教えて下さい、お兄様。
「私はもう子供じゃないんですよ」
真っ赤になった私の顔を見てお兄様は悪戯な笑顔を見せる。お父様やお母様の前ではきりっとした次期当主らしいたち振る舞いのお兄様も私の前ではこんなに無邪気な年相応の姿を見せるのだ。お兄様はどんな我儘をいってもいつも許してくれ優しかった。
「お兄様、私魔術を勉強したいです
素敵な魔術師になってお兄様の役に立ちたい」
「どんな心変わりだ。今までアリスはドレスや宝石にしか興味がなかっただろう」
お兄様本音がででいます。
びっくりしたようにお兄様は目を見開き私の瞳をじっと見つめる。
それもそうだ。今身につけているこのドレスは魔力洗礼が怖くて、お母様に我儘をいってて買っていただいた流行のフリルがついたピンクのドレスだ。銀色の髪の中で揺れるお気に入りの髪飾りには小さな宝石がついていて、これも我儘をいって買っていただいたものだ。でも、私にとってはそんなものもうどうでもよかった。
私は本気です。どんなお洒落なドレスよりも魔術が勉強したいのです。絶対に魔術を身につけるのだから。
「アリスが望むのならば教えてあげたいのは山々なんだけど、僕は来週には学園に戻らないといけない。また授業が始まるからね。」
「そんなぁ」
「アリスが本気で魔術を勉強したいなら家庭教師を雇った方がいい。僕が教えるよりもっとわかりやすく本格的な指導を受けられる。やっぱりそのお願いは僕ではない父上に頼んでみた方がいいかもしれないよ」
「駄目なの、お父様は女の子が魔術を勉強するなんてそんな危ない事には絶対に反対するわ。お父様は守られるようなか弱く可愛いお嬢様を望んでいるから。
でもねどうしても私は魔術が勉強したいの」
そう、どうしても魔術を勉強したかった。
魔術が使えれば誰かに迷惑をかけないそんな生活をおくれると思った。我儘もやめて、誰かに迷惑をかけず努力をしなければいけない。変らなければならない。何も努力をしなければこの先、私のせいでとても悲しいことが起きる。起きてしまう。あの夢は私にそう強く感じさせた。
うーんと困ったように悩んでいるお兄様。本当に困らせてごめんなさい。でももうひと押し。
「このことは私とお兄様2人だけの秘密です
お願いです、お兄様」
「わかったよ。でも努力は必要だよ。
僕が今まで使っていた本を全部あげよう。
基本的なことは全部教えてあげられるだろう。
あとは本をみてひとりで勉強することになってしまうだろうけれど、頑張るんだよ」
「本当、ありがとうお兄様」
「でもね、ひとりでは無理だって思ったなら父上に相談するんだ。アリスが心こめてお願いしたのならば父上もわかってくれるだろう。
あの方は僕と違ってアリスを溺愛しているからね」
「私できればすぐにでも魔術を勉強したいんです」
「でもアリスは病み上がりだろう
明日からでもいいんじゃないか」
「いいえ、今日からがいいんです」
しょうがないなぁそういってお兄様はパチンと指をならす。そして現れたのは数冊の魔道書と白い蕾がついた小さな鉢植え。
「セレスティア家は魔術に長けている血筋だからアリスもこれくらいは簡単につかえるようになるよ」
この世界で魔術を使える魔術師は人口の約四分の一だといわれている。魔術師には平民が出身がいないわけではないが、貴族の家柄の者がほとんど。それなのにもお兄様はこの11歳という年齢で無詠唱で箱魔法を使えている。
さすがお兄様。なんて素敵なの。
「まずはこの鉢植えに魔力を流し込んで、お腹から魔力を全身に血液のように循環させるんだ」
「わかりました…うーん、むずかしい」
お腹が微かにあたたかいのはわかる。
それを血液みたいに循環って。
あたたかい何かはさらさらと流れてはいかない。ドロドロとしていて血液というよりはなんだかスライムみたい。ううん気持ち悪い。
それでもドロドロをお腹から手の先に流れ込ませていく。指の先までドロドロが流れた瞬間何かがどろりと外へ溢れ出す。するとたちまち鉢植えは光を発して白かった蕾は黒くなり大きな花を咲かした。
「これはめずらしい初めて見たよ
アリスは回復系闇属性が得意なんだね。」
「ん、どういうことです」
「この鉢植えは特殊な魔法陣が組み込まれているんだ。学園では絶対に使わないような魔法陣がね。一般的に学園では入学してすぐに自分が何属性が得意なのか属性の魔力量を使って判断する。
でもこの鉢植えは魔力の質で得意な属性を判断するんだ。まだ魔力量が少ないアリスにはこっちの方法の方が向いている。魔力の量はこれからもっと成長していくけれど、質は変らないからね。劣化はするけど向上はしないから。
結果的にこの鉢植えを使って良かった。基本属性とは違う特殊属性の闇属性は初期の魔力量が少ないから、学園の検査では認識されない場合も多いからね。」
そういってお兄様は大きな花を咲かせた鉢植えに触れ、魔力を流し込む。鉢植えは私も時とは少し違う黒色の光を放つ。光に包まれながら私が咲かせた大きな花は静かに枯れて、そして燃えていった。
「お兄様の反応は私の時とは違いますね
お兄様は何属性なんですか」
「僕が得意なのは攻撃性闇魔法と攻撃性火属性だ」
「私、回復系ではなくて攻撃系がよかったです」
「そんなことはないよ、闇属性はもともと希少だけれど、その裏系統である回復系はもっと希少だ。僕も初めてみたくらいだからね」
「ちょっと待って下さい、裏系統ってなんなんですか」
「そうだなぁ」
お兄様は先程取り出した魔道書の中から一冊を選び、ぺらぺらとページをめくる。
「詳しくはこの本をみた方がわかりやすいけれど、簡単に説明しようか。
属性には基本属性が4つ。加えて特殊属性と無属性がある。
基本属性の火水風地。そして特殊属性の光と闇。
これはもともと持っている人が少なく希少だ。僕の知っている中でも有している人は2人しか知らない。反対に無属性は魔力を有している人はみんな使える。
属性は主系統と裏系統があって攻撃か回復に特化している。
火と闇は攻撃。水と光は回復。風と地は特化はしていないけれどどちらも使える。
裏系統は持っている人も少ないから魔術の種類は少ない。けれどもどの魔術も主系統のものとは比にならないくらいの効果を持っているんだ。
それに闇属性をアリスは持っているんだから攻撃性の闇魔法が使えないわけではないよ。回復系に特化しているだけで攻撃性の魔力がないわけではないんだ。だたし使うためにはものすごい努力ともともとの素質が必要でほとんど不可能だといわれている。
とりあえず僕は回復系闇魔法を使えといわれても絶対に無理、まず素質がない。闇と火を持っていてかなり魔力が攻撃性に特化しているからね」
「でも使えない訳じゃないのですね」
「まぁ理論上はそうだけどここ50年くらい得意系統じゃない系統の発動を成功させた魔術師はいないよ。それに成功させた魔術師は水と地属性を持っていて、発動させた水属性攻撃魔法は初級程度のものだったと記録されているんだ」
残念そうな顔をする私に対してでもまぁ努力はいけないわけではないね、そうお兄様は呟くと魔道書と鉢植えを指ぱっちんで箱の中へと戻す。その数秒後こんこんっと扉の叩かれる音がした。
「オズウェル様、アリシアお嬢様。夕食の準備が整いました。旦那様と奥様がお待ちしております。」
「残念なことに続きはまた明日だ 。明日は無属性を勉強しようか。魔道書はアリスが箱魔法を使えるようになったら渡すよ。それまでお預けだね」
「ひどいわ、お兄様、でも私がんばるわ」
可能性が0でないのならば努力をすればいい
私はどんなに辛いことにも耐えられる
私はいくらでも頑張れる、そう思えた。
大丈夫、あんな恐ろしい未来になんて絶対にさせない。
絶対にならない。
私は幸せを求めたりなんてしないから
「やはりこんなときでもあの人たちは
子供の心配ひとつしないの、か」
主に説明回。
青じそドレッシングお気に入りです。