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山田太郎の嘆き  作者: 無一文
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魔法少女だとか

 四月。

 桜舞い散るこの季節を、俺はまた歩き出す。

 俺の名は山田太郎16歳。高校二年生。

 身長175cm、体重56kg、視力メガネなしで0.1以下、成績中の下、若干不細工、アニメ&ゲームが大好きなだけの存在だ。

 いたってどこにでもいる平凡な男子高校生『未満』である。

 俺の名前を見たことがあるだって? 聞いたことがあるだって?

 当たり前だ! 俺は多分日本で一番スタンダードな名前!

 なんなら柔道やったり野球やったりしてるキャラクターもいる!

 おっと待ってくれ、これは俺の名前であってキャラクターには関係ない。

 関係ないともう一回だけ言っておこう。

 市役所に行けば、サンプルの名前として載っているし、模試やら何やらで名前が載っている度に知り合いに


『お前、活動範囲広過ぎじゃね?』


 と言われる始末である。

 言った奴等は全国の山田太郎さんに全裸で土下座すべきだと常々思っている。


「チクショウ!!」


 おっと、思わず本音が口から出てしまった。

 いかんいかん。

 俺は目立たない存在。

 俺は脇役。


 ―なぜならば俺はモブなのだから。


 おや、周りの人が暖かい目線でこちらを見ている気がするが気のせいだろう。

 大丈夫。花粉の季節だ。

 きっと皆クシャミだと思っているに違いない。


 自分がモブであるという事実。

 この事に気付いたのは、小学生の時だった。

 近所の自称マッドサイエンティストと名乗るジジイに―


『ワシ的に、五人までが限界だし、お前メガネな癖にノッポで体力もねぇし頭悪ぃからパスな』


 と合体ロボットのパイロット候補から友人内で唯一外されたところから始まる。

 ちなみに、そのジジイは家のはす向かいに住んでいるため、ゴミだしの時に蹴りをくれたり、すれ違いざまに博士っぽい帽子を掴んで投げ捨てたり等、事あるごとに絡んでは嫌がらせを行っているので問題はない。

 おっと、話が脱線した。


 アニメやゲームで重要な年齢、それが16歳である。

 恋愛ゲームを想像して頂きたい。

 上には、社会人から一つ上の高校生の先輩まで。

 同級生も、もちろんよりどりみどりで、何なら不自然な転校生まで迎えられるタイミング。

 下には、高校一年生から…………妹がいるから、小5まではセーフにしよう。そうしよう。

 何のセーフかは、俺が決めることであって、社会には関係ない。

 俺が何をするとも言ってないのでセーフなのだ。

 まあ、それだけ重要な季節なのだ。

 今日から新学期! 新しい俺の時間の始まりだ!

 突然、授業中にテロリストが来た場合に備えて、入念なイメージトレーニングと、筋トレ(腕立て10回、腹筋10回、スクワット10回)は春休みの間、毎日欠かさずやって来た!

 パンを咥えつつ、右手にナイフを持った女の子が、曲がり角でぶつかった挙句、的確に肋骨の間を抜いて心臓を刺して来ても良いように、学生服の下にはケブラーを着ている!

 空から、女の子が降って来ても問題ないように教科書はさておき、鞄の中はAEDや、緊急用の対衝撃シートで埋まっている!

 勘違いしないでもらおう諸君。

 この世界には、魔法も奇跡もある。

 正直何でもある。

 ただ、それらすべてが俺に関係ないからだ。

 だが、それも今日まで。

 高校二年生と言う特別な時間を得られた俺は、今日から主役―


 キーンコーンカーンコーン

 一日の終わりを告げるチャイムが鳴る。


「んじゃ、お疲れー」

「またなー」

「ちょっと、この後時間ある?」

「ゲーセン行くべ」


 ホームルームを終え、帰って行くクラスメイト。

 知ってた。

 知ってたよ。

 これが現実さ。


 俺の溜め息なんざ誰も聞いちゃいないさ。


「はぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ」


 深く吐いた溜め息に―


「ちょっと、大丈夫?」


 という声が聞こえた。

 声を掛けられた隣を見ると、赤い髪をポニーテールに纏め、整った顔立ちで、スレンダーな体型。

 俺が主役キャラなら、間違いなく攻略候補であろう女の子がいた。


「はぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ」


 それと目を合わせてから、もう一回溜息を吐く。


「ちょっと、アンタ失礼じゃないの!?」


 机を叩いて立ち上がるコイツの事を俺は知っている。

 芥川 愛。

 こいつは、近所で戦っている魔法少女たちの敵幹部だ。

 そういえば、こいつの勧誘もしなければいけなかったのだ。


「ああ、芥川さんだっけ? ちょっと時間貰えるかな?」


 気を取り直して、普通に話し掛ける。

 急な態度の変更に、何か裏があると思ったのか、ジト目で見てくる芥川。


「えっと、あ、ごめん何かな?」


 笑顔で取り繕う芥川。

 計画通り。

 こいつは学校内では普通の生徒で居たいのだ。


「ちょっと悪いんだけど、相談があるから部室まで来てもらえるかな?」


 なるべく済まなそうな顔で頼み込む。


「えっと……」


 良い感じに目が泳いでいる。悩んでいるな。

 良きクラスメイトであろうとする自分。

 ここで、ダメ押しだ。

 まあ、俺と二人きりで個室など嫌に決まっているだろう。


「ああ、ごめん大丈夫。二人っきりってことはないよ。他のクラスの……瀬川って女の子や陣内、ボブもいるから」


 笑顔で答える俺。


「ああ、そうなの……ちょっと待って、ボブって誰? 何なの?」


 チッ。ボブに気付きやがったか。

 思ったより察しが良いな。

 こういう時は、考える暇を与えない方が良い


「すまないが、部活まで時間がないんだ、一緒に来てくれるだけで良い。話を聞いてもらうだけで良いから」

「ま、まあ、他に人もいて話だけって言うんなら……」


 こいつチョロイな。

 ちょっとしたアレな本だったら、後一時間で笑顔でダブルピースしてるよアンタ。

 そんな事を考えつつもおくびにも出さない俺。超ジェントルメン。

 顔は変えずに、そのまま社会科準備室である、我が部『地域社会情報部』である部室まで案内した。


「どうぞどうぞ。芥川さんは空いてる席に座って」


 芥川は、若干悩んだようだが、コの字型に組まれた同性である瀬川の隣に座った。

 座席はあらかじめ各人に指定しておいた。

 座りやすいなら、同級生の同性の隣だろう。当然の結果だ。

 おっと、まだ笑うな。まだ堪えるんだ。

 俺は中央の席に座ると話を始めた


「まずは、芥川さんに、部活メンバーを紹介したい」

「えっと、急に連れてこられて、何が何だか……」

「だからこそだ! だからこそ自己紹介からが大事なんだ!」


 バンと机を叩いて熱弁する俺に怯んだのか、コクコクと頷く芥川。

 こういうのは、流れと勢いで一気に押し切るのが大事である。


「はい、じゃあ陣内から自己紹介」

「おう、任せろ! 俺の名は陣内 剣也! またの名をジェットマスク! メカドロイドと戦っている正義の変身ヒーローだ! 好きな食べ物はカレーライスだ!」


 金色に髪を染めた髪を逆立て、わざわざ学ランの袖を破って着ている陣内が叫ぶ。

 芥川の思考回路が止まっている。叩き込もう。


「はい、次ボブ」

「マイネームイズボブデース! ミーは、元々某国でエージェントをやっていましたガ、今はフリーの掃除屋デ、しがないハイシュチューデントデース! 好きな食べ物はビーフステーキデース!」


 ボブが両手をひろげて笑いながら語る。

 しかし、その姿は異様に尽きる。

 黒人でスキンヘッドにサングラスにヒゲ、そして不釣り合いな学校指定の学生帽。

 学生服に至っては、サイズが合わないためか、筋肉に押されてピッチピチの状態になっている。


「あの、高校生って無理が」

「はい、次、瀬川!」

 考える暇を与えてはいけない


「私はぁ、瀬川有栖。ヴァンパイアハーフよ。事情があって、ちょっとこの町で吸血鬼狩りをしているのぉ。一応、この部のリーダーよぉ。好きな食べ物は、チョコレートパフェかしらぁ」


 銀髪の紙に、アメジストの瞳、色白の肌。

 一見すると人形のようですらある。


「ヴぁ、ヴぁんぱ……」

「はい! 俺、山田太郎です! この部活の部長です! 特技も職業もない男子高校生です! 生きることに精いっぱいです! 好きな食べ物は、納豆ごはんです!」


 一通り自己紹介を終えた部活メンバーの視線が、芥川に集中する。

 オロオロと慌てた後、考えをまとめたのか自己紹介を始める。


「えっと、私は芥川 愛って名前で、今日は山田君に連れてこられて、ここに来ました」


 ふむ。簡単にボロは出さないらしい。

 俺は嘆息すると立ち上がって宣言する。


「俺の様に、普通の男子高校生とは言わないんだな?」

「そ、そんなことわざわざ言わなくても……大体貴方達何なの? 今さら厨二病とか笑えないわよ」


 掛った。俯いてほくそ笑む俺。


「魔法少女マジカルジュエルプリンセスは知っているな?」


 場の空気が静まった。


「は、は? 何言って……」

「魔法王国を滅ぼすため、六つの宝石を集めているダイアークは知っているな?」

「山田……アンタ……」


 俺の言葉に心当たりがあるのか、がたりと席を立つ芥川。

 それを見て、確信を得る。


「何を恐れているんだ? ダイアークの手下、女幹部であるオニキス!」

「な、何の事だかさっぱりね!」


 明後日の方向を向く、芥川。

 まだシラを切るつもりか。

 そこで、俺はトドメの言葉を放つ。


「お前ノーメイクで、素顔丸出しじゃねぇか! バレバレなんだよ! あのハイレグアーマーはどうかと思うぞ! あと、今気付いたけど、あの格好の時、お前胸盛ってるだろ! パッドか!? パッドなのか!?」

「うるさいわね! 放っておいてよ!」


 俺の言葉に釣られて、芥川が怒鳴り返してくる。

 しかし、図星だとバレて全員の視線が集中していることに気付いたのか、一瞬たじろいで、ゆっくりと座り直す。


「何処でばれたか知らないけれど、恐ろしい情報収集能力ね。」


 なんか、芥川からすんごい風が流れてくる。

 何コレすっごい怖い。

 だが、俺は別にコイツの敵になりたいわけではない。


「まあ、落ち着いてくれ。別に敵対しようという訳ではないんだ」


 なるべく笑顔で話しかける俺。


「そんな不細工な笑顔のどこを信じろと!?」

「うっせーボケ! 日曜の度にハイレグアーマー来て少女弄って喜んでるドS野郎! 痴女かよ!」


 芥川のパンチが俺の右頬に突き刺さった―



 気が付くと俺はボブに抱えられ、顔に氷を当てられていた。

 瀬川が芥川に注意を促している。


「良い? 山田はぁ、普通の人間だからぁ。殴るなら、腹にしなさぁい」


 コクコクと涙目で頷いている芥川。

 俺を殴る事に対しては問題ないのか瀬川よ。

 とりあえず、芥川が話を聞いてくれる体勢になったようだ。

 俺はゆっくりと起き上がる。


「HAHAHA! 美少女に殴られテ、膝枕だなんテ、山田くんの言ってたお約束ってヤツですネー!」

「屈強な黒人男性に膝枕されるお約束などない!」


 ボブを指差し、教育を施す。

 ボブはやれやれと言った感じで、両手を広げて首を振っている。


「あらぁ? 山田、気が付いたのぉ?」

「新学期早々、こんなバイオレンスになる予定ではなかったんだが……」


 瀬川の言葉に返事をしながら、席に座り直す。


「それで何の話なわけ?」


 腕を組んで俺を睨んでくる芥川。


「まず知っておいて貰いたいのは、ここに居る部活メンバーの様に、この世には特殊な背景や能力を持った人間がたくさんいるという事だ」


 芥川は、俺の言葉を聞くと、部活メンバーを見回して嘆息する。


「まあ、そうみたいね……」

「そんな中、俺は何の背景も持たず、何の能力もない人間だ。だが、能力を持った奴等のいざこざに巻き込まれる事も多い。そういった情報を共有しようというのが、この部活の趣旨なのだ」

「つまり、どういうこと?」


 まだいまいちピンと来ないのか、首をかしげる芥川。

 このニブちんさんめ。


「良いか? 例えば、お前と魔法少女達が戦っているところに、瀬川が狙っているヴァンパイアが乱入してきた挙句、陣内とメカロイドが戦闘しながらやって来たら、大惨事だろうが」

「そ、それは間違いないわね……」


 芥川は、ようやく想像がついたのか冷や汗をかいている。


「つまり、そういったニアミスを起こさないようにするため、各人が情報を提供し合って、大惨事を回避していこうという、いわば町の平和を守るために必要な―」

「山田が生き残るために必要な事なのよぉ。それで、私が山田に命令してぇ、部活を作らせたわけぇ」


 瀬川が身も蓋もない事を仰る。


「そういうわけで、芥川も我が部に入って欲しいわけだ」


 芥川は嘆息すると頷いた。


「わかったわよ。確かに私にも必要な情報がありそうだしね」


 おや、意外にアッサリと了承したな。


「では、早速お前にとって貴重な情報提供をしてやろう」

「え?」


 俺の言葉が意外だったのか、芥川はキョトンとした顔でこっちを見ている。

 ククク。悪くない反応だ。

 俺はメガネをクイッと上げると、独自のルートで仕入れた情報の提供を始める。


「ダイアークは、そもそも魔法王国に所属する賢者で、破壊神から国を守るために6つの宝石を使って、国を一旦封印した良い奴だ」

「はあ!?」

「そして、お前は記憶が消されているが魔法王国の王女であり、最終的に魔法少女たちと一緒に破壊神と戦うことになる! 今、ダイアークは魔法少女とお前を成長させるために騒ぎを起こしているのだ!」

「ちょっと、何で一般人のアンタがそんな事知ってんのよ!?」


 衝撃の事実に加え、俺が知っているという事で、芥川は随分と取り乱している。

 情報の提供先を教えてやろう。


「ダイアークな。アイツ、お前らが戦ってるのを遠くから見守ってるんだよ」

「へ?」

「それで戦闘が終わる度に『これで準備は整いそうだ』とか、『姫も成長されたな』とか意味深なこと呟いて帰って行くんだよ」

「だから、なんでそんな事アンタが知って―」

「近所でドッカンドッカン毎週騒ぎが起こっている所に、変なマント着たコスプレ野郎が居れば嫌でも目立つわ!! バカか!! アイツバカなのか!?」


 俺の言葉を聞いて、へなへなと崩れるように突っ伏す芥川。


「わ、私のやって来た事って……」

「お前にとっては、辛い現実かもしれない……だが、現実は現実だ。受け入れてやってくれ」


 俺は、窓から見える夕日を眺めながら、そう告げる。


「あと、部活は月水金の放課後、ここに集まってくれ」

「アンタも色々台無しにしてくれるわね」


 芥川のツッコミが、今日の部活の締めだった。

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