プロローグ1
「いやー今日の狩りは大成功だったな」
「そうですね。あそこでNEKOMIMIさんが攻撃を引き付けてくれたからですよ」
「NEKO耳はいい奴だった…仲間を庇って死んであいつも本望だろう…、きっとこの狩りの成功を草葉の陰で喜んでるはずさ…きっと」
「まぁ死んだって言ってもギルドホームに戻っただけですけどね」
「それを言うなよ!いい雰囲気だったのに」
「…空気は読んだ方がいいぞ?」
「そのちょっと間がある話し方も空気読んでるとは言い難いですけどね」
(呑気なもんだ)
俺は今やつらの目の前に立っている。が全く気付かれない。いや、気付かれるはずもないのだが『いるのにいないと扱われる』ことは慣れているとしても若干寂しい。
(まあいいや。俺の狩りも成功まであと一歩)
「俺たちのギルドもここまで来たかと思うと感慨深いな」
「そうですね。『マルス』が結成されてからもう2年、やっとここまできましたか」
「…『竜の咢』は上位陣適正狩場、…此処のフロアボスを1人の犠牲で倒せたことは――」
「――何にせよ一歩前進か?お前普段無口なのに話し出すと長いんだよな」
「それは置いといて素材の分配始めましょう」
「ああ、そうだな」
「残念だけどそれは無理だと思うぞ?」
「なっ…」
「なん…で?お前はなぜ俺たちを…」
(まだ生きているやつがいたか。まあ特殊技能使ってないから当然と言えば当然…か?いや、そんなはずはない。いくら特殊技能をつかってないにしてもこの『絶影』ツパイ様の攻撃を耐えるなんて今やっと此処に来たやつらには不可能。ならば何故?)
「今考えることじゃないか。とりあえず…おやすみ」
彼が去った後には血の海に沈む1頭のドラゴンの姿しかなかった。
『Next Earth』
日本のメーカーが満を持して発売したVRMMO。元々は医療や軍事に使われていたこの技術が年を経るにつれて低価格化しゲームとして販売され家庭に一台となった今日、他のVRMMOとは一線を画すものが生まれた。それが『Next Earth』だ。『Next Earth』の人気の1つは圧倒的なデータ量だ。
なれる人種も人間や森人、鉱人に代表される基本的な人間種。
ゴブリンやオーク、トロールといった外見は醜悪だが能力は人間種よりも優れている亜人種。
モンスター固有の力を持つが色々な面で制約を受ける怪物種。等々300種。
さらに職業の数は基本や中級、上級職等を合わせて720。これに特殊な職業がプラスされる。
無論、前提条件等ではじかれてしまうためなれる職業はその3分の1程度にもなるがそれでも膨大な量だ。そしてこの職業は前提条件さえ満たしていれば、万能タイプのアバターも作成可能になる。
職業は最大で10レベルまでしかないため、一般プレイヤーの限界レベル、100まで成長したならどんな人間でも10以上は職業を持っていることになる。
つまり100個の職業を重ねることだってできるのだ。大抵器用貧乏で終わるだろうが。
意図して似せたものを除いて、同じキャラクターは作れないだけのデータ量。まさに第2の地球にふさわしい多種多様なアバターが作れるというわけだ。
そのほかにも運営からの2つ名譲渡やこのVRならではのやりすぎなくらいのリアルな風景、描写等でVR界での確固とした地位を確立したのだ。
だがそれも過去の話。