21~25話
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僕は運が良い。数居るギルド員の中で、僕がボスと親密なのもそれが原因だ。
何時の間にか裏のボスに気に入られていたと言うのが実情だが。
「質問なんですが……ラインハルトさんは僕の何がそんなにお気に入りなんです……?」
油断してたら背に氷を流し込まれた。この人、リヴィ並みに悪戯好きでえげつない。
「うーん、勝負し甲斐があるとこかなぁ」
「そんな危ない人上司の横に置くとかアンタ螺子かっ飛び過ぎでしょう!?」
「危険なのは手元で見張っておくに限る。それに悪意を持って傷付けるでも無く、適度に笑わせ困らせてくれる」
「爺怖い! 完全に掌の上で踊らされてる! 何、アンタ釈迦でも目指してんの!?」
ポケットから唐辛子を掴み、ラインハルトさんの口に突っ込む。
彼は平気な顔で唐辛子を噛み、舌で指の間に塗り込もうとする。
慌てて手を引っこ抜いた。生暖かい滑った感触が手に残っている。
うぅむ、仏陀の指に落書きした孫悟空の気分だ。
「後、同族だからかな。君は狡猾で手段を択ばない男だ。だから私的な部下として欲しい」
差し込まれたメモには真っ黒な仕事。
うちのギルドは正義を掲げているが、勿論白いだけでは回らない。
人を殺すのが白いかは置いといて。
「犯罪者にはしても殺人犯にはしないとかわぁい僕愛されてるー」
「ちなみに我らがボスには喜んで手を汚させたよ!」
「あ、違うこれ僕と同じだ!」
そういやこの人、愛が深い程相手を傷付けるタイプだった。サドの悲しい性である。
メモを破り捨て、手帳を手に取る。
「犯罪者にされるなんて自惚れちゃっても良いんですねやったぁー……」
「そうだね二番目だね」
「これ以上気に入らないで下さいお願いします」
「あはは、口では反抗しても体は正直だぞ」
はっと、手帳に暗号で仕事について書いている自分に気が付く。
流れ作業になるぐらい躾けられている。うわぁ怖い。
去っていく彼の背を見ながら、次は仕事断ろ、と無駄な足掻きを決意した。
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ボスに話しかけていた女を、ラインハルトさんが後ろから撃った。
君を利用しようとしてたから。言い捨てて去っていく彼に、不運にも居合わせた僕は拉致される。
「いやぁ、あの傷付いた顔、最高だね。カメラ持って来れば良かった」
「愛が!!! 歪み過ぎです!!!」
マジ怖いこの人。他人の事言えないけど。
「アンタ過保護にしたいのか傷付けたいのかどっちだよ!」
「別に傷付けたくはない。ただ、僕は自ら茨の道を進む所を気に入ったんだ。しかも無謀な敵と戦わせてくれるし、最高だね!」
「アンタの存在自体がブラックホールクラスに歪んでます!!」
ふと違和感に気が付く。
僕は時々、さっきのような相手を社会的に殺すのを手伝っている。
「……わ、わざと目の前で?」
「一々監視して殺さず闇に葬るの、手間なんだよね。悪人でも殺すのは良くないって言うし。理想の為には傷付いて貰わなきゃ」
「やっぱりただのヤンデレじゃないですかー、やだー!」
計算高い分非常に危険だ。それが正義感が強く、民を守る為なら人を殺す男に仕えている。最悪のコンボである。
それにギルドと言う強大な力を持たせてしまったら、世界にとっての悪夢以外の何者でも無い。
うっかりボスが折れたら世界壊し始めるんじゃないのか、マジで。
「でもま、あの子は尻叩きも僕に求めてると思うよ。スパンキングが趣味とか育て方間違えたかな?」
「殺す為の後押し求めてるとか嫌過ぎですそんな関係性! 宇宙の果てまで金婚式行っといて下さい! 世界の為に!」
「やだなぁ、そこまで絶対生きてないし、精々水晶婚式だよ? っていうか後35年程暴れる事になるけど良い?」
「確信犯じゃないですかやだー!」
出会って15年ぐらいかー、とどうでも良い情報を知る。
その後、連れ去られた先で、僕はもっとどうでも良い二人の昔話に付き合わされたのであった。
>23
ボスがフリフリのドレスで仕事している。
大量破壊兵器だ。核爆弾より瞬間火力あるんじゃないだろうか。
「ぼ、ボス……何でそんな面白おかしいかっこーしてんすか?」
リヴィが恐る恐る問いかける。ラインハルトさんですら沈黙してるのに、勇者だお前。
ボスの方は困っていたらしく、「よくぞ聞いてくれた!」と抱き着いた。
酷い絵面だ。
「いつも存在自体がネタのラインハルトが横に居るだろう?」
「あの人は卑怯だと思います!」
「最近はフォルトゥナも居る」
「あいつラインハルトさんと同類ですよね! 親子ですかね!」
僕は両親そっくりで血筋に疑いは無い。顔も似てない。
二親等で無ければワンチャンあるのは怖いが。
「不死身故の命知らずネタも強い!」
「俺わざと自爆してるわけじゃないです、ふざけて沼に飛び込んだらいつも底無し沼なだけです!」
「天然ボケでは太刀打ち出来ないんだっ……!」
「計算されたボケに天然ぶち込んでる姿しか知らないんですけど!? 後アンタ割と素でおかしい!」
「だがっ……あのサディストサイコパスヤンデレ親子には勝てんのだよっ……!」
「あれは勝ったら人間辞めてるレベルなんで大丈夫ですよボス!」
散々な言い様である。
何故かラインハルトさんは固まっている。
「アンタ等その腹黒サイコ電波父子横に居る事忘れてないか!?」
「勿論計算済みだ!」
「くっ、物理的に突っ込んで手伝ってやりたいが、ラインハルトさんに殺されるっ……」
「邪気眼のノリで右腕押さえながら言うの止めろ!」
じゃれ合う内、ようやくラインハルトさんが起動するのが見えた。
彼は必死な様子でボスの肩を掴む。
「すまない、君がそんなに思い悩んでいたとはっ……こうなったら僕が毎日モノボケのネタを提供しよう!」
「いや、自分でやれるから良い」
「ならばこの二人を排除だ!」
「ぎゃー、すぐ殺して解決しようとすんの止めましょう参謀殿ぉ!?」
さっくりリヴィが腹パンで落とされる。
ボスは羨ましそうに指を咥えて見ている。比喩じゃなくマジで。いややっぱその容姿卑怯だ。
「ぶりっ子するだけで面白いんで自信持って良いですよボス!」
「そうだ! どんな格好してても僕には可愛いけどな!」
「本音は?」
「正直遂にストレスで頭おかしくなったのかと思った」
「正直で宜しい」
だって女装してる時カメラ取り出さないし。
リヴィを引き摺って退散する。
ボスが人体改造してみようか、とボケの為に体張り過ぎた事を言っていたのは聞かなかった事にした。
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見知った誰かに似た美人が、僕の前に立っている。
屈んでにっこり上目遣いに笑う姿は凄く可愛い。
だがリヴィだ。
「何やってんだ先輩。似合い過ぎてボケになってないぞ!」
「そーなんだよなぁ。本気出し過ぎて、あんまり可愛くなったから男誘惑しながら来たわ」
「ほんとに何やってんだアンタ!!?」
声は男だが、仕草が完璧なのでくらっと来る。
思えばアホの子だから、子供っぽい、つまり可愛い動作は通常運転なのである。
黙ってれば顔立ちも綺麗だ。
「ふつーに危険物ですね。ノンケをホモにしそうな可愛さで、路地裏に連れ込まれてケツ掘られろこの糞野郎」
「お前俺に恨みでもあんの!?」
「あります! こんだけ女装して可愛いとか悔しいです、今度僕とどっちが男誑かせるか勝負しましょう!」
「お前妲己にでも憧れてんの!? どこ行ってんだよ捕捉出来ねぇよ!」
不意にやって来たラインハルトさんがリヴィの肩に手を置く。
凄く良い笑顔だ。リヴィの顔が引きつる。
「リヴィ、中々やるじゃないか。僕とも勝負しないか?」
「だからアンタ等全速力でどこに向かってんすか!? 俺を荷馬車に乗せて拉致ろうとすんの止めてくれます!?」
「遠慮するな、お前なら玉藻目指せるぞ! 僕が手伝ってやろう」
「やだー! どこに出荷する気なんですかー! 俺お金要らないんで腕っ節で勝負させて下さい!」
「お前は油断多過ぎで弱いから、色仕掛けの方が向いてると思うぞ?」
「何かもう色々酷い!」
リヴィは涙目だったが、個人的に褒められまくって悔しいのでフォローしない。
男として向かってる方向性がおかしいのは考えたら負けだ。
気付いたらボスが仲間になりたそうにこちらを見ている。
「こっち見んな」
「君はゲイに需要ありそうだから大丈夫だよ!」
「それはそれで酷いです参謀」
ボスのご立派な体格と厳つい顔を見る。ゲイが好きそうな感じだ。天然を足してギャップ萌えも完備!
何でゲイの好みが分かるんだろうと我に返ったが、そっと脳の奥底にそれを封印しておいた。
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「うーん……やっぱりうちの子可愛い……」
「僕です寝て下さいラインハルトさん!」
5徹目でラインハルトさんの狂気が大安売りされ始めた。
幻覚とか見ててもはや使い道が無い。かと言ってこのジジイ、昏倒させるのは至難の業である。
「誰か来て! ボス! この人何とか倒して!」
「待ってくれ、珈琲と睡眠薬取ってくる」
「起こしたいのか眠らせたいのかどっちだよ! ココアか苺ミルクにしましょう!」
「君も嫌がらせに余念が無いな!」
ぐっと親指を立ててボスが去っていく。何だこの戦友感。
ラインハルトさんは僕に抱き着いて離してくれない。細いが重量感があって、正直キツイ。もっと体脂肪率上げて欲しい。
「えへへ、やっぱりちっちゃくて可愛いなぁ。よしよし」
「ボスはちっちゃくないですよ、寧ろ全体的に人の1.5倍はあります!」
「子供なのに真っ直ぐで強かで狂ってるからいーんだよぉ……協力し甲斐があって」
「全面的に台詞がおかしいんですけど! それ本音ですよね何それ怖い!」
普段からSAN値0の男は格が違った。僕も他人の事は言えないが。
「おっきくなったって実感無いなぁ、あんなにちっちゃかったのに」
「くっ、見た目追い越されてるのに完全にジジイとか親の感じだこれ! でも現実見ましょうラインハルトさん!」
「飴大好きだろー、あげるー」
「頂きます!」
「あ、短パンと半袖着てみない? 昔の服ちゃんと保管してるからさー」
「絶対大きさ合わないですし今その格好したらただのゲイホイホイです!」
そろそろ潰れそうになって来た所で、ようやくボスが帰ってくる。
顔を上げたら、物凄い勢いで腕が迫ってくるのが見えた。
僕の頭上に乗っている顔は、恐ろしい事に微動だにしていない。ただし、コップが口から生えている。
中身の色はピンクだ。苺ミルクだろう。凄まじく嫌そうな顔で彼はそれを飲み干す。
「やだなぁ、僕を眠らせてどうするつもり? いけない事するんでしょー、エロ同人誌みたいに!」
飲み損ねた分が口から出ている。この人の場合確信犯の気がする。駄目だこいつ色々と。
「この状態でまだ計算してないですかこの人」
「計算した結果がこれなのが色々と悲惨だが、まだ頭が回っているな、半分ぐらい」
一体どこに向かってるんだよこの人。セクハラ親父かよ。セクハラジジイだった。
「お持ち帰りするから後は頼んだぞ、少年!」
「そっちの意味に勘違いさせとけって事ですね分かりましたボス!」
「いやそれはや、う、いやだがしかし」
「何うちの子困らせてくれてんだ、殺すぞ糞餓鬼」
「へーじょー運転ですね参謀! ってしません、しませんから撃たないで!」
何とか撃たれるのを避け、彼に睨まれながら二人を見送った。
次に顔を合わせた時、飴を貰い、短パンと半袖を着せられそうになった。どこまで覚えてるんだろと怖くなったがお口チャックしておいた。




