16~20話
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「私この人と付き合う事にしたから。邪魔したら殺す」
そう言って妹がつれて来たのは、細身だがムキムキで柄の悪い、男……にしか見えない女だった。
立派な大胸筋ですね。柔らかそう。あはは。
「って何でそうなった! せめて男にしよう!? お兄ちゃんが悪かったから!」
「アンタも関係あるけど、私の運が死んでるからだから。まともな友人すら作れないし」
彼女の諦観に満ちた表情で、僕は悟った。
害虫駆除すりゃ守れるって物でもない。
「この人は悪い人じゃないの。そんな相手、次に見つかった時はおばちゃんになってるか死んでるわ!」
「うん御免その通りだ……。だけどそれと女に走るのは微妙に違うよな!?」
ちらと女を見る。男前だ。顔にバーサーカーって書いてある。
筋肉を削ぎ落とし、意識を朦朧とさせておけば美しいだろう。しかしどう足掻いても本性は野獣だった。
「えっと……お前の良い奴の基準も分かんないけど……」
「善人とは言ってないわ」
「あぁ、そうだな。俺は気に入らねぇ物はぶっ飛ばして欲しい物はこの手で手に入れる。邪魔する奴は、」
女の拳が胸を突く。鉄のように固い、戦士の手だ。
「全員ぶっ飛ばす。さぁ、ぶっ飛ばされてぇか服従するか選べ」
妹はうっとりとした顔をしている。
強引な男好きな女って多いよね。こいつ女だけど。
「やっぱろくでもない奴じゃないか!」
「えぇ、ろくでもないわ。でもかっこいいし私を裏切らないし強いの」
「ろくでもねぇって事は、殴り飛ばされたいって事か」
女が僕に迫る。認めたくはないが、正面突破では勝てない。
この場は凌ぐ他あるまい。
「こ、こいつを絶対愛して守るって誓うなら……」
は、と女が鼻で笑う。
「んなもん当たり前だろ、俺のもんに手ぇ出させるか! 誓うぞ、男に二言はねぇ!」
「女ですよね!?」
とは言え無事に切り抜けられた。
後で策を考えよう、と思っていたら、妹が僕の方にやってくる。
「私だっていつまでもやられっ放しじゃないんだからね」
手を掴まれた。次の瞬間、扉が物凄い勢いで遠ざかる。投げられた、それも易々と!
泣きそう。
「うおぉっ!?」
真後ろで女の悲鳴が上がる。彼女は僕に覆い被さる。
爆音が体の上から響く。
「えっ、何?」
這い出ると、硝子が散らばっていた。
窓が割れている。女の背には焼きこげた痕跡があった。
「おま、俺を殺す気かぁ!?」
「貴方なら大丈夫でしょ。巻き込まれて糞兄貴だけ死んでくれれば良かったのに」
「どゆ事!? 何で僕投げたの!?」
妹は平然としている。好きな相手にも辛辣な所は僕そっくりだ。
「その人不幸体質だから」
「よしやっぱ排除しよう」
僕は脱兎の如く逃げ出す。
絶対あの危険物妹から引き剥がそう、と心に決めて。
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「僕シスコンヤンデレキャラで行こうかなーって思ってるんですけど」
「君は素で面白いから無理にキャラ作らなくて良いんだよ?」
「どっちみち平常運転です」
ラインハルトさんの珈琲に砂糖を次々投げ込む。溶けなくなった所で止めた。
ちなみに彼は甘いものが嫌いだ。
僕の食べているアイスは彼の作った物だが、カレーがたっぷり混ぜ込んである。
僕はカレーが嫌いだ。
そんな楽しいやり取りを、残りの二人は難しい顔で見ている。
「俺悪戯大好きだけど、お前ら程息をするようにふざけらんねーよぉー!」
「分かるぞ。私もボケを考えている内に、何が面白いのか分からなくて哲学を始めてしまう」
「アンタ頭回るから良いじゃん! 俺はけっこー体張ってんだからな! 楽しいけど!」
リヴィがボスの額に第三の目を描き始める。恐らく油性ペンだ。
「世界の成り立ちからどうして重力がこの世に存在するのかまで色々考えてしまってな」
「何でそんな禅問答に至ったの!? 解脱目指してんの!?」
クオリティの高い目が出来上がった。
リヴィはラインハルトさんの突っ込みを待っている。が、彼は質の高さに対応しかねていた。
頭を抱えるリヴィ。これだけでも割と愉快だが、当人は真剣だ。
「ボスが裸エプロンで愛妻料理振る舞ってくれたら何か思いつくかも知れないです!」
「すまない、流石に犯罪者にはなりたくないんだ」
「さらっと僕が露出狂の痴漢魔だって言ってないかいそれ」
「え、アンタナルシストだから見せつけたいのかとばかり」
すっとラインハルトさんが立ち上がり、ガムテープを手に取る。
それをリヴィの鼻と口に巻いた。
「上手にボケられましたー」
僕は拍手をする。ボスが興味津々と言った様子でリヴィを見ている。
「体張ったボケがしてみたいんだが」
「地雷に地雷を踏む事は出来ないと思うんです……」
「歩く地雷原だから地雷で吹っ飛ぶ為の足はあるぞ!」
「足は地雷にぶっ飛ばされる為にある物じゃないですよ!?」
ガムテープが剥がされる。リヴィが死にかけていた。
その後、ガムテープを持ってラインハルトさんを追い回す勇者の姿を目撃した。
でも勇気と蛮勇って違うと思うの。面白いから忠告はしなかった。
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ナイフ良し。コート良し。標的は僕に気付いていない。
物陰から一気に駆け抜け、刃を振るう。
振りかざす前に、腕が飛んでくる。激痛。僕はバックステップで距離を取る。
「おぅ、やっぱり来やがったな、ヤンデレ兄」
「いってぇ!? 糞ぅ、義兄の腕折るかね普通!」
「義妹の命狙う義兄は居ねぇよ。そして加減は間違った!」
「あれ優しい!? 有難う!」
礼を言いつつ、毒ナイフを投げる。
10発全て受け止められた。
「うむ、案外修行になる」
「ぐふっ、人としての器も戦闘能力も負けているっ……だが妹を人間辞めてる疫病神に渡すわけにはいかん!」
「ふははっ、ならば力尽くで奪うまでよぉっ!」
僕はコートを投げる。
敵は舌打ちしながら、迫るそれを振り払う。
「きゃー、助けてぇ、襲われるぅ!」
そして女装している男を呆然と見た。僕は咄嗟に俯く。
走ってこっちに迫ってくる足音が聞こえる。
「……イシュター?」
妹の靴が見えた。
「テュ、テュケ……? あああ、いや待て違う、これはだな!」
「この浮気者、ビッチ、アバズレ、疫病神! やっぱり私を裏切るのね!?」
「いや待て待て待て、他の奴とは別れただろぉ!? っていうかこいつお前の兄、って居ない!?」
怒っている内に僕は物陰まで逃げ戻っていた。
予想通り早速尻に敷かれているようだ。勝った。
……ちなみに、ヤンデレはうちの一族の遺伝病である。
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「その腕どしたん」
「折れた」
「見りゃ分かる」
「妹の恋人を暗殺し損ねた……」
「おーい、誰かボス呼んできて。ここに下種野郎が居まーす」
流石に反論出来ず、押し黙る。
「お前妹を幸せにする気あんの?」
「僕と居るのが一番幸せに決まってる!」
「あかんこいつ」
リヴィは常識人だ。アホで精神年齢5歳なだけで。
「うぅ……別に僕だってこんな妹に嫌われる事したいわけじゃないんだ。でもあいつの周り、ろくな人間が寄って来ないから……」
「お前とかお前とかお前とか?」
「僕とか僕とか僕とかな!」
「お前の確信犯っぷり何なの!? あ、そういやお前」
「努力はした、でもな! サディストもヤンデレも治る病気じゃないの!」
「うわぁあこいつ最低だぁぁ!!?」
だって性格も性癖も変えられないもん。
言い訳して僕は、今日も妹を追っかけ回すのである。
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最悪の気分だった。
眼前にボスと参謀殿。右手に妹、左手に義妹。
今の内に神に祈っとこう。信じてないけど。
「仕事の話はここらにして。君はこのヤンデレ兄に悩まされてるんだっけ?」
笑顔でラインハルトさんが聞くが、目が笑っていない。
ボスは潔癖だ。我欲で人を害する人間が、うっかり暗殺してしまうぐらい嫌いである。
そして僕はそっちのタイプだ。
「幸運悪用して私の周りの人自滅させちゃうんで。でも私の周りろくな人間居ないんで、詐欺師とか殺人鬼とか消してくれて助かってはいますよ」
「まさかのデレ!?」
「サディストでサイコでヤンデレなので、さっさと無間地獄に落ちて人類滅亡まで出てこないで居てくれると良いんですけど」
「あっ、違うこれ防犯道具扱いだ! しかも好感度が負の方向にオーバーフローしてる!」
「ほんと厄介な呪いの装備ですよ」
茶化してくれるだけ良心的だ。だって下手な事言ったら殺すって顔に書いてる人が居るし。目の前に。
「邪魔なら処分してあげようか?」
「良いです私のせいで死ぬとか絶対嫌です! こいつの事はスッパリ忘れたいので罪悪感0の方法でお願いします!」
「そうか、兄と違って手を汚す事に罪悪感があるか。何でこんなまともに育ったんだ?」
「こっち見るの止めて下さいよ僕が聞きたいです! マジで!」
あ、でも、と横の義妹を見る。
疲れ気味で静かな彼女の肩に手を回す。不思議そうだ。顔だけ切り取るとちょっと可愛い。
折れた腕が捻られた。
「ぐおおぉおおおっ!?」
「何私の物に手ぇ出してんだ糞兄貴! イシュターも何よ! 男の手なんて振り払いなさいよ!」
「えぇぇ、これ普通のスキンシップだろぉ!? お前の許容ラインどこ!?」
「もう閉じ込めて私だけの物にする! 誰にも触れさせない!」
「いやそれは止めて!」
リヴィ顔負けに体を張ったボケ兼保身行為に、ラインハルトさんがニコニコしている。
ほんとこの人サディストだな! ボスはオロオロしてるぞ! あ、それも楽しんでる。
「成程、そっくりだ」
「そっくりじゃないです!」
「そっくりだよてめぇら! うぐぉ、ちょっ、ナイフは止めろナイフは」
「心中してやるー!」
このヤンデレと付き合ったらそりゃあ疲れるよなぁ、と同情する。
認めてやっても良いかも知れない。でも僕より好かれてるのが気に入らないので、やっぱり殺そうと思い直した。
殺されるぐらい愛されたいです。




