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~4.町に入ろう(正規ルート…?ナニソレオイシイノ?)~

町に近づくと白色のブロックが精巧に積み上げられている大きな壁があった。

丘の上から見えていた壁はおそらくこれだろう。まるで西洋にある城壁を彷彿とさせる見事な出来だ。

その中央にはアーチ状の大きな木製の門が設けられている。

こちらも城壁と負けないほどに精密に出来ており、中心には魔方陣が刻印されている。

門の前に来ると人が列をなして順番待ちをしている。

その先には銀色の鎧を着た男が二人立っていた。

背は高く体格がしっかりとてぃて屈強そうだ。それに目も鋭く隙がないように感じる。

さらに何人たりともここを通さないとばかりの威圧感を持っている。

「確認完了。どうぞお通りください。」

一人が何かパスポートのようなものを確認するともう一人に合図する。

そしてもう一人が門を開けて笑顔で中へと誘導していた。

その一連の動きに無駄がなく、きちんと礼儀をわきまえている。

まさに門番として理想的な二人組だ…って、ちょっと待て。

「な、なあウィン。一つ聞きたいんだが。」

いつの間にか顔を覆うくらいの白いローブを羽織っているウィンに小さな声で話し始めた。

「なにかしら?」

「ここ通るのに何か必要か?」

「そうね。基本的には種族証明書が必要よ。」

「もしそれがなかったら?」

「力ずくで排除されるわね。仮に門を抜けたとしても、その後には凄い数の警備隊を相手にしなくちゃいけないわね。」

「なるほど…って俺無理じゃん!種族証明書なんて持ってないどころか異世界人だぞ?」

「そうね。頑張って全員と戦ってねっ!」

「んな満面の笑みで言うんじゃねぇぇ!」

いくらなんでもそれは無理だ。

というか他のところも門番いたらどこも行けないじゃねぇか!

俺は自分自身の顔から血の気が引くのを感じた。

それを見てウィンは笑っている。ちくしょう他人事だと思って…

「しょうがないわねぇ。ちょっと来なさい。」

そういうと落ち込んでいる俺の腕をつかんで歩き始めた。

俺はわけもわからずウィンに引っ張られた。

門からほんの数メートル離れた城壁の前でウィンは止まった。

まだ門番がはっきり見える位置くらいにしか移動していない。

こちらを向いていないが確実に視界には入っているだろう。

「ちょっと待っててね。」

ウィンは俺の腕から手を離すと、城壁に手を添えた。

何かを念じるように目を閉じてなにかをつぶやいている。

そしてゆっくりと目を開けると

「えいっ!」

可愛らしい掛け声とともにウィンはきなり城壁を思いっきり殴った。すると


ドゴォォォォン!

 

すさまじい音とともに城壁は崩れ去り、人一人が軽く通れるような穴が開いた。

「えええええっ!」

俺はありえない光景に思わず大声をあげた。

殴っただけで破壊できるほどの威力がでるのか?

俺は砕け散った城壁の破片をひとつ持ち軽く叩いてみる。

すると予想していたとおり砕くことはできなかった。

また叩いたときの音も響いていないので密度も高くかなり強度があることが分かる。

ウィンってそんなに怪力だったのか。

もし先程のボディーブローが本気だったら俺は天に召されていただろう。

…からかうのも程々にしといたほうがよさそうだ。

(ってまずい!門番が来る!)

俺はそのことに気づくと後ろにいるだろう門番を直視することができなかった。 

こんな大きな音がしたんだ。間違いなく気づいただろう。

なんつう目立ち事をしてくれたんだこのお嬢様は…

「さあ、早く行きましょうよ。」

ウィンは事の重大さが分かっていないのか、ゆっくりと穴の中へと向かう。

「いや、まずいだろ!戦うしかないのか?そうなのか?」

もはや戦闘は避けられないだろう…やるしかない。 

俺は腰を落とし、丹田に力を溜め両手の拳をしっかりと握り締めた。

体術は多少心得がある程度であまり自信がない。

(せめてウィンだけでも逃げ切れるくらいはしないと!)

勢いよく一気に門番のほうを向いた。

「よし、かかって来い!って…あれ?」

その方向からは誰も近づいていなかった。

あんな大きな音が響いたにもかかわらず、門番は始めの位置から移動していなかった。

「門番の意味ねぇぇぇ!」

ここにきて二度目のありえない光景だ。

「どうしたのよ?」

「いや、だって門番が…えぇ~?」

俺はよく状況が理解できず頭の中がパニック状態になっていた。

「あれは大丈夫だから。心配しなくていいわ。」

「いやいや、色んな意味で心配だろ!」

「だから大丈夫よ。」 

「いや、でも…んっ!」  

ウィンは「うるさい」といわんばかりに人差し指を俺の唇に当てた。

そうされた途端に心臓の鼓動は急に早くなり、思わず俺は言葉を発することができなくなった。

彼女の思惑通りに静止した俺を見て、してやったりといわんばかりの笑顔を見せた。

「ちゃんと説明するから、ほらほら。早く早く!」

「え、あっおい!また引っ張るなって」

そんなことはお構いなしにウィンは再び俺の腕をつかんで引っ張った。

俺はまだ鼓動が収まらないまま、つられて穴の中へと入っていった。


穴の中に入ると、そこには予想よりも深い洞窟のような道が続いていた。

一定の間隔にロウソクのような灯りが配置され、天井から壁にかけて城壁と同じブロックで覆われているようだ。

周囲の埃をみるにここはあまり使用されていない道のようだ。

おそらく緊急避難などに用いられる地下通路なのだろう…なぜウィンはこんな道を知っているのだろうか。

「さっきのことだけどね。」

周囲を見渡している俺にウィンは声をかけた。

「さっきのことって門番のことか?それともウィンが馬鹿力ってことか?」

「わたしはそんなに力ないわよ!あれは簡単に壊れるように出来ているのよ。」

「壊れるように…できている?」

「特殊な魔技レソナをかけると自然と壊れるように出来ているわ。緊急のとき以外はほとんど使わないけどね。」

「なるほど。でもこんな風に使っていいのか?」

「あら、緊急じゃなかったのかしら?不法侵入者さん。」

「うっ……そ、そうですね。」

さっきからウィンにいいようにからかわれている気がする…初めて会ったときのお返しなのか。

「でも他のやつにばれたらまずいんじゃないのか?」

「大丈夫よ。周囲には幻覚や防音の魔技レソナがかかってるし、すぐに城壁は元に戻るわ。」

「なるほど…でもなんで門番は何の反応もしなかったんだ?普通、異変を察知したら駆けつけるだろ。」

「それはあの門番が人間じゃないからよ。」

「なんだって!]

この事実には驚いた…俺には人間にしか見えなかった。

少なくともマネキンなどとは比べ物にならないくらいに精密にできている。

外見だけでいったら人間と違うところを探すほうが難しいといえるだろう。

「あれは魔巧人形マシーナリー・ドールと呼ばれていて基本的に一つの魔技レソナを所持しているわ。この場合は『識別』の魔技レソナね。常に偽造証明書や変装などをして不正に中へ入るのを防いでくれているわ。別の場所から侵入しようとした場合は警備隊が駆けつけることになっているわ。まあほとんどありえないわね。」

「へぇ~じゃあ彼らは年中無休で頑張ってくれてるんだな。」

素直に門番に感心していると、ウィンは不思議そうな顔をして俺を見ていた。

「あなたって不思議な人ね。」

「…そりゃ異世界人なんだから、不思議な人だろう。」

「ううん、そうじゃないわ。わたしが「人形」って説明したのにあなたは「彼ら」って言ったでしょ?」

「そうだな。」

「ここの世界の人はほとんど「魔巧人形マシーナリー・ドール」のことは物扱いしているわ。だから彼なんて人を指すような呼び方はしないわ。」

「そうなのか?」

「ええ。それに「頑張っている」なんて絶対に言わないわ…みんなそれが当たり前だと思っているのよ。」

「う~ん、俺にはそっちの方がおかしいと思うけどな。頑張って人の役に立ってるんだ。敬意を払うのは当然だろ?それに一緒に生活している仲間なんだから物扱いなんてする意味が分からないな。」

「やっぱり不思議な人ね。」

「…おかしいかな。」

「ううん。わたしは好きよ。」

「えっ?」

俺は突然の告白に驚いてウィンの顔を見ると、何かに気づいたらしく顔を真っ赤にしながら手のひらを前に出してブンブンと左右に振った。

「ち、ちちちちがうわよ!トウヤがって意味じゃじゃないわよ?トウヤの考え方が好きって意味よ!」

「そ、そうだよな」

慌てて訂正しているウィンを見ていたらなんだか俺も顔が赤くなった。どうやら伝染したらしい。

なんだか気まずくなり少しの間、無言のまま二人は歩いた。

ほどなくして前方にぼんやりと光が差し込んでいるのが見えた。どうやら出口のようだ。

ゆっくりと歩いて近づくと、薄暗いのになれた目には少し明るすぎた。

目をしかめながら町の中へと足を踏み入れる。

初めはほとんど見えなかったが徐々に慣れ、その全景が見えるようになった。

――そこは美しい町並みが広がっていた。

道は灰色のような四角のブロックが綺麗に並べて埋められており、落ち着いた雰囲気を演出している。

建物は似た形のものが整頓されているかのように立ち並び、そのほとんどがレンガのような赤茶色をしている。一階部分には雑貨屋やパンや果物などを扱っている店が多いようだ。

道には車などでは走っておらず、人々が歩いている。その姿は様々である。

そして中心には線路のような切れ目が入っている。奥の方を見ると大型バスほどの大きさの路面電車がゆっくりと走っていた。

そして、圧倒的な存在感を放っている建物が城と教会である。それぞれが向かい合った状態で建っていて、大きさは他の建物と比べ物にならない。

城は城壁と同じ白色をしていてどこにも汚れが見当たらないほど美しさを保っている。

また壁面には複雑かつ繊細な彫刻が施され、どこからでもその造形美を感じることが出来る。

まるで童話などに登場するような城で、女の子なら誰もが一度住んでみたいと憧れるだろう。

反対側の教会は、青色の屋根が特徴的で、こちらも城と負けず劣らずの造形美を感じる建物である。

これら全てが見事なまでに溶け込み、一つの絵画のように感じるほどの一体感が生まれている。

俺は光景に完全に圧倒されていた。

「ようこそ大地の都市ハムアンレイスへ!」

ウィンは満面の笑みと両手を広げてこの町へと俺を招き入れた。

「ああ!」

俺は興奮を隠し切れないまま声を張って応じて、この風景へと混ざっていった。

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