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~16.なんか宣言されましたけど?~

5/21 21:00投稿予定を5/22 21:00投稿確定に変更いたします。お待ちいただいた方には申し訳ございませんが後1日だけお待ちくださいm(__)m

「失礼します。」

一応、声をかけた後でウィンの待つ部屋へと足を踏み入れた。

部屋に入ると俺はまず周囲を見渡した。

目に付いたのは天井からぶらさがるシャンデリア。

精巧なガラス細工が施された見事な一品だ。それが周囲のライトに照らされ、現像的な明かりが室内に散りばめられている。

そのほかには白を基調とした洋服ダンスに化粧台、机や椅子、ソファなどが置かれている。

特に目立つのは天蓋付きの大きなベッド…俗にいうお嬢様ベッドである。

…ここはウィンの部屋らしい。

そう気づくとちょっと奥に入るのになんとなく気恥ずかしさがある。

そうして恥ずかしながらも奥へ目を向けると、そこには女性が二人いるのに気がついた。

一人は先程まで話をしていたウィンで、もう一人は…あ、目が合った。

「あっトウ!起きたんだね。よかったよぉ~!」

するとその子は満面の笑みを浮かべて俺の元へと走ってくる。

心当たりがあった俺はその場で止まって声をかけた。

「リムか。そっちも大丈夫そ…ぐはぁぁぁぁ!」

話している途中で俺の腹部にとんでもない衝撃が走り、思わず言葉を失い悶絶した。

まさか勢いを落とすどころかむしろ加速しながらダイブしてくるとは…

「ぐはぁぁぁってなぁに?新しい挨拶?」

「なん…だ、と…?」

あれほどの速度でぶつかる…いやむしろ衝突といってもいいくらいの衝撃だったぞ?

それなのに本人にダメージがないみたいだ…リムってば恐ろしい子!

「い、いやぁ新しい挨拶じゃないんだけど……まあ、いっか。」

とりあえずリムが嬉しそうだったので、まだジンジンする腹部の痛みは気合で我慢した。

「リムは元気そうだな。大丈夫だったか?」

「うん!ウィンちゃんや皆が助けてくれたから元気だよ!」

リムは俺に抱きついたまま弾むような声で答えた。

その太陽のような笑顔を前に、俺もつられて笑顔になりながらリムの頭を撫でる。

どうやらそれが気持ちよかったのか目を細めて嬉しそうに「わ~い」と言いながら俺の胸にじゃれついた。

(よく考えたらリムをちゃんと見るのは初めてだな)

俺は心の中でそのことに気づくと、改めてリムを見た。

柔らかい茶色の髪に、愛嬌のある可愛らしい顔立ちをしている。

瞳は大きくルビーに似た輝きを放ち、吸い込まれそうになるくらいに美しい。

身体も小柄で元気いっぱいの姿は小動物のような愛らしさを感じる。

…こいつ、本当にあの竜だよな?

見れば見るほど先日戦った竜と同一人物であるとはまったく思えない…というか猫にしか見えない。

せいぜい頭に小さな角が二つあるのが、竜の名残といえなくもない。

「こほん!い、いつまでイチャついているのかしら?」

その様子をしばらく見ていたウィンは、わざとらしく咳をして俺達に声をかけた。

「「あっ」」

その声に気づくと俺はどんどん恥ずかしくなってきた。顔は赤くなっていくのが分かる。

それはリムも同じようで、頬がみるみる赤くなっていくのが見て取れた。

すぐさま俺は撫でるのをやめ、リムは抱きつくのをやめて互いに距離をあけた。

その様子を見るとウィンはかるくため息をついた…なんかちょっと怒っている?

(…なるほど、そういうことか)

俺はすぐに思い当たり、ゆっくりとウィンに近づいた。

「な、なによ?」

急に近づいた意図が分からず、ウィンはちょっとたじろいだ。

「言ってくれればいいのに……ほら。」

「なにす…んっ!」

俺は有無を言わさずにウィンの頭に手を置き、ゆっくりと優しく頭を撫でた。

「仲間はずれにしてごめんな。」

「な、なんのことよ?いいからやめなさいよ!」

おや?どうやら違ったようだ。

てっきり寂しがり屋の彼女は、仲間はずれにされたと勘違いしたのかと思ったのだが…

しかしウィンは口では文句を言っているが、手で振り払うなどの抵抗はしなかった。

言動と行動が噛み合っていない…ちょっとは嬉しいのか?

「もう終わりよ!」

少ししてから、ウィンは撫でていた手を軽く振り払った。

「え~…もうちょっと撫でたかったのに~」

俺はまた少しからかいたくなって、わざとらしく文句をいってみた。

「今は、駄目よ。大事な話があるんだから!…後でなら、えっと、その…ちょっとならいいわよ?」

「あ、ああ…」

思いもしない反撃に俺は空返事しか返せなかった。

…誰かこの人の可愛さを止めてください。俺の心が打ち抜かれてなくなる前に!

かろうじて顔に出すことは防いだが、顔は赤くなっているだろうな。

というか、ついさっきも反撃食らったのにまたやるとは…俺も全然懲りてないな。

「さて、再開を喜んだところで…今どうなっているか話を聞かせてくれないか?」

とりあえずこのままじゃ分が悪いので、気持ちを切り替えて本題に入ることにした。

その切り替えに二人とも気がついたらしく、表情がすぐに切り替わった。

その姿は真剣そのもの。普通の人では持ち合わせていない気品に満ちたオーラさえ感じる。

ウィンはともかく、いつも明るいリムまでがそこまで雰囲気が変わるとは思っていなかった。

さすが冥族最上位、冥竜種といったところか。

「それはわたしから説明するわ。」

ウィンが答えると、手でソファを指した…どうやら長くなりそうだな。

そのまま三人はソファへと移動してそれぞれ腰を下ろした。

俺は席に着くと胸に手を置いて、左拳で胸を二回叩くとゆっくりと目を開ける。

「あれ、それ…?」

その様子にリムは不思議そうな顔をして俺をみている。

「ああ、集中するときの癖なんだ。特に意味はないから。」

「そうなんだ。でも、あたしそれ見たことあるよ!」

「そうなのか?」

あれ、この癖はリムの前でやったことないよな?オリジナルだと思ったが違うのか。

「う~ん、たしかウィンちゃんもよくやるよね?」

「えっ、わ、わたし?」

「そうだよ~。ほら、皆の前で話す時とか…」

「そ、そそそうだった、か、かしら?」

リムの発言にウィンは顔を赤くしながらも知らぬ素振りをした…そんな言い方じゃ逆に肯定しているとしか思えないな。

なるほど、だから初めて会ったときにもあんなに驚いていたのか。

たしかに自分と同じ癖を持つ人に出会ったら動揺もするだろう。

なんか初めから敬語を使わなかったのはそういうところで親近感シンパシーを感じていたのかもしれない。

「と、とにかく話を戻すわよ!…って二人ともニヤニヤしないで!」

「「はいはい」」

ウィンは強引に話を終わらせると、俺とリムはもっとニヤニヤしながら答えた。

最初はその表情を見て「も~!」といいながら頬を膨らませていたが、やがて無駄だと判断したらしく俺たちを無視して話し始めた。

「まず、今はあの日…リムが竜の姿で暴走してから3日ほど経っているわ。」

「結構経っていたのか…」

俺は結構寝ていたらしい…思いのほか疲労困憊だったようだ。

「それで街は今どうなっているんだ?」

「破壊された建物とかはその日に修繕が完了して、いつもと変わらない日常に戻っているわ。」

「はっ?そんなに早く復旧できるのか?」

予想外の返しに俺は目を丸くした。

「ええ。そういう専門の魔技使いが居るのよ。」

「どんだけ魔技レソナは万能なんだよ!」

あんな災害クラスの被害がたった3日で元通りになるなんて…

こっちの世界じゃ元通りになるまで最低でも数年は必要だぞ。

さすが異世界…羨ましい限りだ。

「それでリムは大丈夫なのか?こう…なんていうか…その…」

俺は質問の途中で言葉を濁してしまった。

やはり直接言うのは抵抗があるが聞いておかないといけない…のだけど…。

そんな様子を見ていたリムは俺の顔を見て優しく微笑んだ。

「あはは、あたしは大丈夫だよ。」

「本当か?…いや、そうならいいいんだけど…今、リムっていうか冥族は嫌われているんだろう?」

「そうだね…あたし達は今、この世界シンビオシスで一番嫌われている種族なのは間違いないよ。」

「正直、その場にいたのがわたしとルヴィアでよかったわ…あの後なんとかトウヤとリムリスは一緒に警備隊の負傷者と偽ってこの城まで移動したわ。」

「…もし、他に人がいたら?」

「トウヤはともかくリムは確実に捕縛され、代表種族で会議して処遇が決まるけど…有無を言わさず処刑されていたでしょうね。」

処刑…その言葉を聞いて背筋が凍りついた。

俺は罪人とはいえ、こっちの世界と同じように事情徴収とか話を聞いて事実を明らかにしてから禁固すると考えていた。

先程の心配も牢獄に入れられるんじゃないか…それくらいでしかなかった。

「ふざけるなよ…話も聞かないで処刑なんて酷すぎるだろ!」

あまりにも理不尽なことに驚きからだんだん怒りへと自分の感情が変化しているのがわかる。

その所為か自分の声に感情が隠しきれていない。

女性の前なのに怖がらせてしまったかも知れないな…自称フェミニストの俺が情けない。

しかし目の前の彼女達は怖がるどころか嬉しそうな顔をしている。

「あ、あれ。どうしたのか?」

「いや、トウヤって優しいなって思っただけよ。ねぇ~!」

「そうだね。そんなに風に思ってくれるなんて本当に優しいよね~!」

「う、ううううるさい。」

さっきのウィンの気持ちが分かった…ニヤニヤされるのはすごく照れるな。

「と、とりあえず俺とリムは今秘密裏にされているんだな。」

「ええ、そうよ。でも…」

「でも?」

「トウヤは今すぐに公表するわ。」

「…はっ?今すぐ…?公表…?」

ウィン一体なにを言っているんだ?俺にはまったくわからないぞ。

俺が分からないのをよそに二人ともニヤニヤしたままだ。

…なんか嫌な予感しかしないぞ?

「それじゃあ…スイッチオン!」

リムがそういって指を鳴らすと、俺達の周囲が急に輝きだした。

するとこのソファを中心に目の錯覚なのか風景が草原や山地など様々に変化していった。

さらに地形だけではなく、空も青空や夕焼け、終いには虹がかかった空まで変わっていく。

(これはリムの魔技レソナなのか?)

この魔技レソナは先程見た防衛魔技に似ている。

しかしその再現度が比べ物にならない。

リムの魔技レソナは景色が変わるだけでなく、匂いや風も感じられる。

一旦砂浜に変わったときに地面に手を触れた…そこからは焼けたような熱さとざらついた砂の触感まで感じることが出来る。

まさにその場に瞬間移動したとしか思えないほどのリアルさだ。

「すごい魔技レソナだな。」

「でしょ?あたし達は炎系の魔技レソナ変化魔技レソナを得意としているの。」

「なるほど…だから竜から人へ変化できるのか。」

「わぁ!そのとおりだよ。あったまいい~!」

リムは正解とばかりに胸の前で拍手をした。

「でも、この部屋を変化させても大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。実際にこれは変化しているように見せているだけだから。自分ならまだしも構造とかなにも分かっていないものは変えられないんだ。」

「そうなのか!」

「そうそう。これは映像と五感を錯覚させているの…そうだなぁ幻覚を見ているのに近いかな?」

「それはすげぇな!」

…使い方によってはこの魔技レソナはとんでもない力を発揮しそうだな。

ちょっとテンションあがるなこれ。

「でもここまで再現するにはどこかにほころびが必要なの。」

「ほころび?」

「ここでいうと…このソファだけかわっていないでしょ?そうやってひとつ元の状態にしておくことで他の部分を自由に創造することができるんだ。」

「なるほど…わからん。」

「説明するのが難しいなぁ。う~ん…自分で一度小説を読んでいれば、あのときの登場人物がなにが思っているのかとか、伏線とか分かるでしょ?そうするとこれはこうだったのかなとか創造力が沸いてくるでしょ。そんな感じで元を知っていると色々変えられるんだ。」

「う~ん…わかったような、わからないような…つまり。」

「つまり?」

「冥族は妄想力が豊かだってことだな。」

「んにゃ~!あってるけど、認めたくないよぉ!」

リムは顔を真っ赤にして俺の胸をポカポカ殴ってきた。

…あれ、違かったのかな?

俺は殴られている間、必死で理解しようと考えていた。

「うん。これでオッケーだよ!」

思い通りにできたのか、もう一度リムは指を鳴らした。

周囲を見渡すと、中心には俺の胸よりも少し低い檀に、横には細いマイクが付いている。

さらに奥にはカメラのような形をした大きな魔法石がこちらを向いている。

まるで大統領とかが演説をするようなみごとなセットが出来上がっていた。

「…ここでなんかの会見でもするのか?」

「そのとおりよ。」

声がするほうを振り向くと、そこにはウィンが美しい白いドレスを身に纏っていた。

その姿は以前天使と間違えたときと同じ…というかやっぱりその美貌は天使にしか見えないな。

「リムありがとう。少しの間ソファに隠れてて。」

「りょうか~い!」

リムはそう返事をすると、ソファに丸くなった。

…やはり猫だよな。

「ほら、トウヤはわたしの隣に来て!」

「あ、ああ。」

俺はウィンに引っ張られるままにウィンの横へ移動した。

それを確認するとウィンは一度頷き、カメラに向かって小さな光の玉を放った。

カメラはその玉を受け取ると、まるで命を宿したかのように光をこちらに放ち始めた。

「皆様。突然の放送申し訳ございません。人族第一王女ウィンヒール・アロウントです。」

ウィンはそういうとドレスの裾を持ち、優雅に一礼した。

(さすが王女。人民の前に立つとさっきまでとまるで違う)

なにか高貴なオーラを感じる…やはり、最高位というのは伊達じゃない。

俺は感心しながらウィンの様子を見ていた。

「今回はご報告があってこのような形をとらせていただきました。そのご報告とは、3日前に起きた冥竜襲撃事件のことです。この事件での被害は重傷者三名、軽症者は二十人ほど出ましたが幸いにも源炉フィジの加護を失われた方がいらっしゃらなかったことはわたしも安心しています。」

その声は透き通り、町全体の雰囲気が明るくなったとさえ感じる。

「それで、今わたしの隣にいるのが、冥竜からこの街を護ってくださった…勇者です。」

その瞬間、町全体から「おおおお」といった歓声があがった。

(え、勇者って?)

それを聞いていた俺は、なんか変な感じがして仕方がなかった。

変な感じというのは…なんかとてつもなく嫌なことが起こりそうな予感だ。

こういうのって外れたこと無いんだよな…

そんな事を尻目にウィンはとんでもないことを宣言する。

「もう一度言います。この方は…この世界を救うために異界より現れた最後の希望…勇者様です!」

「はあああぁぁぁ?」

…この発言により、俺は自分の意思とは関係なく勇者になりました。


いつも読んでいただきありがとうございます。

ここで物語は始まりをむかえます(ぇ)

次回の投稿は5/22 21:00を予定していますので

よろしくお願いいたします

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