プロローグ3
『ラビリントス』は8階層で形成されている。
と言っても戦いに使えるのは1~5階層までしかない。
1~5階層は階層の壁をぶち抜いて、ギリシア神話に登場するラビリントスの名に恥じない超巨大迷宮になっている。
大抵の侵入者はこの迷宮から抜け出すことができずに死に戻りすることになる。
Next Earthで本拠地として作成されるギルドホームは1階層が4㎞×4㎞×4㎞の立方体ブロックになっている。それをわざと迷路のような道にし、罠を作り、だんだん体力の減っていく毒ガスを出す。
他のギルドが多少なりとも見た目にこだわって設計したのに対して、『ブラッディホリデイ』ではただ侵入者を倒すことに特化して設計したのだ。さらにそのブロックが5段重ねである。
その恐怖は1部のプレイヤーに「もう誰も助けに来てくれないんじゃないかと思った」とトラウマを残したと噂されるほどだ。
6階層はメンバーの趣味で作られた尋問室だ。
名前こそ尋問室になっているが尋問=拷問と考えるメンバーが多数いたために様々な道具が散らかっている部屋になっている。
リアルの職業がデザイナーのメンバーにレイアウトを頼んだところ、部屋の血痕や道具の血糊、錆びなどを完全に再現した『拷問室』になっていたので、
「この部屋に勝さる恐怖はなかろう」
と副ギルドマスター『ふぁらんくす』が呟いたこともある。
7階層はメンバーそれぞれの部屋及び仕事場である。
暗殺者のロールプレイングをしていたこのギルドは無差別にPKしていたわけではない。
いくらゲームとはいえ、いやゲームだからこそ誹謗中傷をしたり普段よりも横柄な態度、乱暴な口調になる人間はたくさんいる。
そんな人間の態度に憤りを感じる人もまた。しかし自分で解決しようとなると、これもまた難しいものがある。たとえばPKをすると名前の色が変化するので他人に避けられる。PKをした相手が今度は自分をPKしに来るなどだ。
そんな事態を避けるために人々は『暗殺ギルド』の『ブラッディホリデイ』に依頼するのだ。多少の金はかかるが誰が依頼したかわからず、自分がPKしたわけではないので名前に変化はないなど、後腐れがないので利用する人は意外にも多い。
仕事場ではその依頼の報酬を依頼者と話し合うなどの業務がこなされる。
当然トップレベルのプレイヤーと始めたばかりの初心者では難易度が異なる。
また標的が今どこにいて、その場所に行くまでにかかる時間や使った武器の修理代、騎竜や船の代金。
これらを吟味して報酬の交渉をする場所なのだ。
8階層は宝物庫で、PKした際のドロップ品や依頼料の金貨が所狭しと眠っている。
「はぁ、はぁ。思った以上に時間がかかったな…あんなにトラップが多いなんて…エリザは大丈夫か?」
「……」
何も答えないのは当然だ。そんなプログラミングをAIにしていないから。
「もうこんな時間か。部屋に戻ろう」
ステータスを開くと今は23:39。 24:00まであと少ししか残っていない。