俺に問いかける。
「どうだった山田よ? 天界の技術は?」
「プロジェクトが破綻しかけてるじゃねェかクソジジイ!」
この日、二度目の俺の拳がジジイの顔に突き刺さった。
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テストルームにジジイを呼び出し正座させる。
「おい、状況を詳しく説明して貰おうじゃないか」
「さ、先ほども言った通り、何度も世界の作成に失敗してしまってな」
「それは聞いた」
「で、次々と優秀な天使が辞めてしまって、人が足りないわ納期は近いわで、どうすれば良いのか……」
グスグスと泣きはじめるジジイ。
「天界って時間関係なさそうなんだが納期とかあるのか?」
「本当は1000年くらいあったんじゃが、失敗する度に作り直さないといかんので、気が付けばあと1年ほどしか……」
「もう止めちゃえよ」
「そ、そんな事言われてもワシのクビがかかっておるのだぞ!?」
「知らんわ! 大体1週間で1回はできるんじゃねェのか!?」
「それは他所の神じゃろ? ワシ、初めてじゃし1年で1個できるかどうか……」
またメソメソと泣き出すジジイ。
ああ、これが可愛い女神とかなら救いたくもなるんだが、こんなクソジジイの為に働かなきゃならんのか。
「ちなみに、人間界の時間と天界の時間は関係あるのか?」
「いや、天界の時間の流れと人間界の時間の流れは全くの別物じゃ。仕事が終わって、お主が人間界に戻っても1秒も進んでおらんよ」
「そういえば、天使は知らんが俺は眠くなったり疲れたりするのか?」
「天使は勿論、お主もここに居ればそれはないはずじゃ」
24時間働き放題で疲れないのに、天使に逃げられるってどんな仕事ぶりだったんだ……。
「とりあえずジジイよ。人出が絶対に足りない。これから指定するメンバーを呼べ」
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「瀬川 有栖よぉ」
「芥川 愛です」
「陣内 剣也です」
「ボブでーす」
「ダイアークだ」
とりあえず部活メンバーを応接室に呼び出して貰った。
ダイアークはポンコツではあるが賢者なので、世界と魔法関連には強いだろうということで来てもらった。
「いきなりの呼びだしで済まんが、これからこの無能神のために世界創生を手伝って貰う」
隣に座っているジジイを指差す。
「へー、面白そうじゃん」
「いや、多分地獄だ」
呑気に話す陣内に、真顔で答える。
その言葉に、全員の顔が引き締まる。
「何から始めるノー?」
「とりあえず、世界を作るために必要な要素を洗い出すことだな」
ダイアークが考え始める。
ポンコツだと思っていたが、そういえば一応は賢者だから仕事に関しては優秀なのか。
「あと、今ある物の確認をして、足りない物を作るのにどれ位かかるかを調べる必要があるな」
「その通りだ。山田君」
満足そうに頷くダイアーク。
「では、役割分担を決めよう」
こうして、俺達の世界創生が始まった―
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ダイアークは、その能力と統率力を活かして全体を把握して調整するリーダーになってもらった。
瀬川は、その能力を活かして足りない物作り。
芥川も、その補佐に回っている。
ボブは、元々某国のエージェントという肩書と共に某大学を優秀な成績で卒業していたらしく、物理や数学に強いので、その方面のアドバイザーになっている。
陣内にはゲーム経験を活かしてテスターに回ってもらっている。
俺は、各種資料作成やデータ管理を行っている。
今まで居た天使たちには話を聞きつつ、各チームに入ってもらっている。
無能神ことジジイはパシリとして使うことにした。
「というわけで、この様なスケジュールで各員作業を進めてもらう」
ダイアークが、スケジュールを出しながら説明する。
各天使たちも納得しているようだ。
ただ、無能神だけは不満そうにブチブチ文句を言っている。
「だからー、ワシが思うにやっぱり空飛ぶ8つ首ドラゴンは必要だと思うんじゃよ」
「てめぇ、同じようなこと言って560回目のテストの時に宇宙全体がスライムに包まれたこと忘れてるのか!?」
俺は無能神の鼻に指を突っ込みながら問う。
こいつは、今までの失敗から何も学んでいない。
というか、今までのテストケースを流し見て確信したのは。大体失敗はコイツのせいという事だった。
「で、でもー! そこだけは譲れない」
「おい、瀬川、猫田を呼び出せ。BL主体な世界に作り替えてやる」
「わかったわぁ」
嬉々として、猫田を呼びだそうとする瀬川を止める無能神。
「分かった! ワシが悪かったから!」
「あらぁ? ご主人様への返事は全て『ブヒィ』だと教えたはずよぉ?」
無能神の頭を踏みつけながら瀬川が笑う。
「ぶ、ブヒィ」
かつて、これほどまでに酷い神がいたであろうか?
「凄いわよぉ山田ぁ! 私、新世界の神になってるぅ!」
嬉しそうに無能神の頭に蹴りを入れる新世界の神。
「いや、そういう神話いらねぇから。それよりデータ不足が酷いな。途中で失敗してるからしょうがないと言えばしょうがないんだが……」
世界を構成する要素のデータは、通常テスト段階で得られるはずなのだが、無能神が無能なために、時間が足りなくなっている。
その時、俺の言葉を聞いてボブがニコリと笑った。
「山田クン、それこそ僕の得意分野ダヨー?」
「ああ、そうか、その手があったか。よし、ボブと無能神以外は会議室から退散」
俺の言葉を合図に、ぞろぞろと会議室から出て行く全員。
天使たちは不思議そうな顔で見つめ合っている。
閉めた扉の向こうから声が聞こえる。
「今すぐ全部脱げ」
「いやぁぁぁぁ! 誰か助けてぇぇぇぇぇぇえぇ!」
五分ほどすると、頭に輪っかを乗せ、白いローブを身に纏ったボブが部屋から出てきた。
「では、行ってきマース」
いつものように白い歯を見せ笑顔で親指を立てたボブは、他の部署にデータを盗みに行ったのだった。
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「ワシ、ワシ神様なのに汚されちゃった……」
さめざめと机で泣くジジイは放っておいて全員で作業を進める。
食事もトイレもいらないし、疲れもないから仕事は快調だと思っていたのは2日ほど経ってからだった。
どうも集中力が続かない。
そうか。体に問題はなくても心が疲れるのか。
その事に気付いた俺は、ダイアークに話に行く。
「すまんが、どうも精神に来る疲れは取れないようだ。悪いが、他の連中も休ませてやってくれ」
「そうか。自分は仕事が好きなので気付かなかったが、山田君の言う通りだな」
そういうダイアークも、若干顔色が悪いように見える。
それで、優秀な天使が辞めていったんだなと納得していた時、無能神が叫び始めた。
「何を言っておるのだ! 我々の仕事をなんだと思っている!? 新しい世界の創造だぞ! ちょっとぐらいの疲れや―」
俺はダッシュで無能神の前に飛ぶと、自分でも褒めて上げたくなるくらい綺麗なドロップキックを決めていた。
部活メンバーは勿論の事、天使たちからも歓声が上がった。
こうして、基本的な人間である俺基準で労働時間が決められたのだった。
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「やっぱり魔法いらないんじゃないか?」
何回目かになる会議の時に、俺は思っていたことを口にした。
「どうしてぇ?」
「確かに便利なのは分かるんだが、不確定要素が多過ぎてどうも扱い辛いんだよなあ」
「山田君、それは少し違うな」
ダイアークが反論する。
ふむ。何か理由でもあるんだろうか?
「ボブが得たデータは魔法のある世界を基準にしたものだ。それを除くとなると逆に全ての物理法則など精密にデータ化する必要がある」
「ああ、そうか多少無茶があっても魔法だからで片付くのか」
「自ら魔法を使う身でありながら、こう言うのは不謹慎かもしれないが、今から作ろうとしている世界にもう一階層余剰エネルギーを持たせることができるのだ」
つまりエネルギー不足の問題は解消されるわけだが……。
「しかし、総量として考えた場合に急激な世界の発展や進化をもたらし、飽和した挙句に崩壊する可能性はないか?」
「そこで、破壊神や、邪神、魔王の出番になるのだろう」
「ああ、なるほどなあ」
文明の破壊と再生を繰り返し、且つ魔法と言う概念で覆う事で世界を安定させることができるのか。
「風船を膨らますのが世界や人間で、悪い奴らはその空気を抜いて安定させてるって事?」
「膨らみ続けたら風船自体が割れますネー」
「もっと簡単に言うなら、パソコンのハードディスクの容量が決まってて、要らないデータを消すのが悪役の務めなわけだな」
「そうやって、パソコン自体が寿命を迎えると世界が終わるわけね」
何とも夢のない話である。
新世界の創造も何とも寂しい事だ。
「いや、そうとは限りませんよ」
一号さんが話し始める。
「例えば、エネルギーの増加と、世界の広がりが一定値を保っていた場合は、そのパソコンで例えると容量の増設が認められます」
「山田のいる世界は最たるものだの」
無能神が続く。
そうか、つまり運営がうまくいけば世界の存続自体は認められるのか。
「もうネットゲーム作ってるのと変わんねぇなぁ」
「顧客満足度が世界の運命を左右するのか」
陣内と笑い合う俺。
まあ、つまらないネットゲームは半年も経たずに止められてしまうものだ。
新作が出たからと言って、飛びついては止める俺たち二人にとっては苦笑いでしかない。
「逆に言うと、希望のある世界であれば顧客というかエネルギーの生産量は安定するのか」
「その世界自体で新たな概念が産み出されれば、自動的に世界自体を広げることにもなります」
命が繋がりを持って広がり続ける世界か。
「容量に制限はないんだよな?」
「それが、続く世界であれば」
「でも、何でも叶う世界を作ったら成長も発展もないよなぁ」
ボブがサングラスを上げながら呟いた。
「絶望も、無念も、後悔も次へのステップになりマス。それは山田クンが一番知っているデショー?」
「ああ、そうだったわ」
これまで体験してきたことを思い出す。
「よし、話はそれてしまって済まんが、魔法有りの世界で行こう。魔王も破壊神も邪神も、その世界の奴らに任せてしまおう! どうせそんな奴らが居ても居なくても人ってもんは失敗したり成功したりを繰り返していくもんだしな」
全員が頷き、会議は終了となった。
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こうして製作開始から9か月も経った頃、ようやくテスト版と呼べるものが出来ていた。
瀬川が出来たものを組み合わせていく。
そして、早送りでシミュレートが開始された。
「今のところ上手くいっているみたいねぇ」
広がる星々を俯瞰で眺めながら瀬川が満足そうに呟く。
「とりあえず一万年もてば上等だな」
様々な神話を取り入れ、定期的に変異を起こし進化を促す。
細かい調整はこれからだが、問題点が分かればそこを調整するだけの段階だ。
「ねぇ、何あれ?」
芥川が星空の一角を指差す。
そこには惑星より大きい八首のドラゴンが翼を広げており、俺達の作った世界はパクリと飲みこまれた。
ドラゴンはその後も捕食を続け、宇宙が空になった後、空腹で餓死した。
「ダイアァァァァァァァァアァァァクビィィィィィイィィィム!!」
ダイアークの渾身の一撃が無能神を吹き飛ばした。
チクショウ、生きてやがる。
「な、何をするのだ!?」
「お前データに何しやがった!?」
胸ぐらを掴みあげて問いかける。
「やっぱり、これくらいの脅威がないと……」
「ああ!? データが一部薪戻ってる!? いや、上書きされてます!!」
天使の叫び声に、俺達は顔を見合わせると、無能神を鎖で縛り応接室に幽閉した。
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テストも調整も終え、ようやく修正だけになり、皆死んだ目をしながら異世界を眺めている。
データは昨日、天界上層部に送信して現在チェック待ちの状態である。
「こ、これで終わるのよねぇ?」
「正直もうコントローラー触りたくないわ」
「祈る対象が応接室に鎖で縛られてる状態だがどうするよ?」
「ダイアーク様を信じましょう!」
天使たちは、すっかりダイアーク派閥に染まっており無能神の顔を見ては舌打ちをする始末である。
ダイアークも平然を装ってはいるが、落ち着きがないのが見て取れる。
その時、部署内の電話が鳴り、ダイアークが即座に受話器を取った。
皆、固唾を飲んでその姿を見守る。
「はい、はい、いいえ、どうも……え? ああ……」
挨拶から一転して、若干暗いトーンになるダイアークを見て嫌な予感が走ったが―
「はい! ありがとうございます! では、失礼いたします!」
一転して明るい声になったダイアークに全員が立ち上がり期待の視線を向ける。
ダイアークは受話器を置くと、皆に向けて話し掛けた。
「無事チェック終了だ! 皆さんご苦労様でした!」
ダイアークの言葉に、全員が歓声を上げた。
長い戦いが終わった……。
天使たちはあふれる涙も拭わずに拍手をしている。
それはそうだろう。1000年もこんな事を繰り返してきたのだから。
「ただ、若干の問題があるそうだが、それはアップデートで何とかなるというレベルだった」
「あとは任せてくださいよ! ダイアーク様!」
一号さんが涙ながらに叫ぶ。
そして、ダイアークが俺に向いて言う。
「その、この異世界の名前だが『ヤマダワールド』で良いかな?」
「うん。もうどうでもいい」
一仕事終えた俺は、そんな事はどうでも良かった。
ただ、ただ安堵感と高揚感に包まれ拍手をしていた。
そして、ゆっくりと意識が遠のいていき―
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目が覚めると家の布団の上だった。
夢だったのだろうか?
夢であってたまるか!
と、机の上に見覚えのない封筒が一枚置かれていることに気付いた。
給与明細と書かれた封筒の裏には、天界で見た各印が押されている。
迷わず開けると、中から給与明細が出てきた。
時給850円換算で給与が振り込まれているらしい。
もちろん、休憩時間は含まれていないし、天界税と言う名目で、がっつり振込金額が減らされている。
その時、瀬川からメールが届いた。
宛先を見る限り、部員全員とダイアークに送られているらしい。
本文は至って簡潔だった。
『神殺しの称号欲しくなぁい?』
恐らく、全員が即座に返信したのだろうスマホにメールが着信し続ける。
俺は迷わず本文の作成に取り掛かった。
『ヒゲを全部毟るところから始めよう』




