初陣2
「だがその前に…」
いくらゲームで殺しなれているとはいえ、いきなり殺人をしようとすると平和な日本で生きてきた俺も足が竦んでしまう。だがそんな『罪悪感』をもっていたらこの世界ではいきていけない。
『罪悪感』を無くすにはその行為に慣れればいい。それを日常にすればいい。心ではわかっていてもいきなりは無理だ。だからアイテムの力を借りる。懐から丸薬を取り出し口に入れて噛み砕く。唾液と混ざった粘りのある感触を、苦味と供に飲み下す。
「く、くくくく」
脳が痺れ、視界が赤く染まる。世界から音が無くなり、耳の奥で心臓の鼓動だけが早く大きく響き始める。身体が焔と化したかのように熱くなり、胸の奥からどす黒い衝動が湧き上がってくる。
「は、はははは、あははははははは!」
俺は哄笑を上げながら足に力を籠め一気に跳んだ。高々と天を舞い、しかし重力に捕らわれ、落ちていく。下に居るバルパスが斧を捨て、仲間から槍を受け取り構えたのが見える。
確かに上空からの攻撃に槍は効果的な戦法だ。一点を突くことだけに特化した武器である槍で突くことが出来さえすれば敵は自分の体重と勢いで勝手に深く突き刺さっていくということになる。
(俺には無駄なことだがな)
落下してくる俺を貫かんと槍を掲げる。
――その穂先に、俺は着地した。
いかに鋭い切っ先であっても隠密系統の中でも戦闘に特化した職業である『暗殺者』。その最上級職業である『マスターアサシン』のレベルをMAXにしているツパイが本気で体重を殺そうとすれば、体重は0になるため全く刺さらない。針の上にティッシュが1枚ふわふわと落ちてきたようなものだ。
「あはははっははあああ、楽しいぃいいいいい。もっと、もっと楽しませてくれよぉぉぉぉ!一緒に踊ろうよぉぉおお!」
「っ、この化け物が!?」
体勢を立て直し正面に立っている俺に槍を突きだす。勝算は無くとも、それをむざむざ受け入れるつもりはない。生き残るためにバルパスは化け物めがけて槍を振るう。
その哀れな抵抗をわざわざ受け入れる義理もないツパイは容赦なく自身の持っている武器の中で1番切れ味のいい『手刀』を振るった。
一閃の後、バルパスの視界がくるくる回り――
最後にバルパスが見たものは、頭を失った自分の体と何もない場所を突く槍の穂先だけだった。