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~6.冥竜VS警備隊~

現場に着くとすでに冥竜と警備隊が交戦をしていた。

それにもかかわらず状況が思っている以上に酷いことになっていた。

現在見る限りでこちらの警備隊は何人か負傷していて戦線を離脱している。

現状では全体の約六割程しか戦えるものは残っていないだろう。 

対する相手は冥竜一頭のみ。

それなのに相手を後退をさせるどころか、傷一つ負わせられていないのだ。

(一体どういうことなの?)

この国の警備隊は決して弱くはない。

ほとんどの警備隊のレベルは5であり、世界でも一握りしかいないレベル6も三名ほど在籍している。なのに最上級の種族とはいえたった一頭相手にまるで歯が立たない。

普通に考えても信じられない光景だ。

「ウィン様。どうしてここに?危険です、下がってください!」

警備隊の一人、ルヴィナ・トワイライト副隊長が近くまで駆けてきた。

「そんなことは承知しているわルヴィナ。状況はどうなの?」

「わたくし達で喰い止められますから、ウィン様は…」

「本当のことを言いなさい!状況はどうなっているの?」

ルヴィナは私のことを心配をしてくれて避難を促してくれた。

そのことは嬉しいのだが、わたしは言うことは聞かなかった。

初めは沈黙していたルヴィナもわたしの気持ちが伝わったのか、正直に今の状況を話してくれた。

「…はっきり言ってかなり不利です。今のままではおそらく長くは持たないでしょう。」

「本当なの?あなたほどの魔技使いがいるのに。」

そうなのだ。ルヴィナはレベル6の魔技使いである。

攻撃、防御、回復の魔技レソナは高位の魔技レソナを扱うことが可能で、高い総合力を持っている。

特に彼女の魔武具アクシィリから放たれる魔技「アルテミス」は、飛距離、威力ともにトップクラスで、その姿からルヴィアは別名「金色の狩人」と呼ばれている。

「わたくしも先程から攻撃しているのですが…命中する前に打ち消されてしまうのです。」

「なんですって!」

「どうやら冥竜が手をかざした際に魔技レソナを無効化する防御壁が生成されるみたいです。その防御壁はかなり強力で、わたくしの魔技レソナばかりか警備隊全ての魔技レソナが無効化され通用しません。さらにその状態で近距離で攻撃しようと急激に身体が重くなり動けなくなります…その隙をついて何人もの同胞が餌食に…」

「そんな…まさか…」

わたしの中に一つの仮説が生まれた。

…それが正しければおそらく今回の襲撃は最悪のケースだろう。

「なんとか命は取り留めていますが、フィジが破壊されてしまっているので…もう警備隊に戻ることは出来ないでしょう…」

そういったルヴィアは唇をかみ締めていた。

副隊長としても個人としても仲間を失うことは耐えられない苦痛だろう。

「そうですか。辛かったわね」

わたしはルヴィアの肩に手を置いた。彼女は震える手を私の手に重ねた。

「…もったいないお言葉です。」

一度ルヴィアに笑顔を見せると、再び冥竜をにらみつけた。

ルヴィナの話を聞いてわたしの中に一つの結論が出た。

…それが正しければおそらく今回は最悪のケースだろう。

わたしは誰にも気づかれないように震える足に無理やり力を入れる。

「ルヴィア。残りの部隊の半分を逃げ遅れた民の救助と、避難場所の防衛に回しなさい。残りの部隊はわたしと一緒にふたたび迎撃に向かうわよ!」

「お、お待ちください!ウィン様を向かわせることなど出来ません。」

「これは命令よ。」

「しかし…」

「わたし、ウィンヒール・アロウントはここに住むすべての民を護る義務があるのよ!」

「……。わかりました。でもわたくしもお供いたします。」

「ええ、頼むわ。」

そう告げるとルヴィアは半分の部隊を救助と護衛にまわし、残りの部隊を集めはじめた。

わたしは右手に意識を集中させると、一筋の白い光が生まれた。

それを握るとともに白い光は飛散し、中から棒状の杖が出現した。

これがわたしの魔武具アクシィリ…聖杖「エムブラッセ」。アロウント家に伝わる由緒ある純白の杖。

召喚に成功した矢先に冥竜の口から黒い火球が撃ちだされた。

その温度はかなり高温で火球の周りの空間は熱せられ陽炎のように空間が歪んで見える。

「危ない!」

わたしはとっさにエムグラッセを構えて、崩れていた建物を移動させ衝突させた。

幸いにも被害はでなかったが、その火球の威力は凄まじくぶつけた建物は一瞬にして炭と化した。

(す、すごい熱量…直撃したらひとたまりもないわ)

わたしはその威力に衝撃を受けた。こいつをこのままにしたら危ない!

その間に体勢を整えることが出来たらしく、ルヴィアは手を上に挙げた。

それを見たわたしは反撃を開始することにした。

「今度はこっちの番よ!」

わたしは始源ナチュレを集めて得た力をエムグラッセに注ぎ込む。すると先端に緑色の光ができ、どんどん膨れ上がっていく。

そして充分に膨れたところでエムグラッセを両手に構え標準をあわせる。

「喰らいなさい!」

わたしは拳銃のように冥竜に打つと、一筋の光となって飛んでいく。

対して冥竜は片手を前に出した。どうやら打ち消す気なのだろう。

「甘いわ!」

その行動を待っていたわたしは、エムグラッセを天に掲げる。

すると光も上へ上昇し、冥竜の頭上に来ると無数に分散して一気に降り注ぐ。

グオォォォ!

初めて冥竜に攻撃が命中し苦痛の表情をあげている。思っていたよりも威力が高かったのが思わず地面に手をついた。

「おおっ!」

その光景に警備隊は歓喜し一気に士気があがった…いまがチャンス。

「いまだ、放て!」

ルヴィアも同じ事を感じたらしくこの機を逃すまいと、一斉攻撃を仕掛けた。

連続攻撃に冥竜はとっさに翼で体を覆った。

しかしダメージは受けているようで、徐々に後退している。

「いくわよ!」

ルヴィアも自分の弓を構え、光の矢、「アルテミス」を放った。

加速するにつれて光は大きくなり、着弾するころにはわたしよりも数倍も大きい光となって冥竜の腹部を捉える。

その威力はさすがレベル6、冥竜も耐え切れず大きな体が数メートルも後方へ飛んだ。

(このまま押し切れれば…いけるわ!)

連続攻撃は終わることなく続いている。

この調子なら致命傷を与えて相手を転送させられる。

わたしたちは勝利を確信した。

…しかし、恐れていたことがおこった。

なんと今まであたっていた攻撃が急に冥竜にあたる直前で消滅したのだ。

「う、うそ…」

わたしは嫌な予感を払拭するかのように先程と同じように、光線を放った。

次はなんと手で防御することもしなかった。

「くっ!」

今度は中央から分散させ、無数の矢の如く冥竜を襲う。

しかし、指一つ動かすことなく全ての光線はかき消されてしまった。

「ま、まさか魔技レソナを…空間ごと無効に出来るなんて…」

わたし達はその現実を目の当たりにして攻撃を止めた。止めざるをえなくなった。

はっきりいって魔技レソナが通用しないのなら勝ち目が無い。

あの圧倒的な体格差ではとてもじゃないが善戦ことさえできないだろう。

さらにこの現象で最悪の事態であることも同時にわかった。

「あの冥竜は…悪魔の宝石、フィジレスを持っているわ…」

「そ、そんな…」

この事実はルヴィアをはじめ警備隊みんなにとってあまりに衝撃的過ぎた。

それもそのはず…この状況はまさに三年前の事件の再現だ。

確実に死が近づいてきている。抗う手段は残されているとは思えない。

すでに警備隊はほとんど戦意を喪失してしまった。

ルヴィアですら苦悶の表情を浮かべていた。

「まだよ!あきらめないで!」

そんな中わたしは立ち上がり、ふたたびエムグラッセを構える。

しかし何度光線を放っても空中でかき消され、淡い光となって四散した。

反撃とばかりに冥竜は火球を何発も撃ってくる。

わたしはエムグラッセを回転させて周囲に防御壁を作る。

直撃はしないが、火球の威力に思わず体が吹っ飛んだ。

いつの間にかわたしの着ていたドレスはあちこちが破け、炭や泥などがつき、原型の色側から無いほどに汚れていた。

その姿に警備隊は再び奮起するも状況は変わらない。

このままジリ貧となることは明白であったがわたしは諦めたくなかったのだ。


「はぁ…はぁ…はぁ…」

あれからどれくらい戦ったのだろうか。

気になって時計を見てみるとたったの十分ほどしか経っていなかった。

それなのにこの疲労感…攻撃もそうだが防御にもたくさん魔技レソナを使った所為だろう。

意識を集中してもほとんど始源ナチュレを集めることが出来ない。

どうやら源炉フィジを酷使続けた結果だろう…もうわたしには魔技を使うだけの力は残されていなかった。

立っていることも辛くなり、わたしは座り込んでしまった。

周りの警備隊もほとんどが魔技を使えなくなっている。

唯一ルヴィアが孤軍奮闘しているが、先程から威力にキレがなくなってきている。

おそらく限界が近づいているのだろう。

対する冥竜はまだかなりの余力を残しているようだ。

(もう…無理なの…かな…?)

この状況でさすがのわたしも心が折れかけていた。

(お父様…お母様…)

今は亡き両親の姿を思い出していた。

お父様はいつも民のことを思って行動していた。

お母様はいつも民のことを愛していた。

そして二人はいつもみんなから慕われていた。

わたしはそんな二人が大好きだった。

わたしもそうなろうと心から思った。

「そんなわたしが、ここで諦めちゃダメよ!」

わたしは両親を思い出し、もう一度自分を奮い立たせて再び立ち上がった。

しかし無常にも冥竜は私に目掛けて火球を放とうと口元を焦がす。

わたしは防御壁を作ろうと魔技レソナを展開した。

しかし始源を集めている途中で光となってわたしの周囲に飛散してしまった。

とうとう自分のフィジが底をついたようだ。

(ごめんなさいトウヤ。もう遅かったみたい…)

この状況で不意に今日召喚に応じてくれた青年のことが頭をよぎった。

出会って間もなかったけど、なんかとても居心地がよかった。

まるでお父様とお母様といるような…一緒にいて安心できた。

欲を言えばこの世界を救ってほしかった…いや、もっと一緒にいたかった。

(でもわたしがいなくなればきっと元の世界に帰れるから)

「ごめんね。トウヤ。」

わたしは小さな声で彼に謝罪をした。

とうとう冥竜からわたしに向けて火球が放たれた。

「ウィン様!」

遠くでルヴィアが叫んで光の矢を放った。

しかし、すでに彼女とわたしの距離は離れてすぎていた。

彼女の矢が届く前に火球はわたしを飲み込むだろう。

もうわたしは避けられない。絶体絶命だ。

…もう、あきらめるしかない…

(…どれでも、いや) 

こんな状況でもわたしは諦めたくなかった。

自分でも往生際が悪いと思う。それでも…

(わたしは…わたしは…)

最後まで希望を失いたくなかった。

火球が届く寸前、わたしは思わず叫んだ。

せめて誇りだけは失わないように。

「わたしは、絶対に、あきらめない!」


 

――そうそう、あきらめてもらっちゃ困るんだよ



「えっ?」

今起きたことがよくわからなかった。

冥竜によって放たれた火球がわたしを飲み込もうとした瞬間、

何者かが間に入ってきて剣を振り上げると、火球はわたしの後ろで真っ二つになって爆発した。

「な、なにがおこったの…?」

わたしはうわごとのようにつぶやくと

――待たせて、わるかったなお姫様

その言葉を聞くとわたしはなぜか瞳から涙がこぼれた。

その様子を見て彼は笑ってわたしの頭を撫でた。

――やっぱり泣き虫なんだな

「な、泣いて、ないわよ!」

ほんの少し前に同じやり取りをしたことと同じことをした。

でも、あの時とはすこし違ってわたしの顔は笑っていたと思う。

「遅いわ!…でもありがとうトウヤ!」

わたしは嬉しく気持ちを隠せないまま彼の名前を叫んだ。

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