プロローグ4
「なんでお前はここまでついてきてるんだ?」
返答が無いのはわかっているが思わず訊きたくなってしまったのだ。
(しかしなんでいるんだ?こんなAIだったっけ?)
考えること数分、
「ああ、そうか。『付き従え』のままだったか。よしもう帰っていい――でもなぁ、1人で過ごすのもなぁ。エリザはNPCだからいてもいなくても1人に変わりはないけど…ふぅ『待機』」
「了解しました」
結局一緒にいることにした。別に2人だと部屋が狭いわけでもない。むしろ広すぎて困る。それに仲間がわざわざメンバー1人1人の要望に応えて作ったお付きのNPCだし最後くらいは一緒にいるか。という気分になっただけである。
『Next Earth』において、ギルドは幾つかの権利が与えられる。
その中に本拠地であるギルドホームを守るNPCというものがある。
これは例えば日本風の城であれば時代劇などで見かける足軽や武士という存在である。レベル35までのこれらのNPCは無限(一定の上限数に達するまで)に沸くし、別に倒されても何度も湧き続けるのでギルドに被害があるわけではない。だがこのレベルのNPCは他のギルドが攻めてきた場合、紙のようになぎ払われる可能性がある。
なおこれらのNPCは好きなように外装、武装を変えたり、AIを組み替えたりということができないようになっている。
それに対し、他の与えられる特典の中に戦闘のできるNPCを作成というのがある。(エリザやメイド隊も俺に属する)これは城を所持する程度であれば、600レベルを好きなように割り振ってNPCを作っても良いというものだ。
そしてこうして作れるNPCの場合、外装、AI、武装もいじることができる。しかしその代償としてもし倒された場合には復活させるために特別なアイテムや金貨が必要になる。またこのタイプのNPCを作り替えることは不可能でもある。
当然、人間以外の亜人種や怪物種で作っても良い。
(楽しかったな。ゲームが始まって何年になるか。いやそんなことはどうでもいい。あと5分で全て終わる)
時計は23:55を指した。それと同時に鐘が鳴りアナウンスが入る。
「Next Earthは本日で終了となります。繰り返しますNe――」
(今日で終わりってことくらいもうわかってる。無粋な奴め)
そう思いツパイはコマンドでアナウンスを切った。
「そうだ、最後くらい…」
自室の倉庫を探すとそれはすぐ見つかった。
「1度つけてみたかったんだよね」
それは所謂バグパーツというものである。
バグパーツとはシステムの穴や不備を利用して作られる武装やアイテム、魔法のことで、
例えば魔法なら7~1階級となっていてその威力や効果、範囲によって7~1までの階級が決まる(7が最弱)のだが、魔法にはもう1つ超級というものがある。
文字通り階級を超えた魔法なのだがこの超級には下限はあるが上限はないのだ。
よってどこまでも強い魔法を作って(プレイヤーは魔法や武具の生産、創造が可能)あちこちにばらまくという事件が発生。運営には苦情が殺到した。
この事件があってから運営はシステムを強化、バグパーツを見つけたら製作者でも使用者でも容赦なくアカウントを停止させることにしたのだ。
だが1人1人のアイテムボックスや倉庫を閲覧することは不可能なので、すべてのバグパーツが排除されたわけでもなく、ツパイの倉庫に残っていたというわけだ。
ツパイの所持するバグパーツは2つ。どちらもメンバーの『Dr.モリト―』が作ったもので(『Dr.モリト―』自身はバグパーツが見つかりアカウント停止になっている)1つが
タナトスの鎧
もう1つが
ハデスの兜
である。
効果はタナトスの鎧がプレイヤーを殺害した数だけ防御力が上がるというもの。さらにMPを100使うことにより自身の損傷部分の高速自動修復を可能にするというもの。
ハデスの兜は神話にちなみ透明化とカメレオン効果を究極にまで引き上げたもので自分の意志に応じて解除が可能という逸品だ。
ツパイはそれらを装備して鏡の前に立つ。
「結構似合ってるじゃぁないか。ポーズでもとってみるか」
23:59:58
23:59:59
24:00:00
「がぁっ、な…んだっ?バグの障害…か?う、がぁ」」
「ツパイ様!?」
聞き覚えのない声を聞きながら、俺の意識は落ちて行った。
1/6タナトスの鎧の効果を1部変更しました。