力の壁
今俺はプールほどの大きさの檜風呂に入っている。
この他にも数多の種類の風呂があるが、日本風呂の好きなツパイはここを使うことが多かった。
ゲーム時代にも見慣れた一室。その一室でツパイは大いに驚いていた。
「傷が癒えていく…」
これで風呂の治癒効果が証明された。
(それに温かい)
ここまでのことからツパイは、ゲームの能力を持ったまま五感も現実と同じようにあるということ を理解した。
つまりそれは
「異世界転移ってやつか」
ゲームの世界に入るなんてどこの作り話だと笑ってしまいそうだが、それしかこの状況を説明でき る言葉はない。
「それがわかったなら早速っと」
リモコンのようなものを使いこの部屋に全く馴染んでいないモニターを作動させる。そして何かを 映し出していく。
このモニターとリモコンのセットはギルド特典の一つで、名前を「千里の瞳」というマジックアイ テムだ。
リモコンで座標を指定し、モニターがそれを映すという広域監視にはもってこいのアイテムであ る。
しかし目標に結界などが張られている場合やダンジョンの内部などを映すことは見ることができな いため、使いどころが限られるアイテムと言われている。
それをツパイは風呂に配置して景色を楽しむために使っている。
「新たな出発のめでたい日だし、何かきれいなものを見たいな…桜にしよう『38;44』と」
普段ならば見慣れた景色、この座標なら満開の桜並木を映すはずなのだが
「なんで草原?あれ?よく見ればマップが変わってるし…Next Earthの世界じゃないってことか!?」
また面倒なことになったなと考えていると誰かの気配が猛スピードで迫ってくる。
普通の人間であれば聞こえろ距離ではないが隠密系のスキルを好んで取っえプレイしてきたツパイ であれば造作もない。
「失礼します。あぁよかったツパイ様。申し上げたいことが――」
「おまっ、オルフィア。勝手に開けるな!出ていけ!」
「無礼は承知しております。しかしエリザ――いえ、隊長がツパイ様のお部屋の血を見て暴走してしまい…」
エリザは強い。レベル120の地力に加え、公式チートと呼ばれた固有技能を発 動すれば死の眷属の全員を持って相手をしても勝率は4割が関の山。
バグパーツを使っても1人では勝利を得ることが難しい。それほどまでに『レア』は優遇されている のだ。
暴走しているということは恐らく『憤怒』を発動しているのだろう。それだけならどうにか止める ことができるかもしれない。
ツパイが普段使っている神格級アイテムの完全装備をもってすれば。だが今こちらは文 字通り丸裸。勝算は無いに等しい。
「どうやって止めろと?あいつの強さはよくわかっているだろう?」
「はい。しかし畏れながら申し上げます。いくら暴走しているとは雖も隊長がツパイ様に手を出す可能性は万に一つも無いでしょう。お声をかけてくださればきっと正気に戻ると思われます」
(本当に声をかけるだけで元に戻るのか?そんな状態異常はNext Earthでは聞いたことがないんだが…いや、この世界はNext Earthとは違うと言ったばかりじゃないか!自分で考えた事を疑うなんて俺もどうかしているぞ)
「…わかった。だがその前に服を持って来い。あとこれを知ってるのはお前だけか?」
「いえ、オルガが奮闘しているはずです」
「急ぐとしよう」