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~1.天使(?)と出会う~

(あれ、俺いつの間に眠っていたんだろう)

意識がまだ完全に覚醒していない俺は自分の状況が把握できていない。

(でも、なんだかとても心地いいな)

どうやら俺は横になっているらしい。頭には柔らかい枕があるようでとても気持ちがいい。

それに先程からなんかいい匂いもしてくる。

そんな空間では再び眠りについてもおかしくない。というか今すぐ二度寝してしまいそうだ。

(まあいっか、今日いろんなことがあって疲れてるもんな)

あっさりと誘惑に負け、自分を正当化するように頭の中で言い訳を始めた。

まあ今日は部長に何度も実践稽古に付き合わされるし、俺が勝つと怒るくせに部長が勝つとわざと負けたといちゃもんつけられるし、顧問はとりあえず走らせとけとかいって校庭を何度も走らされるし、ようやく合宿が終わったら変な魔方陣見つけるし、入ったら出れないし、地球で浮遊体験するし、疲れて寝ちゃうのも仕方ないよな…って!

「二度寝してる場合じゃねぇ!」

「きゃあ!」

自分の身に起こったことを思い出すと、一気に意識が覚醒して飛び起きた。

あぶない、心地いい空間に心をゆだねるところだった。そんなことしている場合じゃない。

「一体俺どうなっ……!」

俺は飛び込んできた光景に思わず言葉を失った。

視界に入ったのは白い雲、美しい自然…そして宙に浮かぶ島。

よく見るとどの島も木々が生い茂り、場所によっては川が流れて湖ができている。

その光景はまさに一枚の絵画のように思えるほど美しく感じた。

どうやら俺は宙に浮かぶ島ではなく、高い丘のようなところにいるらしい。

雲との距離が近いのでかなり高い場所にいるようだ。

吹き抜ける風は、空気は汚れなく澄んでいて気持ちがいい。

「こ、ここはどこだ?」

俺の住んでいるところにこんな場所があるなんて知らない…いや俺の知っている世界にこんなところは存在しない。

ここは俺が知っている世界じゃない…ということはなんとなく理解できたが、じゃあなんで俺はこんなところにいるんだろうか。

思いついたのはたったひとつ。唯一可能性があるとしたら…

「ひょっとして天国…ってことは俺死んだのか?」

えっマジで!俺の人生終了…?

いやいや、ちょっと待て俺!その考えはいくらなんでもまずいだろう。そんな後ろ向きはよくない、よくないですよ!

俺は頭を激しく振って一度、悪い方向へ考えていた頭の中をリセットしようと試みた。

しかしこんな非現実的な光景を目の当たりにして、他にはまったく思いつかない。

「やっぱり、俺死んだのかな」

どうにもいかなくなった俺は気力を失い、その場に座り込んでこの景色を呆然と眺めることしかできなかった。

「あ、あの…」

途方に暮れていた俺の背後から、不意に声が聞こえた。

こんな丘の上に人が来るなんて思えない…きっと空耳だろうと俺は無視した。

「もしも~し…聞こえていますか?」

今度ははっきりと人の声に聞こえた。

(ああ、とうとう幻聴まで…)

すでにこの状況で落ち込んでいる俺には、その事をプラスに捉える事が出来ない。再び俺はその声を無視した。

「もう!聞こえてるんでしょ!」

「いてぇ!」

いきなり痛みが体中に走り思わず声を上げた。

どうやら左耳のあたりから来ているようだ。

この痛みを表現するなら誰かに耳を引っ張られたかのよう…な、ってホントに人が引っ張っているのか!

俺は慌てて振りかえると、そこには一人の女性がいた。

サファイアのような青い瞳をもち、その肌は雪のように白く、顔は驚くほどに小さい。

見事に整ったその顔立ちは可愛らしさと美しさが共演している。

髪の長さは肩の位置くらいだろうか…座っているのでよく見えないが桜を思い出させるピンク色をしていて彼女によく似合っている。

身長はそんなに高くはないようだが、スタイルは出るところはそれなりに出ていてウエストは細く、雑誌などで見るモデルも憧れるような理想的な体型だ。

そして水色を基調とし、白いフリルのついたドレスが彼女の魅力を最大限に引き出している。

その姿は老若男女問わず見とれてしまうほどだ。もちろん俺も例外ではなかった。

「天使、か。」

思わず声を上げてしまうほどの美しさはまさに理想とする天使そのものであった。

しかし、この完璧な天使を見れば見るほど状況は絶望的である。なんとなく理解した。

おそらく俺は死んでしまっているのだろう…いよいよ年貢の納め時が来たようだ。

(でもこんな美少女天使が迎えに来てくれるんだ。悪くはないな)

そういいながら俺は再び美少女天使を見た。

うん、普通にこの天使可愛いな。

なんだか顔が赤くなってるし、こっちを上目遣いでチラチラ見てるし…反則じゃないか。

(でもなんで赤くなってるんだ?…げっ!もしかして…)

俺はとっさにある事に気付き、自分の恰好を一通り見直した。

今の俺は上はTシャツに学校指定の赤いネクタイをつけ、下にグレーのズボンを履いている。

(可能性があるとしたらあそこしかない!)

そこは通称「社会の窓」と呼ばれるズボンについているファスナーである。

ここが解放されていると恥ずかしい…特に学校や電車の中だとなおさらである。

どうやら解放はされていないようだ。本当によかった。

しかし一通り見てみたが特に異常が見られない…じゃあなんで顔が赤いのだろうか。

とりあえず立ちあがって天使の様子をみることにした。

「て、天使って…わ、わたしのこと?」

天使は、まだ恥ずかしいのか聞こえるか分からないくらいに小さい声で俺に尋ねてきた。

「あんた以外に誰が居るんだ?」

「い、いやいないけど…」

「でもまあこんな可愛い天使が来るとは思わなかったけどな。」

「なっ!かわっ…いいって…」

普通に感想を述べただけなのに、天使は先ほどよりももっと赤くなった。

なんだ、そういうことか…天使なだけあって本当にウブなんだな。

「わたしはて、天使じゃないわよ!」

「ははっ。何言ってるんだ?そんなに可愛いのに。」

「ま、また可愛いって…よく見てみなさいよ!」

俺はついいたずら心で更に誉めるともう湯気が出そうなほど真っ赤になってしまった。

天使はちょっと怒りながらその場で軽く一回転した。

「見てみろって言われても……その服、似合ってるな。」

「ほぇ!…て、天然ね。天然ジゴロなのね?もうっ!」

今度は頭を小突かれた。そんなに痛くなかったが少し調子に乗りすぎたようだ。

しかし俺はからかうのを止める気はなかった。可愛い姿も見たかったし、先程まで1人しかいなかったから話し相手ができて浮かれていたのかもしれない。

「もう、ちゃんと見て!ここよ、こ・こ!」

頬を膨らましながらもう一度頭を小突くと、天使は後ろを向いて自分の背中を指さした。

というか、どんだけ可愛いんだこいつは…

「いてっ。わかったよ。どれどれ…おおっ綺麗な髪だな!肩までだと思ったけど背中まであるんだな。……って翼がねえぇぇぇ!」

俺はからかうのを忘れて思わず叫んでしまった。

天使と言えば童話や神話などでよく登場するが、そのどれもが背中に翼が付いている。

しかしこの天使(?)の背中には翼がついていなかった。

「えっ?でも、ここって…天国じゃないのか?」

「ここは天国じゃないわよ!」

「…じゃあ、まさか地獄なのか?」

「違うわよ!ここは…」

少し怒りながら天使(ではないらしい)は腰に手を当てて「もぅ」とため息をついてなにやら説明しているようだが、俺はその言葉が耳にはいっていかなかった。

(落ちつけ俺、落ち着くんだ。一旦状況を整理しよう…)

自分で一旦深呼吸をして落ち着くと、一旦現在の状況を整理する事にした。

たしか俺、合宿の帰りに魔方陣みたいなのに入ったら意識失ったよな?

そして起きたらこの現実とは思えない光景を見て、天使みたいなのに耳引っ張られて…

ん?あのとき痛かったよな…確か夢とか現実じゃないときって自分で認識しないと痛みを感じないんだっけ?でもあれって確か…!


ギュ~~~~~~ッ!


「いででででぇ!おまっ、また耳引っ張るんじゃねぇよ!」

「人がせっかく説明してるんだからちゃんと話聞きなさいよ!」

「少し考え事してたんだよ!って、やっぱそうか!」

「やっぱそうかってどうしたの?…って、ほぇ?」

「俺は死んでいないんだ…」

「し、死んでなんかいないわよ…それはいいから……」

「やった!俺まだ生きてる。神様ありがとうございます!」

「ち、ちょっと大丈夫?それよりも手を…」

「君もありがとうな!」

「え、あ、う~…お礼はいいから…」

「ん?」

「いい加減、手ぇはなしなさいよ…」

「え?あっ!…わ、わるい!」

どうやら興奮して彼女の手を握っていたらしい。

指摘されるとすぐに手を離した。

(いくら嬉しいからって、いきなり女の子の手を握るなんて何やってんだ俺…)

いきなり見ず知らずの人に手を握られたんだ。きっと怖がらせたに違いない。

俺はなにをされても甘んじて受けようと覚悟したのだが、意外にも彼女はうつむき自分自身の手を握りしめたまま、なにもしてこなかった。

「本当にごめん!嫌だったよな。」

「ううん。ベ、別に大丈夫。(…それに嫌じゃなかったし…)」

「ん?後半聞こえなかったんだけど」

「な、なにも言ってないわよ!」

「そ、そうか…」

彼女の顔をみても怒ってはいない様子だったので、内心ほっとした。

しかし相当驚いたのだろう。先程から何度も深呼吸をして落ち着こうとしている。

とりあえず彼女の話は落ち着いてから聞くことにして、俺は少し彼女から離れた木陰まで移動して座った。

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