火の手
魔法で部屋に転移すると、凄まじい怒気がツパイたちを襲った。
(これがさっきというやつか…アニメや漫画にしか存在しない架空のものと思っていたがなるほど。……逃げたい)
感覚が鋭くなったことで、よりはっきりと力の差を感じられるようになったのだ。必死に抑えようとしているオルガも満身創痍である。
(オルガ1人に任せておくわけにはいくまい。部下の不始末は上司の不始末。俺が責任を持って止めるしかない)
ツパイは死の眷属専用装備を身に着け、血走った目で何かを探すように部屋を見回すエリザの前に立った。
エリザの視線がツパイに固定される。
こみ上げる恐怖を押し殺し、命令する。
「やめろ。エリザ」
「あぁ!?……ツパイ様?…ツパイ様っ!どこにいらっしゃったのですか。何度尋ねてもお返事がありませんし、お部屋は血まみれ。心配したんですよ?」
「えっと、風呂に入ってた。いい湯だったぞ。あと1つ気になることが…」
「何をされるにしても私に一声おかけになってからにしてください。何のためのお付きメイドですか!」
「それくらいにしなさいエリザ。不敬ですよ」
(メイド達だけで話すときは隊長であるエリザに対してもフランクなんだな。メイド全員の設定『メイドは全員仲がいい』が生きているのかな?)
「ん…ツパイ様,報告が、1つ。…外の景色が変化しています。普段通り巡回をしたのですが、草原が周囲にあってラビリントスの入り口が違和感むき出しです」
「そのことについてだが…俺も聞こうと思っていたんだがオルガ、周囲に何か生き物はいなかったか?」
「ん…少し離れたところに村のようなものがあります」
「村か…」
その村を訪ねて何か情報がもらえればいいのだが、問題も多い。
(まず言葉が通じるのかわからない。それにこの世界の平均的な強さが『レア』クラスだったらどうする?もしそうなら勝ち目はない。奴隷のような扱いを受けるだろう)
「いきなり訪ねて相手にしてくれると思うか?何かきっかけがあればいいのだが…」
「もしもの時は私の力で無理やりにでも…」
「エリザ、お前はおとなしくしてろ」
「……はい」
「ひとまず様子を窺ってみるのはいかがでしょうか?数日監視すればおのずと村の情報も入手できると思われますが」
「いや、どうもそんな悠長なことを言ってる時間は無さそうだ」
ツパイの鍛え上げられた眼は次々と村に上がっていく火の手を捉えた。