ホリデイ day0.5
「ぐはっ!…まさか、この俺が!?」
(馬鹿な!?いくら素手とはいえこの俺がこうもあっさりと…信じられん。)
「ツパイ様本当に大丈夫ですか?いきなり叫び始めて、頭抱えて、それに私を殺そうとするなんて…私が誰だかわかりますか?」
「煩い、運営の犬め!本気の装備ならお前ごときに――ってお前は…エリザ?」
「はい。そうですけど」
「その所々おかしい敬語の使い方…俺の設定通りだ…えっ?本当にエリザ?」
「はい。エリザです。もう大丈夫そうですね、お飲み物を取ってきます」
(まさか俺の勘違いだったか…ふぅ、これで一安心、一安心。………ってちょっと待てよ、もうゲームは
終わったはずだろ?なんでまだ『ラビリントス』の自室にいるんだ?
それにエリザが、NPCのエリザが俺と会話してるだなんてありえない)
NPCと会話ができないことは当然だ。確かに言葉を発することはできる。AIに言葉をプログラミングすればいいのだから。しかし会話となると話は別だ。
『はい』『いいえ』で会話をつなぐことは可能だ。しかしエリザは自分から話しかけてきた。それに…感情が入っていた。
「エリザだけなのか?それとも他のNPCもみんな?それになんだよこの状況は、ゲームなんだろ?ゲーム…そうかログアウトすればいいじゃん」
俺はこんなに動揺していたのかゲームなんだからログアウトすればまた現実に戻れる。
(正直現実もつまらないが、こんな得体のしれない所にいるよりもずっとましだ)
だがその希望はたやすく砕かれる。
「ログ…アウトが…ない」
「エリザ、ツパイ様のご容体はどう?」
エリザを呼び止めたのは同じくメイド服を着た美女だった。
エリザが可愛い系の美女に属するのならば、この美女はお姉さんタイプといったところか。金髪碧眼、見たところ170センチほど。
身長の割に胸のあるエリザをはるかに凌駕するような双丘。
普段ならばおっとりとしている顔はツパイの異変によって引き締まっていた。名前はオルフィア・イドゥムラウ『Dr.モリト―』付のメイドである。
「うん、オルフィア。最初は話しかけても答えて下さらなかったけど最後はお話ができたよ」
「そう。よかった。ツパイ様は死の眷属の長にして最後までここに残られた御方。粗相をしてはだめよ」
「わかってるよ、私は一生懸命お仕えしているもの」
「…エリザ、オルフィア…大変」
遠くから駆け寄ってきたメイドはオルガ・スデースト 『ふぁらんくす』付きのメイドで身長は140センチくらいの小柄な女の子だ。黒目黒髪で日本人形のようだ。
体系を表すとしたら『ぺたー』『絶壁』『まな板』以上にふさわしい言葉はこの世に存在しないであろう。
『ふぁらんくす』。ギルド内でも頼れるおじさんで通ってきた彼は、メイドの要望を訊かれたときにその性癖が暴露。
以後数週間、メンバーの誰からも相手にされなかったという悲しい男である。
そのオルガがとてとてという音がふさわしい速度で走ってきた。
「オルガ、どうしたの?走ってくるなんて珍しいね。大変っていったい何?」
「…私が普段通り巡回で出かけようと外に出たら…外が違う」
「外が違うってどういうこと?もっとわかりやすくたんて――」
「オルガ、今の説明じゃ私もちょっとわからないから、もっと詳しく説明してくれる?」
「ん…ラビリントスはアブドラ山脈の最南端にある。…だから普通なら溶岩が噴き出していてとても熱いしいつでも赤くて明るい。…だけど外に出たら草原だった。緑一色」
「私たちだけじゃ判断がつきません。それに今ブラッディホリデイの指導者はツパイ様。ツパイ様にこのことを申し上げてご意見をお伺いしましょう。
エリザ、オルガ。私たちは死の眷属の偉大な方々に創造された身、絶対の忠誠を尽くしましょう。私たちがドラゴンだと思ってもツパイ様が蠅と仰るならばそれは蠅。
黒いものでも白と仰られるのであればそれは白いものです。そのことを忘れないように」
「…ん…了解。オルフィア」
「今の隊長である私が言うべきことじゃない?まあいいけど」