~17.た、たまにはかっこつけたっていいじゃないか!~
ウィンの勇者様発言から数時間後…
俺はなぜか教会の広場にいた。
後ろにはこの世界の地図だろうか、見たこともない形の大陸が描かれた幕がかけられている。
その中央には豪華な装飾が施された楯に、斜めに鋭い剣が立てかけられた紋章がある。
これはハムアンレイスの国章だろうか。
幕の前には一段高くなっていて、中央と端には俺の腰より少し高いくらいの机が置かれている。その上にはマイクと思われる菱型の魔法石が置かれている。
その奥にはカメラらしきものが数台にわたってレンズ越しにこちらを捉えている。
確か全世界に繋がっているとかいっていたな。生中継ってところか。
簡単に言えば、リムが魔技によって作り出したセットの豪華版って感じだ…まあところどころ急遽用意したとは思えないほどの豪華な装飾があるが。
そしてそのセットの目の前には、俺を一目見ようと人が溢れかえっている。
俺の横にはウィンを含めて明らかに身分が高い人がずらりと並んでいる。
全員が高貴な衣装を着ているが、浮いているものはいなく見事に着こなしている…俺以外。
俺も制服ではなく貴族のような豪華な衣装を着ているが、正直違和感しかない。
さらに違和感とは違うが先程からいたるところで視線を感じる…それも自分の死角といえるところから。
話を聞いた限りではルヴィアを含めた警備隊が隠れて護衛をいるらしい。
…すごいな。多分この世界じゃなきゃ気づくのは難しかったな。
まるで外国のVIPのような扱いだ…なんかテレビで見たような光景だ。
なんだろ、YES、W○ CAN!とか言った方がいいのかな?
(というか…まじでやるのか?)
自分でもこの展開は予想外だ…正直勘弁してほしい。
「それでは勇者アオイ・トウヤ様、どうぞ!」
そんな俺を尻目に先程まで話していた初老の男性が俺を壇上へと導いた。
今回の舞台は重大発表があるというが…どうやら俺の紹介がメインらしい。
俺は困り果てた顔で周囲を見渡すとウィンと目が合った。
ウィンは笑いながら目で「早くしなさい」と促しているようだ…ちくしょう、楽しみやがって。
(やれやれ。面倒だけど手筈どおりにやるしかないか…)
俺は「はぁ」と軽くため息をつくと気が乗らないまま、壇上へと歩みだした。
こんな大勢の前に立つのは何度かあったが、実際に話をするのは初めてだ。
「初めまして。今回、ウィンヒール・アロウント様の異世界召喚にお答え致しました蒼井燈矢です。」
俺がそう一言言葉を発すると、「おおっ!」と歓声が上がった。
…なんか芸能人でもなった気分だな。なんかちょっと優越感を感じるぞ。
そんなことを思っていた矢先、俺を目掛けて上空から複数の光の矢が飛んできた…その数は数十にも及び回避するのは不可能とも言える量だ。
俺が気づいてからすぐに広場にいる全ての人がその状況を把握すると、その歓声が悲鳴へと変わるのに時間はかからなかった。
あるものは慌てて逃げ、あるものは防御魔技を展開し、あるものはその場でうずくまるなど…対応は様々であるが、誰もが数日前の恐怖を感じているのだろう。
「俺に任せろ!」
俺はその状況で魔法石を使わず、空気が震える程の大声で叫んだ。
すると会場の混乱は一瞬で静まり、静寂が訪れる。
その様子をワクワクした顔でウィンが見ていた…というかお前隠れるとかしろよ。
そんな顔を横目で見ると、俺は腰にある剣とゆっくりと抜き、左肩を前に重心を低くした構えをとった。
「見ていてください…勇者の力を!」
俺がそう叫んだすぐ後に無数の光の矢は俺に到達した。
…が、その全てが俺の身体に触れることはなかった。
矢の嵐が収まると、俺がいる位置を中心に円を描いたようにそこだけ矢が刺さっていなかった。
そしてその光の矢は、威力を失ったようにその場で光の粒になって消滅した。
その様子に気づいた会場の人たちは思わず驚きの声をあげる。
しかし俺はそんなことは気にせずに遠くの建物の屋上から目を離さないでいた。
あそこにルヴィアがいる。
それを肯定するかのようにその周囲が金色に輝いている。
…というか、あれマジでやばいんじゃないか?
俺も驚くくらいに眩しく光を放っている。
「害虫…駆除!」
なにやら物騒な声が聞こえた後、その光は俺を目掛けてすごい速さで飛んできた。
その光量から先程とは比較にならないほどの威力であることは明らかである。
それに光周囲の空気が陽炎のように歪んでることからも、相当な熱量を有しているだろう。
これこそが彼女の魔技…アルテミスである。
俺は身体をしならせて一気に伸ばして飛び上がり、アルテミスへと目掛けて飛び込んだ。
近づくにつれて温度が高くなっているのを感じる…なんつう魔技だ。
フィジレスによって無効化されていたから威力は分からなかったが、こんなのが直撃したら痛みも感じる間もなく当たった部分が消滅するだろう。…レーザービームってこういうのなんだろうな。
多分アルテミスをそのまま正面から受け止めたら確実に武器に穴が開くだろう。
冥竜の火球とは違い、口径はだいぶ小さいが先端の温度は比較に、金属を融解させる程はあるだろう。
そのためアルテミスが接触する刹那、俺は下段から上段へと斬りあげた。
するとアルテミスの軌道は変化し上空の雲の中へと消えていった。
それを見届けてに壇上へと着地すると、溢れんばかりの拍手が会場を包み込んだ。
よほど驚いたのだろう。会場からは「信じられない!」「すばらしい!」「さすがトウ!」
などと賛美の声が聞こえてくる…というかリム。観客にまぎれてんのかよ。
人族はおろかこの世界で有名な上位魔技、アルテミスを見事に迎撃したのを見てしまえば、俺が冥竜から街を守ったことが偽りではないと認識しただろう。
俺は二、三度頭を下げると俺は咳払いをした。
「え~私はこの力を使って、皆様の平和のために戦うことを誓います。」
そう宣言するとウィンがすかさず俺の前に来た。
観客には見えないように俺にウインクすると、魔法石を手に取った。
「見ていただけた通り、勇者様は魔技を使うことなくアルテミスほどの魔技に対抗できることができます。それはこの世界で冥族に唯一対抗できる存在であることを意味しています。」
その言葉を受け、観客から大きな歓声があがる…これは歓喜に満ちあふれた声だ。
…その声を聞いて俺は改めて理解した。
全ては魔技、つまり源炉の強さによって決まるという事を。
政治や外交…果ては正義か悪かさえも。
その結果フィジレスが危険視され、それを持つ冥族が全種族から憎まれている。
だからリムが見つかったら即処刑なのだろう…理不尽にも程がある。
(だから、俺を召喚したのか。)
あの時俺を勇者と言った…いや、俺をこの世界に呼んだウィンの想いが何となくわかった。
(だからこんな矛盾したことを考えたんだな)
俺はおもむろにウィンを見つめた。
ウィンはそんな事には気づかずに堂々と背筋を張り、周囲を見ながらこう公言した。
「わたしは勇者様とともに、冥族の討伐をすることを決定いたしました。」
その瞬間、会場からは今日一番の大きな歓声が巻き起こった。
ウィンはそのまま一礼をして俺の元へと向かった。
興奮が収まる様子がない会場を一度見渡してから俺とウィンはその場を後にした。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回は5/25 21:00を予定しています。
また変更する恐れはありますが、なるべくこの時間に仕上げるように頑張ります!