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天使も悪魔もおことわりっ!  作者: 真城こより
第一章 我儘令嬢と恐ろしい夢
2/7

それは私の罪だった。

 



 七歳の誕生日


私の世界はその日がらりと色を変えた。





 ピンクのドレスを着て昨年の誕生日に頂いたお気に入りの髪飾りをつけて、大好きなお兄様に手を握ってもらって、それでも私は恐怖怯えていた。


 魔術師のひとつの通行儀礼でもある魔力洗礼。魔力の流れが似ている親族が子供に魔力を注ぐことで、魔傷を受けさせ魔力を解放する大切な儀式。それは貴族社会の中では七歳が成人という古いしきたりがある為、いくつか例外はあるが大抵は七歳の誕生日にこの儀式がおこなわれる。

 そしてそれは大貴族セレスティア家の娘である私も例外ではなく、いくら嫌だと泣きわめいてお父様に我儘をいっても儀式への準備は静かに進んでいった。



 少しは私が安心できるだろうと儀式で魔傷をつける役目はお兄様が引き受けてくださることになった。

 涙目になり訴える私に対して大丈夫だよ、優しくそう言ってお兄様の細く長い指が静かに私の額に触れる。同時にいままでからっぽだった私の身体にお兄様の魔力が、おひさまのようにぽかぽかと流れてゆく。


あぁなんて優しくてあたたかい。




 一種の怪我である魔傷への恐怖でいっぱいだった私の身体からは、だんだんと緊張感が消えゆく。大丈夫、なにも怖いことはない。力んだ身体からふぅーと気が抜けた瞬間。



私の中で何かが破裂した。



 苦しくなっていく呼吸。身体の痛みと熱さ。

 まるで火炙りにされているみたいだ。

 呼吸が乱れ、酸素が足りなくなっていく。

 あれ、今までどうやって息をしていたっけ。

 わからない。苦しい。薄くなっていく私の世界。

 遠くでお兄様の声が聞こえる。


 こわいよ、こわいよ。

 だからね、ぎゅっとして、私をはなさないで。






◆◇◆◇◆◇





「おにぃさ、ま」

「アリス、アリス。大丈夫か」



 覚醒したその世界で私はお兄様の腕の中にいた。

 私の部屋のふかふかのベットの上でお兄様の腕の中で眠っていたのだ。



「おにぃさま…わたし、わたし、本当にごめんなさい。わたしお兄様にひどいことをしたわ。それもあんなにたくさん。わたし、これからもっとがんばるから、がんばるから。だから、ゆるして。」



 お兄様の顔を見た瞬間、涙が零れ落ちた。それもまるでダムが決壊してしまったようにぽろぽろと。そして謝罪の言葉が止まらなかった。お兄様の顔が、その瞳が私を離さないのだ。あの優しくて大好きなエメラルド色の瞳が、私を怨んで憎んでいるようにこちらをじっと見つめるのだ。次々に流れ落ちる涙は止まることのない。


 頑張るって決めたのに

 私はなんにも変われてない




「アリシア様大丈夫でしょうか、なにか温かいものでもお持ちしましょうか」



 近くで控えていたメイドが柔らかなそして機械の様な声で問いかける。


 その声にゆっくりと首を振って答える。その間も私の涙は止まることなく流れ落ちる。生理的に流れ落ちるその涙は、いくら止めようとしても止まらないのだ。



「悪いが少しの間私とアリシアの

 ふたりきりにしてくれないか」


「かしこまりました」



 お兄様は控えていたメイドにそう告げると、ぽんぽんと赤子をあやすように私の背中を優しく叩く。



「夢の中でたくさん怖い思いをしたんだね

 大丈夫、お兄様はここにいるよ」



 先程メイドに放った冷たい声ではない、お兄様の優しく温かい声がすとんと私の中に落ちていく。




  「とてもとても怖い夢をみました

 でもどんな夢だったかは覚えていないけれど

 それはとっても寂しくて、とっても悲しい

 そんな恐ろしい夢」



「どんなに怖いことがあっても大丈夫だよ

 アリスは唯一の僕の妹だ

 アリスが恐れることは全部僕が取り去ってあげる

 守ってあげる、だからもう安心していいよ」




 そんななだめるような声を聞いて、無意識にたどたどしく、それでも言葉を紡いでいた。涙で過呼吸になりかけていた呼吸もだんだんと落ちついてくる。そんな私を見てお兄様は静かに笑った。




 優しくて、そして触たら壊れてしまいそうな笑顔


 いつもそう


 私が泣くとお兄様は悲しそうな笑顔を浮かべるのですね





「どれくらい気を失っていたのでしょうか」


「ほんの15分くらいだね」


「そんなに。私のせいで腕が疲れてしまったのでは。私なんて床においてもかまわなかったのに」


「それは無理な話だね。可愛い妹を床に置くなんて言語道断だし、それにねほら」



 お兄様はエメラルド色の瞳を細めくすりと笑い、そっと視線を下へ下げる。その視線の先にあるのは、私の手。頬がかああっと赤くなっていくのを感じる。


 私の手はぎゅっとお兄様の服の裾を掴んでいたのだ。




「どうしたんだ、アリス

顔がリンゴみたいに真っ赤になっているよ」


「お兄様の馬鹿、このいじわる」










気を失っていたの間のことは何も覚えてはいなかった。


あれは夢だったのだろうか。

どんな夢だったかもわからない。


夢は私に訴える。

今のままでは駄目なんだと、私は変わらないといけない、そう私の心へ訴えた。


夢は恐ろしいものだった。

寂しくって悲しくってとても恐ろしい、

そんな夢だった。


夢の中で唯一確かに覚えていたのは

とても深くて酷い、

もう戻ることのできない後悔と嫉妬。







―――全てはアリシア・セレスティア、お前のせいだ



誰かが言った。








あの夢は、きっと私の罪なのだ。











初投稿です。感想もらえたら嬉しいです。

うーん、ざらめせんべい美味しい。

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