プロローグ2
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
ホームに戻った俺を迎えてくれたのは1人のメイドだった。 自分付きのメイドで名前はエリザ・イェン。豊かな黒髪が流れるように肩から滑り落ちており、顔立ちははっきりとした美女だ。
160センチほどの肢体はすらりと伸び、汚れのない純白のメイド服を、豊かな双丘が押しのけんばかり自己出張をしている。
メイド服のエプロン部分は小さく、スカート部分は短いというどことなくメイド喫茶にいそうな服装で、容姿と服装が相まって子供が頑張ってお淑やかそうな大人に見せているような微笑ましい雰囲気だ。ギルドメンバー居住区の管理を任せられており、この階層の掃除や侵入者撃退を仕事とするメイド隊の隊長でもある。全メイドの数は10人だけだが。
立ち止まってしばらく見続けていると
「おかえりなさいませ」
そう、彼女はアバターではない。プログラミングされたNPCだ。
普段ならこのままギルドメンバー居住区の入口に、侵入者撃退のために置いておくのだが
(このまま置いておくのもかわいそうだな。今日は最後の日だし侵入者も来ないだろう。ほかのプレ
イヤーたちはそれぞれのギルドでお祭り騒ぎだろうし)
「エリザ、部屋に戻るぞ。付き従え」
「おかえりな――了解しました」
『ブラッディホリデイ』は大きなギルドではない。
他のギルド構成員の平均が30~50、ギルドランクトップ10に入るギルドでは3ケタ以上なのに対して『ブラッディホリデイ』10人だけだ。
ちなみに『ブラッディホリデイ』最盛期のギルドランクは11位である。
たった10人で構成員何百人に匹敵するギルド、それゆえに最凶とまで呼ばれたのだ。
暗殺者のロールプレイングをしていたために多くのギルドを敵に回すこともあったが、全ての攻略者をその都度叩き潰してきたのだ。
PKを繰り返したため、運営にイベント『暗殺ギルドを潰せ!』を開催されたこともあった。強制参加イベントだったので多くのプレイヤーが攻めてきたがそれでも何とか時間切れに追い込んだのはいい思い出だ。
タイムリミットがなければ落とされていただろうが。
しかし今はもうその最盛期の面影はない。ギルドランクは63位まで落ちてしまった。
だがそれも仕方がないことだろう。ただでさえ少ないメンバーもだんだんNext Earthから抜けて行った。他のゲームに目移りしたもの、リアルが多忙でinできなくなったものなど残っているのは3人だけだ。しかし残りの2人も数週間前からinしていない。1人だけか。そう思うと涙が出てきた。
このゲームは涙も再現できるのだ。その現実との区別ができないほどのリアルさが仇になってしまったわけだが。
(もうここには来れないのか…っそうだ)
「もう来れないなら目に焼き付けておかないとな…何千ものプレイヤーを排除してきた俺たちの家、『ラ
ビリントス』を。時間はまだある。エリザ、予定変更だ。『ラビリントス』入口に行くぞ」
「了解しました」